15-39 面倒はまるっと神に投げ返す
「はい、フィレオル世界の皆様お待たせしました。釈放です」
エリザ世界、シャル捕虜収容所。
カイは抑留された異界の怪物と主達に、芋煮おたまを手に告げた。
『おお!』『ついに我ら帰還の時!』『でも……我らの神はお怒りではないだろうか』『我らケチョンケチョンだったもんな』『おかげで痔になった』『俺もだ』
カイを前にフィレオル世界の怪物達がどよめく。
異界との戦いは、カイ一家の圧勝だった。
ぺっかーと輝けば土下座不可避なのだから負ける訳もない。
皆で尻を叩いて叩いて叩きまくり、それでも折れない怪物達にはお前達の神に話を付けてやるからと説得してシャルで囲い込んだ。
ここまでされても折れない怪物がいたのは、神に心酔しているからではない。
神を恐れているからだ。
怪物達は神の導いた戦いに敗れた天罰を恐れている。
今や自らの世界の神の方がエリザ世界よりも怖いのだ。
だからカイはイグドラ経由で向こうの神と交渉してもらい、怪物達が無事帰れるように話を付けてもらった。
「お前らの神とはちゃんと話を付けたから安心して戻ってくれ」
『あ……ありがとうございます!』
「もし天罰が下ったら神の世界でイグドラかベルティア、エリザを訪ねて訴えてくれれば破格の賠償をふんだくってくれるそうだ」
カイ、根本的な解決は神にぶん投げる。
もともと神々の問題なのだからぶん投げるではなく投げ返すが正しいだろう。
神々の損得勘定をぶん投げるなと、まるっとイグドラ達に投げ返したのだ。
ここで奮闘したのがエリザ世界の神エリザ。
エリザ世界が異界の侵略を受けるのは、異界の神々がエリザ世界を狙うから。
だから神をどうにかできれば侵略は確実に減少する。
『食われまくりの自分の世界を救う絶好の機会えう!』
エリザはベルティアとマキナに土下座しまくって協力を取り付け、侵略してきた神々に土下座しまくって協力関係を確立し、世界に問題がある神にはベルティアに指導を行ってもらい、協力を拒む神にはマキナに世界ぶん投げをちらつかせてもらった。
自らに力がない事をさらけ出し、恥も外聞もなく周囲の神に頭を下げて回る。
必要ならばどこまでも頭を下げる。
神エリザ・アン・ブリュー、成長の証だ。
そんなこんなで奮闘したエリザは異界の神々と議論の末、とある協定を結んだ。
『神をこき使う……あったかご飯の人、なんて恐ろしいお方だ』『こんなお方を敵に回していたとは』『痔で済んで良かったぜ』『全くだ』
「使えるものは何でも使うもんだ」
『『『さすがあったかご飯の人えう!』』』
「お前らもえうか!」
えう世界不可侵協定。
イグドラが笑いながらカイに語ってくれた、神々の協定の名前だ。
えうを叫ぶ世界同士では可能な限り戦わない事を神々の間で定め、他の異界の侵略には互いに協力して対抗する事を定めた。
いわば、神々の連合。
「えうを使ってだまし討ちとか、ないよな?」
『異界のえうには意味が宿るからのぅ。欺す気ならわかるじゃろ』
「あー。そうだったな」
『ま、エルフ共のように飯に目がくらむ事はあるかもしれんがのぅ』
「えうっ!」「ぬぐぅ!」「ふんぬっ!」
異界のえうは世界のえうに変換される際に理解しようという願いに応えて相手の意思をも変換する。
バカにしたえうや欺す気満々のえうは聞けば一発。マナ変換万歳である。
「さすがえうえう!」「ここまで出世するとは」「さすがですわ!」
『あらあら』『わぁい』「わふんね」
カイの家族は大喜び。
そんな一家に苦笑いしながら、これはこれでいいやと思うカイである。
殺伐とした関係よりもえうえうな関係の方がマシ。
協力して利を得られるならえう万歳だ。
これから帰還するフィレオル世界の怪物達は新たな世界の枠組みを世界に伝え、広げる者達。
いわば、えう伝道者だ。
『それではカイ様、我らは失礼いたします』『あったかご飯の人の武勇伝、えうと共に世界に広げてまいります』『痔も一生、大事にいたします!』
「いや、痔は早く治せよ?」
カイは芋煮鍋をかき混ぜながら、帰還する怪物達を見送った。
彼らは言葉の通り、えうを広げていく事だろう。
そして世界同士がえうの元に協力し、互いを助けて豊かになるのだ。
世界同士が争わねばならない理由などない。
ベルティア世界とエリザ世界のように、互いが利用し協力する形でも良い。
どの世界と繋がるかは神の自由だが、どんな形で関わるかは住む者達の自由。
神もそれに利があれば、無用な干渉はしないだろう。
「いやぁ、何とかなるもんだな」
「三年かかったえう」「む。エリザ世界もすっかり慣れた」「長い行商でしたわね。カイ様」
カイは芋煮鍋を眺め、笑う。
エリザ世界ももう三年。
今日は子らの十歳の誕生日だ。
ときどき帰ってはいるものの、一家はほとんどエリザ世界。
カイズにぶん投げた商売はアルハン、ダリオ、システィらがあれやこれやと手を出した結果、わずか三年でエルフとの商売を一手に担う大商会へと発展した。
カイ・ウェルス。本人が知らない間に王国屈指の大富豪。
本人いないのに破格の税収にルーキッドも苦笑いだ。
お前ら、俺がいない間に何してるんだよ?
