15-38 神と人は、歩む道が違うだけ
「あいつらは、バカだぞ!」『『がぁん!』』
言い放つカイに祝福ズがショックに叫ぶ。
カイは祝福ズに苦笑いしながら、呻く怪物達に祝福ズを示した。
「こいつらを見ろ!」
『神の祝福ベルティアです』『神の祝福エリザです』
「これが神の祝福、そして神の姿だ。俺らと大して変わらんだろ!」
当然だが、怪物達も主も認めない。
『そんな奴ら認めぬ!』『神とは偉大なもの!』『神がそんな矮小なものか!』『神の尻叩きなど聞いた事もない!』
ぶぉん、ぶぉん……
そんな彼らに祝福ズは、意気揚々と平手を振りはじめる。
『わからぬようなら尻を叩いてわからせるまで』
『神と認めて退くまで尻を叩いてさしあげましょう』
『『『ひいいっ!』』』
べちんばちんべちんばちんばちんべちんべちんばちんばちんべちん!
エリザ世界、またまた尻叩きの嵐。
『どうですかー?』『わかりましたかー?』
『わかりました!』『神! もう神でいいです!』『これが天罰!』『おお神よ! 尻叩きの神よ!』『我ら退きますから尻叩きはもう勘弁!』
あまりの尻叩きに、何割かの怪物が悲鳴を上げて異界へと退いていく。
カイは退いていく怪物達をしばらく見つめ、これ以上は退かないなと思った頃に祝福ズの尻叩きを止めた。
「こいつらのアホさ加減を見ろ! 中身も俺らと大して変わらん!」
『『がぁん!』』
ショックに叫ぶ祝福ズに構わず、カイは叫び続ける。
「神の祝福だってこんなものだ。世界だってこんなもの。神は決して全知全能な存在じゃない! 神は確かに超常の存在だが、中身はバカだ!」
そう。
全知全能なら世界がこんなに面倒臭いはずがない。
神は世界を耕し富ませる存在。
全知全能ならのっぺりした世界で、道具のような何かが耕し富ませているだけの世界となるだろう。
数多の生命や雄大な自然、星々の巡りは全て神の試行錯誤の結果なのだ。
「神だって間違える。アホな事やってつじつま合わせもする。どうしようもなくなって途方に暮れたりもする。泣くしいじけるし余計な事するし色々始末に負えん奴らだ!」
『泣きますね』『いじけますね』
『『ですが余計な事なんてした事はありません』』
「お前ら自身が余計な事だろうが!」『『がぁん!』』
「そう思われたくないなら神から自立しやがれ! 成長して神離れしろ!」
べちん!
カイが祝福ズの尻を叩く。
成長とはひとつの事にこだわらない事。
目的によって手段を使い分ける事。
経験を積めば視野が広がり、目的に達する手段がいくつもある事に気付く。
適した手段を選択する事が成長。
自らそれを選び目的を達する事が自立。
祝福は祝福。神は神。
それぞれ違う道がある。
「神に何でもかんでも押しつけるな! 御心なんぞ忖度してどうする! 神が間違えるなら俺達がする事は正す事。それができないなら避ける事だ! 退け! とっとと退きやがれ!」
人と神もそれは同じ。それぞれに違う道があるのだ。
『『『ぐ……うっ……』』』
カイの叫びに退くものもいる。
カイの力に退くものもいる。
『……退けるものか』
しかし、退かない者もいる。
異界の主の大半、そして怪物の中でも強き者はカイの言葉に屈しない。
彼らは土下座から立ち上がり、武器を構えた。
『異界の者が語る神など、我らは信じぬ』
「この、わからず屋どもめ」
迫る彼らにカイは毒づき、ミリーナ、ルー、メリッサはいつものようにカイを囲む。
「カイはミリーナが守るえう!」「カイはへなちょこ妻がんばる」「カイ様、回復はこのメリッサにお任せを!」
「いやぁ、もう俺の方が強いから。お前達は子らを頼むよ」
「カイはへなちょこえう……」「ぬぐぅ、成長しすぎ……」「あぁ、あのか弱いカイ様がこんなに強くなって……ぺまー……」
しょんぼりな妻達とは対照的に子らは大はしゃぎだ。
「パーパ!」「ぺっかーして!」「あったかご飯の人!」
「よぅし、まかせろ!」
子らの頼みとあらばカイもノリノリ。
大きく息を吸い込んで、世界に叫ぶ。
「あったかご飯の人だーっ!」
「「「ぺっかーっ!」」」
ぺっかーっ!
