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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
16.それこそが、命の輝き
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16-11 ミルトの子供達

「客!」「歓迎!」「つまりご飯!」「しかもマオさんがいる!」「これはカイ殿も芋煮の出番!」

「「「ひゃっほい!」」」


 夕刻。

 エルネの里、カイ宅。

 来客にかこつけてエルネのエルフが広場中心のカイ宅へと押し寄せる。

 すでに広場は里の者が運んだテーブルと椅子が並べられて準備は万端。

 あっという間にお祭りムードだ。


 あー、ちょっと前に見た光景だなぁ……マオが来たときに。


 と、呆れ半端無いカイである。


「「「さあ! カイ殿!」」」

「ヴィラージュに行く途中に立ち寄っただけだから、そんなに大騒ぎするなよ」

「カイ殿、我らはエルフです」「知ってるよ」

「何でもご飯に繋げる種族!」「いや、そろそろ繋げない努力をだな……」


 しかしご飯を前に、エルフ達が退くはずもない。

 カイの前に現れたのはご飯の為なら『ミリーナえう』もこなすヒゲジジイ。

 エルネの里の長老だ。


「今よりカイ殿とマオ殿がそろった日を、祭りの日と定める!」

「長老!」「さすが長老!」

「アホか」

「食料庫を開けい!」

「長老ステキ!」「長老ラブです!」

「アホか!」

「ほっほっほ」

「つまりマオさんがエルネに住めば……」「ずっと祭り!」

「「「すごい!」」」

「エルネに住んで下さいマオさん!」「今なら三食昼寝付きです!」

「待て。俺のその三食は誰が作るんだ?」

「「「マオさん」」」

「自分で作るのかよ!」

「ほっほっほ」


 さすがエルフ、食への執着半端無い。

 またもや食料庫が開かれ貯蔵された食料とボルクの酒が大量に運び出される。


 そのうち冬を越せなくなるぞ……


 と、子供の頃に聞いた童話を思い出すカイだ。


「「「長老!」」」「「「姐さん!」」」「「「シャル!」」」「「「カイ殿!」」」「「「ルー!」」」「「「マオさん!」」」

「よかろう」『あらあら』『はぁい』「仕方ない」「む」「またかよガハハ」

「「「そしてお客人の中に料理のできる方はいらっしゃいませんか!」」」

「客に料理させんな」


 エルフ達が食材を差し出し、カイ達が鍋を構える。 


「カイ。これは一体……」

「ウィリアム様。エルフが歓迎の祭りを開いてくれるそうですよ」


 まあ、エルフがごちそう食べたいだけですが。


「「「さぁ! レッツご飯!」」」


 エルフが叫び、祭りが始まる。


 料理。ご飯。うまい。おかわり。酒。うまい。ひゃっほい。


 人もエルフも竜も世界樹も生物。腹は減るし喉も渇く。

 同じものを食べて騒げば祭りの友のできあがりだ。


「帰りに道端のエメリ草を、摘んでもよろしいでしょうか?」

「ベルモット、あんなまずいの食べるの?」

「いえ、マナ回復薬の材料に使うのです」

「「「ハラヘリはしっかり頂きます」」」

「ハラヘリ?」

「エルネの長老! 伝承を、エルフの伝承をぜひとも私めにお聞かせ下さい」

「ハインツ殿、我らはこれまで食べるのに精一杯でしてのぉ……そうだ。マリ姐の食の頭突き伝説ならいくらでもありますぞ」

『あらあらもっしゃもっしゃ』『のじゃ!』

「ほぅ、この里は二十年前のビルヒルト異界討伐に参加されたのですか」

「そうだよガロルド」「アレクを異界に送る手伝いをしました」「アレク、ひとりで主を討伐するんだもん」「すごいよな」「あの人とは戦いたくないね」「俺達その前にシスティとソフィアとマオさんを殺っちゃってたけど、蘇生と回復でチャラにしてくれて助かった」「カイ殿とアレクの友情に感謝だね」「「「ありがたや、ありがたや」」」

「……さすが最強勇者の方々。懐が深い」

「シャルロッテ様! 貴方のまずい葉を、くそまずいと商人が評していた葉を私に食べさせて頂けますか?」

『いいけど、まずいよ?』

「植物学者として通らねばならぬ道です」

『わかったよグラーク。はい、どうぞ』

「ありがとうございますもっしゃもっしゃ……まずい! まずすぎる! 信じられないくそまずさ! くっそ、くっそまず! 毒もないのにこんなくそまずい植物があるなんて! ぺっぺっ! えんがちょ! えんがちょーっ!」

