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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
16.それこそが、命の輝き
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16-16 これは、本当に不老不死の霊薬か?

「ウィリアム様、そしてマオ様、カイ殿に奥様方、申し訳ない!」

「……ま、さすがに侯爵様がいきなり使う訳もないか」


 ランデル、薬師ギルド。

 土下座する金級冒険者のガロルドを前に、マオが頭をかき呟いた。

 伝承研究家のハインツ、薬師ギルドのベルモット、植物学者のクラークは侯爵の手の者と調合の真っ最中だ。


 ガロルドはその護衛。

 冒険者のガロルドは調合の場にいても何の役にも立たない。

 だからここでマオとカイ達に土下座しているのだ。


「さすが百三十歳。うっかり棺桶はないなぁ」


 カイもマオと全く同感。

 何しろ不老不死の霊薬は伝説にのみ存在する代物だ。

 その素材も、製法もあやふや。

 そんなものをいきなり服用する訳もない。


 誰かが欲しがるなら、その誰かに与えて確かめるだろう。

 それがウィリアムであり、ミルトという訳だ。


「ミリーナより五歳も若いのに大違いえう」「まったく侮れない」「ですわ」

「ミリーナなら毒味させずにご飯独り占めえう!」「同感。超同感!」「まったくですわ!」

「お前ら、切ねぇなぁ……ご飯じゃなくて、霊薬だけど」

「えう」「むふん」「ホホホ」


 まあ妻達の侯爵評は、今はおいておこう……


 と、カイは土下座するガロルドの前方、頭を抱えるウィリアムを見た。


「わかっていたのに頭を抱えるとは……父上が私をバカにする訳だ」


 毒味役とマオがぶっちゃけた事がよほどショックだったのか、ウィリアムは見事な落ち込みっぷりだ。


 カイもルーキッドと全く同感。

 相手は何せ百三十歳。人を超えた怪物だ。

 他者を実験台にするくらいは当たり前だろう。

 それを承知で受けたのなら、開き直る覚悟くらいは持っておけと思うカイだ。


 覚悟か……俺もミルト婆さんに覚悟を持てと言われたな。


 カイがミルトの背に死神を見たあの日、ミルトに言われた言葉だ。

 今はまだエルフに芋煮しか求められてはいないが、やがて人間に命の祝福を求められる日がくるだろう。


 その覚悟に関しては……後にしよう。


 カイはいつものように問題をまるっとぶん投げ、ウィリアムを慰める。


「ウィリアム様、そんなに気落ちなさらないでください。霊薬は間違いなく手に入るのですから毒味でも何でも良いではありませんか」

「そ、そうか」

「それにソフィアさんにとってはミルト婆さんにこそ服用して欲しいもの。それがなければ素材を渡す事すらなかったかもしれません。良い方に考えましょうウィリアム様」

「……そうだな」


 侯爵は不愉快だが霊薬は間違いなく伝説通りの本物。

 製法はソフィアがミルトのために用意したものだ。

 間違っても侯爵のためではない。

 侯爵にとってはミルトがついででも、奇蹟にとっては侯爵がついでなのだ。


「そうえうよ」「む。前向き大事」「ビバ、ポジティーブですわ!」「そういえば、そろそろお昼えう」「むむこんなところに真・焼き菓子様」「なんという幸運!」「「「ところでご飯はまだですか?」」」


 すまんマオ。


「……お前ら、せめて俺に言え」

「えう!」「ぬぐ!」「ふんぬっ!」

「まあ飯でも食ってた方が気が紛れるってもんだろガハハ。厨房借りるぞ」

「食材を用意するえう!」「ペネレイはおまかせ」「肉! 肉を買ってきますわ!」


 マオが鍋を手に厨房に向かい、ミリーナ、ルー、メリッサが飛び出していく。


「では、私も昼食まで警備の続きをいたします」


 ガロルドが一礼して部屋を後にする。


 後に残ったのはカイと頭を抱えたウィリアム。

 カイ、皆にウィリアムをぶん投げられる。

 割り切りの早い皆にカイは笑い、ウィリアムに手を差し伸べた。


「ウィリアム様、ご飯を食べましょう」「は?」

「私達はやるべき事をやり遂げたではありませんか。霊薬が完成するまで、のんびりご飯を食べて良いのですよ」


 素材は集めた。

 霊薬は調合中。

 ミルトの説得の主力はマオ。


 カイとウィリアムにできる事はもう、ないのだ。


「肉買って来たえう!」「肉汁にはペネレイ」「そして肉ですわ!」

「お前ら相変わらず肉だなガハハ」

「やっぱ肉えう」「肉最高」「絶対に肉ですわ!」


 ミリーナ、ルー、メリッサが用意した食材を、マオが料理してご飯を作りテーブルに並べる。

 さすがマオ。あっという間だ。


「さ、ウィリアム様。俺の妻達が食べ尽くす前に食べましょう」

「えうっ」「ぬぐっ」「ふんぬっ」

「……そうだな。腹が膨れれば色々落ち着けるだろう。全てはこれからだ」


 できる事がないなら腹ごしらえでもしておけば良い。

 皆でご飯を食べ、茶を飲み、片付けて待つこと一時間。


「できたぞ」


 調合部屋から出て来たベルモット達が、テーブルの上に小瓶を二つ置いた。

 血のように赤い液体の入った小瓶。

 ウィリアムがベルモットに聞く。


「これが、霊薬か?」「ああ」「ソフィア様にお教え頂いた製法はいたって単純だったからな。素材が伝説だから、誰も作れなかったのだろう」「余ったミスリルや魔石はお返ししなければな」「約束だからな」


 喜び語るウィリアム達。


「「「「……」」」」

「……おい」


 カイ、ミリーナ、ルー、メリッサは無言。

 マオが問う。


「お前ら……これは、本当に不老不死の霊薬か?」

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

書店でお求め頂けますと幸いです。


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世界樹エルフ
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