『ぬううおおおっ!』『ま、またこの輝きか!』『ど、土下座など……ぐああっ!』『すみません。世界を荒らしてすみません』
カイの輝きにひれ伏した怪物と主が土下座しながら退いていく。
エルフ程ではないが、なかなか器用な土下座っぷり。
しかし相手は違う世界の怪物達。
向こうの神の助力があるのか、ぺっかーの効果もいまいちだ。
カイは土下座しながらも迫る怪物と主を前に、腰の鍋を抜いた。
『私もお供しましょう』
鍋を構えるカイに並ぶのは、えう勇者アーサー。
「戦わないんじゃなかったのか?」
『ここは戦うべき所でしょう。戦えばお三方の好感度爆上げ間違いなし!』
「ぶっちゃけたな!」
「アーサー」「アーサーぶーさん」「頑張ってー」
『頑張ります! このアーサー頑張りますとも!』
『くうっ、我があと四千歳若ければ……!』
「ろーぶーさん」「どんまい」「元気だしてー」
『元気でたーっ!』「「「わぁい」」」『わぁい!』
カイの後ろでは子らがいつもの調子で老オークと戯れる。
何とも緊迫感のない戦いだ。
だが、戦いは戦い。
命のやりとりだ。
「アーサー、死ぬなよ」『はっ』
しかし、カイの言葉をアーサーは鼻で笑う。
『戦死などカイ様に最も不似合い。我らのバカ神々がカイ様や共に戦う私に死を近づけるはずがございません』
「……そりゃ、そうだな」
そんな事になったらベルティアもエリザもイグドラも黙っちゃいない。
とんでもないはっちゃけ祝福でカイの命を救い、代償として世界をメチャクチャにするに決まっている。
趣味にハマッて本業を潰すアホの如く。
それを防ぐためにも、カイは尻を叩いて彼らに退いてもらわねばならない。
エリザ世界の興廃は、カイのはっちゃけ祝福にかかっているのだ。
「まあ、俺の経験だとそろそろ奴らがやってくる」
『奴ら?』
「ほら、あそこ」
カイが指さす先に舞うのは、見慣れたいつもの竜達だ。
『汝に何かあると我の尻が危ない!』
『とーちゃん、叫ぶと痔が悪化するぞ』『尻からブレスとか勘弁な』
空を舞うのはランデルのでかい犬、大竜バルナゥとビルヌュ、ルドワゥ。
「奴隷筆頭の座を狙う不届き者が現れる予感がしたから飛んできたよ!」「アレクが駄々こねるから仕方なく」「がははは。カイ、お前の人生は本当に飽きないな」「カイさん、説教がまだでしたよね?」
バルナゥの背に乗るのはアレク、システィ、マオ、ソフィア。
「「「システィが怖いから!」」」
「「「我らの芋煮を守るのだ!」」」
「「「ぺぺりらっぱぷーっ!」」」
地を駆けるのはカイズ、エルフ、そしてエルフのピー達。
『『『我ら世界の興廃、この一戦に……尻が、尻が痛い!』』』
そしてこの世界のオーク達。
「さすがカイえう!」「む。信頼のぶん投げ面子」「さすがですわ。カイ様はさすがですわ……すぺっきゃほーっ!」
「「「パーパ、すごい!」」」
『あらあら』『わぁい』「わふん」
神と人は道が違う。
神は神、人は人。
だからカイと共に歩むのは天上の神々ではなく、世界に生きる人達だ。
神と世界のはっちゃけを共に乗り越えてきた、信頼出来る仲間達。
安定と信頼のぶん投げ面子だ。
「よぉしお前ら、やっちまえ」
そしてカイは、戦いを仲間にぶん投げた。
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