『ひどいやーっ!』

「ウィリアム! バルナゥ様が我らに築かせたランデル領館、でかい心のエルフ店なのにご飯がでかくないのです!」

「えーっ……それは父上か、家主のバルナゥ様に求めてください」

「「「知らんと言われました!」」」

「えーっ……」


 ベルモットは入手の難しいエメリ草の買い取り交渉、ハインツはエルフの伝承収集、ガロルドは異界討伐の武勇伝に驚き、グラークはシャルの葉に悶絶し、ウィリアムは領館でのでかいご飯を懇願される。


 そんな中、ぶぎょーっ……と、ルーの鍋が鳴く。


「「「奉行芋煮、きたーっ!」」」

「む。今日も良い出来食べて食べて」

「さすがルーえう!」「さすがですわ。最高の奉行芋煮ですわ!」

「「「マーマの芋煮だーっ」」」

『美味しいですねもっしゃもっしゃ』『わぁい』

「「「ひゃっほい!」」」

「「「「「なにこの芋煮? 超うまい!」」」」」


 そして締めはカイの芋煮だ。


「「「これだよ。これがエルフ心の味だよ」」」

「えう!」「むふん!」「おいしいですわ。カイ様の芋煮はさすがですわ!」

「「「パーパの芋煮だーっ」」」

『あらあらもっしゃもっしゃ』『わぁい』

「「「ひゃっほい!」」」

「「「「「……適当な味だな」」」」」

「すみません。適当な味ですみません」


 食べて、騒いで、飲んで、踊って……


「カイ、今日はありがとう」

「礼なら長老と、エルネの皆に言ってください」


 祭りの後。

 月光照らす夜の広場で、カイはウィリアムの礼を受けていた。


 カイ一家は広場の片付け中。

 マオは長老に料理の指南中。

 ウィリアムを除く客人はカイの家で就寝中だ。


 家の中が実はシャルの胃袋なのは彼らには内緒。

 知れば恐れ、野宿を強行するだろう。

 当然ウィリアムにも内緒だ。


「そしてすまんな。カイの芋煮に皆で微妙な顔をしてしまって」

「いえ。適当なのは本当ですから」

「ミリーナはカイの芋煮が大好きえう」「だからダメ出し無用」「そうですわ。カイ様の芋煮はあれが良いのです……るるっぱぷー、ぷー!」

『『変えたら尻叩きです』』

『あらあら』『わぁい!』

「カイ、君は愛されてるな」

「ありがとうございます」

「当然えう!」「ラブラブフォーエバー万歳」「私もピーもカイ様といつまでも一緒ですわ……るっぷるっぷーっ」

『『当然です』』

『あらあら』『僕もー』

「……そうか。いつまでも一緒か」


 ウィリアムはカイ一家に微笑み、広場に作られたカイの家庭菜園に目を落とす。

 そこで栽培されているのはカイの原点、ありふれた薬草だ。

 ウィリアムは菜園に近付き、薬草の葉を撫でた。


「これは、あの薬草か?」

「はい。ありふれた薬草です」

「ランデル領民はこれの絞り滓のおかげで、寿命を大きく伸ばした」

「ランデルとミルト婆さんの努力の結晶ですね」


 衛生環境の悪さは病気の蔓延に繋がる。

 聖樹教の回復魔法使いに頼めば病気は癒やせたが、それには多額の寄進が必要。

 寄進できなければ当然癒やしてはもらえず、命を終える事になる。


 ランデルは薬草の絞り滓を使う事で領民の健康を維持し、奇蹟への出費を抑えて貧乏領地を何とかやりくりして来たのだ。


「カイ」「はい」

「私は奇蹟を広める事を、ありふれた薬草を摘んで薬や絞り滓を作る事と同じように考えている。カイは、違うと思うか?」

「いいえ……同じだと思います」


 カイはウィリアムに頷いた。

 しかし、それにはある条件を満たさなければならない。


「ただし、私たちが奇蹟と戦い勝利する事ができれば、の話ですが」

「……」


 ウィリアムが先を促す。

 カイは少し考えた後、言葉を続けた。


「私は冒険者をしていた頃、この薬草を摘んで生計を立てていました」

「そうか」

「これは、薬草と戦い勝利したからできた事です」

「……ああ、摘めるというのは、戦って勝ったとも言えるな」

「カイはありふれた薬草マスターえう」「む。ペネレイ鑑定マスターでもある」「その通りですわ。カイ様は薬草をちぎっては投げ、ちぎっては投げの連戦連勝の大活躍でしたもの」

「メリッサ、カイは薬草をちぎっても投げないえう」「カイはご飯の種を大事にする」「そ、そうでしたわ失礼しました。カイ様は薬草をちぎっては大事に袋に入れ、ちぎっては大事に袋に入れ、まさに鬼神のごとき大活躍でしたわ」

