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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
5.ベルティアの紡ぐ物語
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5-1 オルトランデル収穫祭

「よし、全員コップ持ったな!」


 オルトランデル、収穫祭会場。

 カイはエルフの皆を前にコップを掲げ、にこやかに叫んだ。


 取り巻くエルフの皆がコップで応え、カイににこやかな顔を返してくる……

 涎まみれだが。


 コップの中身は水である。

 ボルクの里の水魔法で楽に手に入る水はエルフでも痛みにくい便利飲料。

 カイ的には現地調達できるのが何よりも最高な飲み物であった。


 ビルヒルト討伐戦から一ヶ月ほど。

 カイと勇者達とエルフ達は延期にしてしまった収穫祭の準備を一から始め、食料と薪を新たに揃えて今、この場に立っている。


 怪我をした者はいたが死んで蘇生された者はいない。

 他は王女と聖女の恥ずかしくて死にたくなるような経験だけだ。


 聖女ソフィアはその体験を思い出したのだろう、コップの水を何とも微妙な表情で眺めている。


 そしてもう一人の犠牲者、王女システィはアレクに寄りかかって晴れやかな笑顔を浮かべている。

 もう全身幸せオーラ全開である。

 水ならいくらでも飲んでやるという気概に満ちていた。


 まあ、なんだ、おめでとう。


 カイは心の中で賛辞を送ると、再び口を開いた。


「エルネ、ボルク、エルトラネの皆様、待っていてくれてありがとう」

「なんのこれくらい」「む」「当然でございますよカイ様」


 馴染みの長老達がカイに頷く。


「そしてホルツの皆様、ビルヒルトでの異界討伐お疲れ様でした」

「礼を言うのはこちらの方だ。我らの森を取り返してくれてありがとう」


 ホルツの長老、ベルガが頭を下げる。

 ビルヒルトの森に住んでいたホルツの里の皆は、これで帰れると喜んでいる。


 だが、まずは収穫祭。

 一週間食い倒れ祭だ。


 カイはコップを手に皆に叫ぶ。


「このような短期間で異界を討伐できたのもひとえに皆の努力の賜物です。青銅級冒険者カイ・ウェルス。今、ここに皆様との約束を果たしにやって来ました!」


 おおぉおおおおめしめしめしめしめし……


 相変わらずの歓声が空気を震わせる。


 材料は万全、仕込みは終了、煮込みは過剰。

 用意した広場には煮込んだ鍋がしこたま並べられ、カイツー、カイスリーらがエルフが殺到するのを今や遅しと待っている。


 ビルヒルトのダンジョンの戦利品であるカイ・ウェルスはカイスリーと命名され、今はカイツーと共に奉仕の真っ最中だ。


 ダンジョンの主は相当強力な怪物だったらしく、カイスリーはちょっとした特殊機能を持っていた。


 分割である。


 頼むと増えるのだ。

 その分能力と密度が下がるがカイと同等の能力なら十体くらい分割できる。

 人手不足に四苦八苦していたカイにアレクが願ってくれた結果だ。


 アレクありがとう。でも奴隷だけは勘弁な。


 カイスリーの相変わらずのアレク願望に呆れつつも感謝の言葉は忘れない。

 おかげで収穫と配膳作業はすこぶる楽になった。


 あとはコップが、あのミスリルコップが何とか処分できれば……


 カイはそう思いシスティに掛け合ってみたが回答は相変わらずの保留一辺倒だ。


 役に立つからいいじゃない。


 と、システィは幸せそうにカイに言ったが勇者級は青銅級を理解していない。


 先日の怪物に一撃で殺されてしまうカイに役立つ訳が無い。

 コップを奪いに来た誰かが悠長に水を注がせてくれる訳も無い。


 誰にも見つからない隠し場所が無い以上、災厄を招くコップでしかない。


 ちなみにソフィアにミスリルのコップを見せたら悲鳴を上げて逃げていった。

 完全なトラウマであった。


 カイは歓声が静まるのを待ち、コップを天に掲げる。


「では、オルトランデル収穫祭を開始いたします!」


 おおおぉおおおめしめしめしめし!


 エルフらは我先にと指定された会場へと向かっていく。


 エルネとホルツは飛び、ボルクは滑り、エルトラネは身体強化で駆けていく。


 その姿はエヴァンジェリンのノミ取りのノミだったり、雪山のソリであったり、獲物を追う熟練冒険者であったり……

 それぞれの族が自らを活かす文化を伸ばして来たのがよくわかる。


 中でもホルツの長老ベルガ・アーツは土下座のプロフェッショナルらしく、素晴らしい高速低弾道土下座でトップを独走していた。


「えう! ご飯はいらないとか言っておいてプロえう。プロフェッショナルえう!」

「むむむ駆け引き、さすがプロ」

「なるほど。カイ様のご飯を食べないという台詞はこの時の為のブラフという訳ですね! ホルツ侮りがたし!」


 カイの周囲でご飯を食べながらミリーナ、ルー、メリッサがぐぬぬと唸る。


 エルフ文化はよくわからん……


 と、カイは理解を諦めてアレクらと同じ席についた。


 今日のカイの仕事はお休みだ。

 カイツーとカイスリーが全てを買って出てくれている。


 ありがとう、なんて働き者なんだよカイ。


 と自画自賛的に感謝して、いつもの煮込み過ぎご飯を口に入れる。


 ……うまい。


 カイが満足気に皆を見ると相変わらずシスティが睨み付けている。

 お前はもうアレクとイチャコラしてろよとカイは視線を返し、変わらぬご飯を食べていく。


「華やかなりしオルトランデルも、今は森の底……か」

「アレク、懐かしいか?」

「そりゃもう。下級の頃はここでカイと二人で頑張ったからね」


 背後に広がるオルトランデルにアレクが昔を懐かしむ。

 収穫祭会場は以前の開催予定地よりも奥まった場所、ランデルから徒歩で五時間のオルトランデル付近。

 これはエルフ絡みの問題を増やさない配慮だ。


 現在、王国ではビルヒルト以外にもエルフ絡みのトラブルが発生しているらしい。

 故に現在エルフ警戒区域で階級制限を受けたこの場での開催となったのだ。


 ビルヒルトの一件の他にも収穫祭絡みで王国は揺れている。


「さてと、皆も出払った事だし……真面目な話をするわね」


 ミリーナ、ルー、メリッサ以外のエルフが全て会場に移動した事を見計らい、システィは静かに話を切り出した。


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世界樹エルフ
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