16-1 カイ、仕事をぶん投げられる
「……またか。バカ神どもめ」
朝。
エルネの里、カイ宅、寝室。
ベッドで右手を睨みながら、カイは忌々しく呟いた。
右手で受けて左手で出す。
火曜日の左手祝福の源流であるベルティアの祝福が、起きたらそのまま右手に宿っていたのだ。
相変わらずのはっちゃけにカイのため息半端無い。
『ミリーナとルーは避難させたよー』
「ピーは?」『心配していたよー』
『私の本体が申し訳ありません』『まったく、くっそ使えない本体です』『がぁん!』
『もっしゃもっしゃ……げっぷ』
シャル、祝福ベルティア、祝福エリザ、マリーナは右手祝福に対応中。
「……お前らがいてくれて助かるよ」
『僕、そろそろお腹いっぱいだよ』『私もそろそろ限界です』
『爪の垢パワーチャージもそろそろ限界』『爪の垢が爆発します』
「マリーナとシャルが満腹!」
『私達、これでも生き物ですので』『ひどいやー』
カイが寝ている間に対応してくれた皆にカイの感謝半端無い。
カイは左手祝福をうまく調節して、あふれる祝福を止めた。
気を抜くと、あふれる。
というか右手祝福を左手祝福に流して右手祝福と相殺しないと周囲にあふれる。
祝福で祝福を殺す。
なんという無駄祝福……
と、カイの呆れも半端無い。
「なあ、イグドラ……」『なんじゃ?』
「俺……爆発すんじゃね?」『余が防ぐのじゃ』
「防がないと爆発するんかい!」『のじゃ!』
以前左手祝福を使いまくった時に左手が爆発した事を思い出し、カイは叫ぶ。
爆発といえば芋煮だが今回は神の祝福。
爆発すればどこまで被害が行くか分からない。
危ない。超危ない。
「というか今度は一体何なんだ?」
『最近忙しくてのぉ……えう世界不可侵協定のおかげで』
「うっ……」
イグドラの言葉にカイが呻く。
『ベルティアもエリザも協定参加の神々のはっちゃけ対応にてんてこまいでのぅ、忙しくてカイを愛でるヒマがないと仕事をちょっとばかしぶん投げおったのじゃ』
「仕事? これ仕事をぶん投げられたの?」『のじゃ』
「いつものはっちゃけ祝福じゃんかよ」『神の力は仕事をする為の道具じゃぞ。汝は何だと思っておるのじゃ』
「……はっちゃけ?」『否定出来ぬ所が辛いのぅ……』
仕事をぶん投げたら投げ返してきやがった……
何とも厄介な神々だと思ったカイたが今回ばかりは強く言えない。
ぶん投げたのははカイだからだ。
ベルティアやエリザはカイの意を受けて神々と交渉し、エリザ世界に訪れたがおーさんやわれーさんをそのまま世界に戻してくれた。
エリザは世界を食われていたにも関わらず、だ。
「で、俺は何をすればいいんだ?」
その頑張りには応えねばなるまい。
カイは深くため息を付き、イグドラに聞いた。
『お? 手伝ってくれるのか?』
「いつも手伝ってるだろうが」『そういえばそうじゃのぅ』
「というか、何かしないと俺の周囲に祝福があふれて危ない」
危ない祝福とか謎過ぎるが、事実だから仕方がない。
神の力は人の手に余る代物。
あふれるならどこかで使わないと危ない。
だからカイは神々がはっちゃける度にランデルを出入り禁止にされたりアトランチスに出向いたりするのだ。
カイの言葉にイクドラはうーむと考え、告げた。
『そうじゃの……せっかくじゃから世界の穴埋めでもしてもらおうかのぅ』
「じゃあビルヒルトの穴でもちまちま埋めておくか」『それが良いじゃろうな』
「というかお前らしっかり穴埋めしろよ」『余以外の者では細かくて無理じゃ』
「このヘタクソどもが!」『そして余はぺーぺーじゃから余裕がないのじゃ!』
「このやろう!」『のじゃ!』
薄ければ破られ、濃ければ貫く。
なんとも厄介な世界である。
ぶん投げたくても神の大雑把さで世界を穴埋めすれば間違いなく異界を貫く。
なんとも厄介な神々である。
「そういえば、世界を貫かない事もできるのか?」
『重くなった世界を放っておくと、最後には光すら吸い込む窪地ができる』
「危ねえっ!」
いわゆるブラックホールである。
そんなものができるなら、協定に参加する世界を貫いた方がマシ。
さらに言えばカイ達世界の存在がちまちま穴埋めした方がマシだ。
カイは行商を再びカイズにぶん投げる事に決め、ベッドから起き上がった。
『カイズからも流せるからの。世界中の穴埋めに精進してくれい』
「まるで神だな」『のじゃ』
存在を多重化して億兆もの処理を同時にこなす単一存在。
それが神だ。
カイはひとりだがカイズもカイに含めば多重存在。
神と似たようなもの。
カイズでも穴埋めできるなら世界の穴埋めもスムーズに進むだろう。
「そういえば、穴埋めの必要があるのはこの星だけじゃないよな? どうやって移動すればいい?」『他の星は、ここ程ひどくはない』
「なんでだ?」『ここは三億年前に集中攻撃を受けたからのぅ』
「また三億年前か」『その後は余がはっちゃけたからのぅ』「お前もか!」
異界の集中攻撃、そしてイグドラ。
つくづく不幸な星である。
『そして余の力を得て欲をかいた者共が、世界を荒らしたからのぅ』「……」
かつての聖樹教だ。
『そう考えると異界の顕現とはやりすぎた者への罰と言えん事もない。食い過ぎれば逆に食われるという訳じゃ』
「……やり過ぎる前に止めろよ」『それは世界の者がする事じゃ』
カイとイグドラが会話しながら寝室のドアを開き、居間へと入る。
カイを待っていたミリーナが椅子から立ち上がり、叫んだ。
「生まれるえう! もうすぐミリーナの弟が生まれるえうよ!」
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