「どこらへんが鬼神なのかわからん……」


 ランデルではそれで信用を得たのだから、大活躍は否定しない。

 まあ、それはおいといて。

 カイは話を続けた。


「ミルト婆さんが言う通り人は人。神とは違います。ウィリアム様のおっしゃる事は手に届かないものを無理に取ろうとする子供の危険な遊びと同じなのではないでしょうか?」

「子供の危険な遊び……か。かつて聖樹教は聖なる武器を人に与え、竜をも討伐したというのに、か?」

「聖なる武器は聖樹様の一部。つまり神です」


 世界樹の葉も王国最強の聖剣グリンローエン・リーナスも、イグドラの一部。

 つまり、神だ。

 カイは続けた。


「人は神の力を借りて竜に勝利していたに過ぎません。だから聖樹様が天に還られてから竜は人の手の届かない存在となりました。マリーナのような幼竜は倒せるかもしれませんが、倒した者はバルナゥの怒りに滅ぼされることでしょう」

「……親しい者に長生きして欲しいと思うのは、いけない事なのか?」

「当たり前の事だと思います」

「そうだよな……当たり前の事だよな」

「しかし、それを欲するなら手段は二つ。できる者に懇願するか、戦って勝ち取るかです」


 持たざる者は持つ者を頼るか、自らの力で獲得するしかない。


「ランデルとビルヒルトは前者。奇蹟を隣人とし、エルフやオーク、世界樹や竜と友となる事を選びました」


 恐ろしさを知っていても、共に歩める事も知っている。

 互いに距離をとり、関わり、時にささやかな奇蹟を願い、授かる。

 出過ぎた事はせず、生活が便利になるよう互いに協力する。そんな関係だ。


「対してウィリアム様は後者。奇蹟をただの便利な力としてしか見ていない。聖樹様の力で竜が討てていた頃と意識はあまり変わらない。違いますか?」

「それは……いや、そうだな。竜もエルフも人ではない何かだと、仲が良いなら融通してもらえば良いと考えていた……と、思う」

「昔と同じように奇蹟を求めれば必ず奇蹟は天罰となり、我ら人を叩きのめすでしょう」


 神の贔屓のない人が奇蹟と戦えば、滅びる。

 もはやウィリアムが求めるような、人に都合の良い奇蹟は存在しない。

 あるのは神々のデタラメはっちゃけだ。


「神が人を贔屓する時代は、もう終わっているのです」


 そしてカイもそんな虫の良い奇蹟をホイホイ授ける気などない。

 カイはミルトを師と仰ぐ、ミルトの子供なのだから。


「……」「……」


 そしてウィリアムもまたミルトの子供。

 カイと同じ、自らの足で立ち歩くランデルの子だ。


 他力本願が他人次第である事くらい、よく知っている。

 ウィリアムは少しの沈黙の後、大きく息を吐き出した。


「カイは知っているよな。ミルトがもう、長くはない事を」

「はい」

「そしてミルトが奇蹟を受け入れない事も」

「……はい」

「奇蹟が当たり前になれば、ミルトも受け入れると思ったんだけどなぁ……」

「それはないでしょう。ミルト婆さんは頑固ですから」

「そうだな……結局、我らは地道に歩いていかねばならないという事か」

「はい」


 エルフの祝福もいずれは世界樹を守る対価となる。

 カイの力もいずれは失われるだろう……神々が興味を失えば、だが。

 人間はイグドラの力を失い本来の姿に戻った。

 そして近い未来、エルフも本来の姿に戻る。


 やがては全て、本来の姿に戻っていく。 

 いつまでも背伸びはできない。

 世界とは、そういうものなのだ。


「我らはいつか、竜に届くかな……」

「無理でしょう」「そうか」

『世界の格が上がるからのぅ。竜もまた強くせねばならぬ』


 人が強くなるという事は、世界も強くなるという事。

 それはこれまでマナがしょぼいと見ていた異界にとって、食べ頃の世界になるという事でもある。

 脅威もまた強くなるのだ。


 だから、竜と人の距離は縮まらない。

 竜は世界を守る盾なのだから。


 カイとウィリアムは月光に照らされたヴィラージュを見上げた。


「我らは準備が整い次第、ヴィラージュを登る」「はい」


 人の手が届かないものに、カイは手を貸さない。

 しかし人の手が届くなら、カイも協力は惜しまない。

 人の力で手にできるならそれは奇蹟ではなく、人が勝ち取ったもの。

 ご飯や薬と同じだ。


「まず求めるのは伝承にある不老不死の霊薬の材料の一つ、パレリの花の蜜。カイ、我らは勝てるだろうか」

「パレリの花……ですか」「?」

「いえ、何でもありません。きっと勝利できますよ」「そうか。カイがそう言うなら、勝てるだろう」


 カイは深く頷き、ウィリアムと二人で笑う。

 メリッサの尻ならパレリの花を咲かせられる事を、カイはウィリアムに言わない事にした。


 尻の花は愛で摘むもの。

 夫婦の秘密の花園だからだ。

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

書店でお求め頂けますと幸いです。


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