と、鍋をかき混ぜながら思うカイである。
そしてカイの子ら、イリーナ、ムー、カインは……
『ぬぉう!』『昼!』『芋煮どき!』
カイが芋煮を煮込む脇を、えう冒険者のオーク達が駆け抜けていく。
『お前ら、誰も死ななかっただろうな?』『華麗にとんずらしてやったぜ!』『強い奴だと思ったらとんずら!』『基本だな!』『ナイス!』
まだ全ての異界との交渉が終わった訳ではない。
そして神々は掃いて捨てるほどいる。
えう世界不可侵協定を知らずに侵略して来る神々もまだまだ多いのだ。
だからエリザ世界の異界顕現は、しばらく続くだろう。
えう世界不可侵協定の真価を問われるのは、これからだ。
『間に合ったぜ!』『ギリギリセーフ!』『俺の腹時計も、正確になったもんだ』
えう冒険者達が収容所の一角にえうえう集まっていく。
『みんなーっ、はじまるよーっ』
そこに立つのはシャル映像機。
てってってー、てってってれーっ……
軽妙な音楽と共にシャル映像機が映像を映し出す。
おぉおおおおおえうえうえうえうえう……
集まったオーク達が喝采を叫び、えうが収容所を揺らす。
「「「ぶーさん達、こんにちはー!」」」
『『『こんにちはーっ!』』』
映し出されるのはカイの子ら、イリーナ、ムー、カイン。
その姿にオーク達が絶叫する。
カイの子、エリザ世界の超アイドル。
シャル映像機から流れる映像にエリザ世界のオーク達は釘付けだ。
「お昼の芋煮どきの時間だよーっ」「今日の芋煮はいつもと違う」「この前のシャル宿の近くにエリザ世界の盾が住む山があると聞いて、来てみましたーっ」
子らは変わらずぶーさん大好き。
シャル宿と町を巡る毎日だ。
これまでと違うのは、その姿を世界の皆が見られる事。
そして、いずれは自分達の所にも来る事がわかっている事だ。
訪問スケジュールは一年前から決まっており、子らはそのスケジュールでぶーさんの町やシャル宿を訪問して芋煮をご馳走するのだ。
『まだまだえうも知らない田舎異界は多いからな。お前ら絶対死ぬなよ?』『この前の芋煮どきは冒険者の死者が出たからわんわん泣いちゃって、近隣のシャル宿が討伐部隊を出したもんなぁ』『俺も三日以内の距離ならぶん殴る』『俺もだ』
映像を食い入るように見つめてオーク達が呟く。
この映像はシャル映像機がある町とシャル宿全てに流れる。
だから子らがどんな事をしたのかも皆に筒抜け。泣かせれば仲間からの尻叩きが待っている。
崇拝する子らの為に、決して死ねないぶーさん達だ。
『今のブームはとんずら!』『勝てない相手は華麗にスルーッ!』『そしていつかはリベンジだ!』『カイ様を見習おう!』
「……」
いや、何でもかんでもとんずらはダメだぞ?
