16-17 霊薬は、毒
「え……?」
「もう一度聞くが、これは本当に不老不死の霊薬か?」
「そ、そうですが……一体どうしたと言うのですか?」
首を傾げるベルモット。
マオはため息をつき、カイ達に聞く。
「お前らにはわかるな?」
「まあ、マナを見ればな……」
カイは頷く。
ミリーナ、ルー、メリッサが答えた。
「毒えう」「む。毒」「毒ですわ。それも命を脅かす程の猛毒ですわ」
小瓶の中の液体に見えるマナは禍々しく、異界のマナとは違う恐ろしさがある。
この禍々しいマナは、毒キノコに流れるマナと同種。
つまり、毒。
それも命を脅かす猛毒だ。
「毒!?」「そうだ」
驚くウィリアムにマオが頷いた。
「俺はエルフ共や姫さんほどマナは見えんが雰囲気でわかる。これは異界で見たら避けて通るたぐいの代物。マナが見える者なら絶対避ける代物だ。こんな禍々しいものを口にするのはエルフくらいだろうな」
「あー、そんな事あったなぁ……」
アトランチスでのエルフ勇者訓練。
エルフ達が食料に模した異界の罠にかかって全滅の危機を招いた事がある。
わかっていて食べるのだから全くアホである。
本当に食への執着半端無い。
「ですがこれはソフィア様に授けて頂いた製法で作られた、正真正銘の不老不死の霊薬。決して毒ではありません」
「あぁ。確かにソフィアが教えてくれたものだよ。あのソフィアがミルトを害そうなんて思う訳がない。だからきっと不老不死の霊薬なんだろうさ。だがなぁ……」
マオは頭をかきむしり、叫んだ。
「俺らはこれから毒とわかってる代物をミルトに飲んでもらわにゃならんのだ! 猛毒だぞ猛毒! ミルトならひと目で毒と見抜く! どうやって服用させるんだよこんなの! 全員正座で説教確定じゃんかよ!」
「そりゃそうだ」
ミルトは蘇生も使える回復魔法使い。マナを見るのはお手のものだ。
こんなヤバいマナを放つ霊薬を飲んでくれと言われて飲む訳もない。
事情を聞いても飲むかどうか怪しいものだ。
「そんなの簡単えう」「む。楽勝半端無い」「そうですわ」
「……どんなだよ?」
そして、こんな時に自信満々に答えるのがエルフ。
胸を張るミリーナ、ルー、メリッサにマオが問う。
「芋煮に混ぜるえう!」「そんなのにだまされるのはエルフだけだ!」
「焼き菓子ならワンチャン!」「同じだよ!」
「ここは竜牛肉、竜牛肉ですわ!」「だから同じだっつってんだろーが! つーかお前らどいつもこいつも食べ物で解決できると思ってやがるだろ!」
「当然えう!」「当たり前!」「常識ですわ!」
「……なあ、カイ」「なんだ?」
「お前のカミさん共、なんでこんなに自信満々なんだ?」「エルフだからだろ?」
「えう!」「むふん!」「ホホホ!」
確かにエルフならそれで解決だ。
しかしミルトは人間。エルフではない。
カイは妻達に言った。
「お前ら、人間はそこまで食に全振りじゃないんだよ」
「なら学会に依頼するえう!」「毒を美味しく頂く研究」「効果そのままにおいしさ倍増! 素晴らしいですわ!」
「本当に作っちまったらどうするんだよ!」
見抜けない毒とか怖い。怖すぎる。
そして作りかねないところがもっと怖い。
人間の農業技術をあっという間にブチ抜いていったエルフ農業学会ならば、そのくらいの偽装技術を開発できても不思議ではない。
「あいつら三度の飯よりご飯の事考えてるからなぁ……マオもそう思うだろ?」
「まったくだ」
エルフと人間では食への執念がまるで違う。
四六時中ご飯の事を考えている集団ひしめくアトランチスの食の怪物達はエルフの中でも選りすぐり。
食への執着半端無いトップランナー達なのだ。
カイとマオはしばらく唸って考え、そしてあきらめた。
「まぁ、こんな事を議論しても仕方ない。どうせミルトには筒抜けだからな」
「そうだな。ミルト婆さん次第だな」
回復魔法使いは普段から心を読んでいる訳ではないが、さすがに毒を差し出してこれを飲んでくれと言われれば心を読むだろう。
それが普通だ。
心を読める相手に隠し事や企み事は無意味。
心でぶつかるしかない。
見た目はアレでもこれはソフィアが素材を与え、製法を示した不老不死の霊薬であることは本当。
マオやウィリアム、ソフィア、カイ達がミルトにまだ生きていて欲しいと思うのも本当。
結局、ミルト次第だ。
「とにかく、ミルトの所に行くか」
マオが小瓶のひとつを手に取り歩き出した。
ウィリアムとカイ達も続く。
目指すはランデルの町外れ。
ミルトの家だ。
カイ達が訪れた時、ミルトは祭壇に祈りを捧げていた。
「あらマオ、カイ、ウィリアム、そして皆様……お作りになられたのですね」
祈りから立ち上がったミルトが小瓶を見て、静かに笑う。
そして、言った。
「不老不死の霊薬を」
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