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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
16.それこそが、命の輝き
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16-19 マオ、ミルトを説得する

「なあ、ミルト……ダメか?」

「マオ……」


 皆が見つめるなか、マオは静かに語り始めた。


「俺ら、二人の時間ってあまりなかったよな?」

「どちらも忙しいですものねぇ……」


 マオは心のエルフ店店長、そして勇者。

 ミルトはランデル聖樹教協会の司祭、そして聖樹教を導く助言者。

 マオは王国とエルフの里を飛び回り、ミルトは聖樹教の後輩達に道を説く。

 二人が一緒に過ごす時間はミルトが店の手伝いに来た時くらい。


 それでも二人は良かったのだ……ミルトに天使の翼が現れるまでは。


「俺は心のエルフ店だし」

「えうっ」「ぬぐぅ」「すみません」

「エルフには土下座拉致されるし」

「えうっ!」「ぬぐぅ!」「すみません!」


 マオの多忙、だいたいエルフ絡み。


「二人で旅行とかも、まったくしてないじゃんか」

「そうですねぇ。遠出もカイに頼まれたものですし」「すみません……」

「エリザ世界で異界討伐とか」「本当に、すみません」

「アトランチスで天地創造とか」「本っ当に、申し訳ございません!」


 そしてミルトの遠出、だいたいカイ絡み。

 幸せ妨害カイ一家の土下座を眺め、マオとミルトはため息をつく。


「夫婦らしい事といえば、領館に二人で届け出をしたくらいか」

「ルーキッド様も苦笑いでしたねぇ」

「いつの間に……」

「えう」「む」「はい」


 法的に夫婦になった事を初めて知ったカイに、マオが呆れて言った。


「お前ら、俺らが何年付き合ってると思ってるんだよ」

「オルトランデルが異界に沈んだ時からだから……十六年か」

「結構長い付き合いえうね」「む。私達とカイは四年で式を挙げたから」「四倍ですわ。長すぎですわ」


 首を傾げるカイ一家。

 メリッサの言う通り、長すぎると言ってもいい。


「マオ、なんで式挙げてないんだよ」

「いやぁ、二人とも忙しくてな」


 マオは心のエルフ店、ミルトは聖樹教の仕事が忙しい。

 カイの問いにマオは頭をかいてミルトを見る。

 ミルトはにこやかに頷いた。


「それに私は老い先短い身なのですから、葬式とセットにした方が招待する方々も楽で良いでしょう?」

「……ミルト婆さん、そういうもんじゃないから」「あら」


 まさかの冠婚葬祭ワンセット。


 ミルト婆さん、自分の事になると変な事言うよなぁ……


 と、思うカイである。


「聖樹教の司祭がそんな事でいいんですか? 別々にやらなきゃダメでしょそれ」「ですが皆様の手間と出費が……」

「そこを気にしてたら死ねませんよ」

「お祭りはあればあるだけいいえう。エルネもカイとマオが揃っただけでお祭りえう」「む。お祭りはご飯食べ放題最高」「何回でも良いですわ。お祭りも結婚式も何回やっても良いですわ」

「そしてマオ、そういうのはお前が段取りつけろよな」

「えう」「む」「全くですわ」

「システィに言われるまで挙式しなかった上に丸投げだったお前が言うな」

「ぐっ……」

「そしてご飯に釣られたお前らが言うな」

「えうっ!」「ぬぐぅ!」「ふんぬっ!」


 ああもう、お前らホントに疲れるわ……


 と、マオはカイ一家にツッコミを入れた後、ミルトに向き直った。


「ミルト……お前に天使の翼が現れてからこんな事を言うのは我ながら情けないとは思うが、俺は未練タラタラだ。こいつらみたいにイチャコラしたい!」

「ぶっちゃけたな!」

「えう!」「む!」「はい!」

「俺は勇者だからな!」


 マオは勇者。

 いつ死ぬかもわからない戦いの中では、格好を気にする余裕などない。

 要求は的確に、行動は迅速に。

 それができない者は死んでいく。

 それが勇者の世界。


「今の生活だってそりゃ楽しいさ」


 マオは言葉を続けた。


「暇があれば互いに手伝い、エルフと一緒に飯を食う。こんな夫婦生活もアリかなと思ってた……でも、終わりが見えてしまうと欲が出てしまうもんだ。あれもしておけば良かった、これもしておけば良かったと最近は後悔しっぱなしだ。俺もお前も忙しくてそんな時間は取れなかったとしても、それでも色々と思ってしまうんだよ。お前もそうだろう?」

「……そりゃもう、色々ありますよ」


 マオの言葉にミルトが頷く。


「旅行も行きたいよな」「二人でのんびり買い物とか」「キャンプで釣りもしたい」「温泉もいいですねぇ」「子供……は、さすがに無理か」「ですねぇ」


 一緒の時間を過ごしたい。

 それだけの事もままならない。


 二人を取り巻く環境はあまりに多忙。

 そして二人は仕事の手を抜かず、投げ出す事もない。


 勇者と心のエルフ店はともかく聖樹教の立場はまだまだ不安定。

 二千年に及ぶ支配の歴史はそう簡単に覆るものではない。

 その中心にいるミルトの忙しさは、終わる時まで変わる事はないだろう。


「だから、不老不死の霊薬ですか。マオ」「ああ」


 だが、終わりを延長できるならどうだろうか。


「俺はお前に永遠に生きて欲しい訳じゃない。ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ長く生きて欲しいだけなんだ」


 マオの言葉に聖樹教の皆も叫ぶ。


「そうですミルト様!」「ちょっとではなくずっと生きてください!」

「そしてお前らはとっととミルトから卒業しろ!」

「「「ええーっ!」」」


 マオが聖樹教の皆に怒鳴った。


「ランデルに引っ越して何年経つんだよお前ら。長生きした時間は俺とミルトのもんだ! お前らには絶対やらんからな!」

「「「そんなーっ!」」」

「ええい! エルフみたいな駄々こねやがって!」

「あなた方……ありがとうございます」


 やがてミルトは観念したのだろう、深く頭を下げる。

 そして、マオを見つめて言った。


「……今回だけですよ?」

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

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世界樹エルフ
― 新着の感想 ―
[良い点] 旦那から言われたら仕方がないね、仕方がないよね(いい笑顔) [気になる点] ミルトには薬だろう。 しかしほかの人間にはどうかな?
[良い点] うん、いい夫婦だ ぜひとも二人でゆっくりしてほしい ・・・出来ることなら
[良い点] ナニコノ熟年夫婦? 羨ましい ホント今暫くで良いからゆっくりしてほしいわ
感想一覧
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