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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
16.それこそが、命の輝き
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16-3 死神

「ミ、ミルト婆さん……それは……」

「死神ですよ」


 驚愕するカイに、ミルトが静かに笑った。

 見るからに不吉。そして不気味。


 マナを見ることができる魔法使いなら、誰もがミルトの背に驚かずにはいられないだろう。

 年老いたミルトに憑いたそれはミルトの言葉の通り、まさに死神。


 しかし、違う。

 死神ではない。


 カイと神々との付き合いもすでに二十年。

 こんな細かい事ができる神はイグドラくらいな事も知っているし、イグドラとベルティア以外にこの世界の神が存在しない事も知っている。


 つまり、これは死神ではない。

 カイは笑うミルトの背後にあふれるそれをじっと見て、それの正体を知った。


「……魂?」

「あぁ、カイも回復魔法使いでしたねぇ……」


 カイの言葉にミルトは驚いたように目を見開き、笑みを深くした。


「肉体から離れつつある魂がそのように見えるのです。その意味は回復魔法使いにしかわからず、マナに敏感な者がそれを見ると不気味で不吉なものに映る。だから死神と呼ばれているのですよ」

「ミルト婆さん……」

「回復魔法では、どうにもなりませんよ」


 カイの言葉を封じるように、ミルトが言葉を続けた。


「これは人の魔法ではどうにもなりません。人の魔法はあくまで人の領分。人を超えた領分を変える事は出来ません。人の魔法は神が定めた姿に心身を戻すのが精一杯なのですよ」

「……」


 人のあり方は神が定めた事。

 それを超えるのであれば、人を超える者の祝福が必要。


 たとえば竜。たとえば世界樹。たとえば神……


 カイは右手を握り、左手を開く。

 今のカイなら間違いなく、それを解決できるだろう。

 そんなカイの左手を、近くで話を聞いていたソフィアが掴む。


「ソフィアさん……」

「それをミルトさんが望むなら、私がとうの昔にやっています」


 ソフィアがカイに首を振る。

 カイがそう思うなら、当然ソフィアもそう思った事だろう。

 そしてミルトに拒否されたのだろう。


 ミルトはソフィアとエヴァ同様、バルナゥの祝福を受けていた。

 しかし、ミルトはその祝福をバルナゥに返した。

 竜に並ぶ人生が、人の欲望にまみれる事を嫌ったのだ。


「私ももう九十。十分長く生きました」


 回復魔法使いだから今でも健脚なミルトだが、普通ならばエルネの里まで出向いて出産の手伝いなどできはしない。

 自ら体を癒す事のできる回復魔法使いだからこそ、ここまで元気なのだ。


「天から授けられた生を全うできる者はそうそういません。怪我や病気、そして戦いで失われていくものです。カイ、死神と呼ばれるこれを回復魔法使いが何と呼んでいるか知っていますか?」

「……いえ」

「天使の翼と呼ぶのです」


 回復魔法使いはその意味を知っている。

 だからそれを死神とは呼ばない。神の定めを全うした証と見るのだ。


「授けられた生を全うした者だけが放つ、天へと羽ばたく翼。私が看取った人でこれを見た人は数人だけ。それだけ珍しいことなのです。ですからカイ、そんな悲しい顔をするのはやめなさい」

「……この世界には、戻られるんですか?」

「それを求めるのは強欲というものですよ。カイ」


 カイの言葉をミルトがたしなめる。

 カイの言葉は世界に生きる者なら誰もが抱く欲望。

 そして人を超えた強欲だ。


「神は神。人は人。それぞれ道があるのです」


 ミルトはゆっくりと、カイに言い聞かせるように語りかけた。

 人、エルフ、竜、そして神。

 その全てと関わるのがあったかご飯の人。カイ・ウェルスだからだ。


「私も数え切れないほどの人々を看取りました。ソフィアと出会い、バルナゥと出会い、エルフと友になった後も多くの友人を看取りました。祝福の口ぞえを求められたのも一度や二度ではありません」

「求めた人がいるのですか?」「当たり前ではありませんか」


 死にたくない。ずっと生きていたい。

 それは誰でも思う事。それができるなら藁にもすがるのが人の性だ。


「それを断った私が祝福を求めれば、先に逝った人達に罵られる事でしょう。そしてこれまで以上に祝福を求められる事でしょう。私にその覚悟はありませんよ」


 ミルトがじっとカイを見る。


 あなたは、その覚悟を持ちなさい。


 心を読むまでもない。

 ミルトの瞳はカイにそう語っていた。


「祝福を受ければ人を超える事はできるでしょう。エルフならば千年、竜ならば星が滅びるまでの生を得る事ができるでしょう。神ならば永劫の生を得る事ができるかもしれません」

「はい」

「しかし皆を祝福する事はできません。そうでしょう?」

「……はい」


 祝福とは力だ。

 無限の祝福ができるほどの力は、竜にも世界樹にも神にもない。


 必ずどこかに歪みができる。

 そして不満が生まれる。

 人を超えた力は良い事だけをもたらす物ではないのだ。


「覚悟なさい。カイ」


 ミルトがカイに告げる。


「欲望を退ける強い意思を持ちなさい。懇願する者を切り捨てる無慈悲な心を持ちなさい。それができなければ、貴方の人生は人々の欲望に踊らされた醜いゴミとなるでしょう」

「……」


 カイは言葉もない。


「貴方は甘いですからねぇ……」


 ミルトはそんなカイにため息をつき、カイを見据えて言った。


「カイ・ウェルス。大切なものを守るために、強くなりなさい」

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