オーク達の叫びに苦笑いのカイだ。
「竜さーん」「竜」「いますかー?」
『……誰?』
子らが歩く山の中の洞窟の奥、呼びかけにひょっこり顔を出したのは幼い竜だ。
『あー、こんな奴いたなぁ』『忘れてた』『俺もだ』
「お前ら、ひでえな」
オーク達、世界の盾を忘れ去る。
そんな様にツッコミを入れるカイである。
「世界の盾の竜さんです」「竜」「こんにちはー」
『……こんにちは』
「あまり洞窟から出てこないと聞きました」「大丈夫?」「異界とは戦わないのですか?」
『当たり前じゃん! どんだけの異界と戦わなきゃいけないのさ! 生まれたばかりなのに勝てる訳ないじゃん!』
子らの言葉に幼竜がわめく。
そんな様に思い出したように頷くオーク達だ。
『そうそう。てんで役に立たないんだよな、こいつ』『異界にケチョンケチョンだったよな』『挙げ句の果てに泣いて逃げた』『使えねぇなぁ』『ああ』
「お前ら、生まれたてに無理難題を押しつけすぎだ」
『イリーナ様は強かったですよ』『ムー様だって強かった』『カイン様も』
『愛芋煮兄貴も強かった』『兄貴ーっ!』
「それは俺らの願いで生まれた存在だったからだよ。一緒にするな」
ぼやくオーク達にカイが再びツッコミを入れる。
マリーナ、ビルヌュ、ルドワゥも生まれた頃は弱かった。
シャルも生まれた頃は弱かった……たぶん。
ベルティア世界の盾すらこれなのだから、エリザ世界の盾も生まれた頃は弱いだろう。世界の盾だからと多くを求めすぎたのだ。
「まあまあ、芋煮どうぞ」「芋煮で幸せ万歳」「えう世界不可侵協定が結ばれたから、これからはもっと楽になりますよ」
『もっしゃもっしゃ……本当?』「「「わぁい!」」」『わ、わぁい』
子らが振る舞う芋煮を食べる幼竜。
『竜を立ち直らせたぞ!』『さすが芋煮三神!』『生まれ変わっても我らの救いの神は変わらず!』
そんな子らにオーク達は大喝采だ。
「これからは引きこもってないで、世界を守ってください」「世界の盾がんばろう」「みんなも応援してるから。ね?」
『う、うん……異界が減るなら、頑張るよ』「「「わぁい!」」」『わぁい』
「そんな竜さんにプレゼントです」「すごいぞ」「わぁい」
『どうも。プレゼントの祝福エリザです』
子らの背後からひょっこり現れたのは祝福エリザ。
『『『すごい贈り物したーっ!』』』
そんな子らに叫ぶオーク達だ。
『鍛える気だ!』『さすがは我らの神!』『バッキバキにしてやってください!』『痔待ったなし!』『これから奴を痔竜と呼ぼう』『痔竜か』『ナイス!』
祝福を背に乗せ尻からブレスを吐く痔竜、ここに爆誕。
背を向けた時が最も恐ろしい竜の誕生であるが、そうなるのは子らの知らないはるか未来。子らの知ったこっちゃない。
画面の先で祝福エリザが笑う。
『ふっ。私が来たからには役立たずとは言わせません。立派な竜に育て上げて見せましょう。あなたの願いを叶えます』
『もっしゃもっしゃ、よろしくお願いします』
ぶぉん、ぶぉん……
祝福エリザは平手を振りながら宣言し、洞窟暮らしで何も知らない幼竜は芋煮を食べながら素直に頭を下げる。
知っていたら即座にとんずらしていただろう。
ひきこもりの悲劇であった。
「それではお昼の芋煮どきはこれでおしまい」「次は三時の芋煮どき」「またねーっ」
『『『またねーっ!』』』
子らが手を振り、オーク達がにこやかに手を振り返す。
子らの前ではやさしいぶーさん。
しかし映像が消えればえう冒険者の顔だ。
『次は三時間後だな』『じゃあ異界行くか』『適度にぶちのめしておかないとナメられるからな』『田舎異界にえうを叩き込んでやれ!』
おおおおおおおおぉえうえうえうえうえう……
オーク達が歓声を上げながら異界へと突入していく。
しかし彼らは三時間後、またシャル映像機の前で叫んでいる事だろう。
彼らはやさしいぶーさんなのだから。
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
書店でお求め頂けますと幸いです。
誤字報告、感想、評価、ブックマーク、レビューなど頂ければ幸いです。





