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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
16.それこそが、命の輝き
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16-20 甘ったれるのもいい加減になさい!

「ミルト……いいのか?」

「まあ、一回くらい奇蹟にすがるのも良いでしょう。マオ、薬を」

「毒味役だぞ? 失敗する可能性もあるんだぞ?」

「ソフィアが示した作り方なのでしょう? なら、大丈夫ですよ」

「そうか……そうだな」


 マオの言葉にミルトは笑い、差し出す薬を受け取った。

 ミルトの掌で血のような赤い霊薬が踊る。

 小瓶からあふれる不穏なマナに、ミルトは顔をしかめた。


「不味そうですねぇ。私に飲めますでしょうか?」

「世界樹の葉よりは不味くないだろう」

「田舎のランデル教会にそんなものがある訳ないではありませんか。勇者と一緒にされても困ります」

「そりゃそうか」


 マオとミルトがいつものように笑う。

 しかしそんなやりとりを心配な顔で見つめる者がいた。

 ウィリアムだ。


「不味いどころではないぞミルト。これは毒。それも猛毒だ」

「ウィリアム。薬というものはそういうものです」


 そんなウィリアムにミルトが微笑む。


「薬は体や心に影響を及ぼすもの。過ぎれば毒となり、毒も時には薬となります。ましてやこれは不老不死の霊薬。人を超える霊薬です。回復魔法や蘇生魔法すら及ばない場所に影響を及ぼす薬。猛毒なのは当然なのです」

「つまり、これが猛毒に見えるのは人ではなくなるから……と?」

「はい」


 ウィリアムの言葉にミルトは頷き、手にした小瓶を掲げた。


「この霊薬はソフィアやカイのように人の道を外すもの。エルフが作り人が受け継いだ、祝福によらない奇蹟」

「エルフが?」

「言葉をはじめとした人の知るあらゆる物事は全てエルフに源流があるのです。アトランチスの墓所にも書かれていたと聞いていますよ?」

「本当か? カイ」

「あー……ありましたね。確かに」

「えう」「む」「はい」


 賢い猿に言葉を与えて云々という墓標を思い出し、顔をしかめるカイである。


「そういやメリッサは霊薬の事を知ってたよな?」

「材料は知ってますが作り方や効果までは……ぷるっぴーぱ、ぷー」

「そうか。材料しか知らないのか」「ぷー」


 出会った頃に不老不死の霊薬の材料云々の話をしていた事を思い出したカイはメリッサに聞いてみたが、メリッサもピーも知らないと首を振る。


「あ、パレリの花をおひたしにして食べると美味しい事は師匠から聞いて「食べ物の話はしてないから」あうっ……」


 そしてそれは聞いてない。


「ま、ソフィアさんなら大丈夫だろ」

「えう」「む」「師匠ですもの」


 しかし、今はそれよりもミルトと不老不死の霊薬だ。

 カイは後でエルトラネの皆にも聞いてみようと、まるっと未来にぶん投げた。

 もし霊薬が見たままの猛毒だったならば、ミルトは間違いなく死ぬ。

 だから、それ故のランデルだ。


「ではミルト様、聖樹教本部に参りましょう」

「我ら全力の回復魔法と蘇生魔法でお守りいたしますぞ」


 押しかけた回復魔法使いたちがミルトに言う。

 回復魔法使いが多く住んでいる聖樹教の本拠地、ランデル。

 侯爵がウィリアムに白羽の矢を立てたのはヴィラージュだけではない。

 毒味役が誰であるか、失敗した場合でも毒味役を救えるのか、自分に及ぶ害や恨みを何とかできるのか……

 そこまで考えてのウィリアムなのだろう。


 害や恨みは最小限にとどめ、自分に及ばぬように仕組む。

 さすが百三十歳。伊達に長生きしていない。


「ふふ。それなら見たままの猛毒でも大丈夫ですね」

「はい」「皆がミルト様をお待ちしております」

「では、行きましょう」


 ゆらり……ミルトのマナが揺れる。


「お前らも回復魔法を頼むぞ」

「えう」「む」「もちろんですわ」


 カイはミルトのマナを細かく見る事はせず、歩きはじめたミルトの後に続いた。

 旧市街を歩き、新市街に入り、聖樹教本部へと皆で向かう。


「ミルト様」「ミルト様!」「ついにご決断なさったのですね!」

「不本意ですがあなた方の熱意に負けました。後で説教いたします」

「喜んで!」「ミルト様の説教なら何十年でも!」

「ふふふっ」


 道で歓声をあげる聖樹教の皆にミルトは笑い、聖樹教本部の中へと進む。


「ミルトさん、お待ちしておりました」


 講堂の壇上で待つのは聖樹教聖女ソフィア・ライナスティ。


「ソフィア、貴方にも後で説教ですよ」

「いくらでも喜んで。霊薬を改めさせて頂きます」


 壇上に上がったミルトからソフィアが霊薬を受け取り、栓を抜いて霊薬を確認してミルトに返す。

 ミルトが皆の方を向き、小瓶を掲げた。


「みなさん……」


 聖樹教の皆が息を呑んでミルトの次の言葉を待つ。

 しばらくの静寂の後、ミルトが口を開いた。


「これが私の最期の教えです」

「……え?」


 カイも、マオも、ウィリアムも、そして皆も……

 ソフィアを除く皆が、ミルトの言葉に唖然とした。


「ミ、ミルト……何を言って……」

「甘ったれるのもいい加減になさい!」


 マオの言葉を遮るようにミルトが叫び、霊薬を飲み干す。

 その直後、ミルトからあふれた強烈なマナに皆の視界が暗転した。

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