15-37 カイ、魂の叫び
べっっっっっちぃぃぃぃぃぃぃんっ!!!
エリザ世界に、尻叩きの音が響く。
『『『ぐぅあああっ!』』』
オーク達、怪物達、そして異界の主。
今まさに戦わんとする者達が、尻を叩かれ地に転がった。
『なんだこれは!』『俺の尻が!』『尻が割れる!』『ぬぅおおっ、先日痔が治ったばかりなのに!』『そしてお前ら、一体どこから!?』
悶絶して叫ぶ皆の背後に立つのは祝福ベルティア、祝福エリザ。
祝福ズだ。
『まだまだ元気ですね』『これは尻の叩きがいがあります』
『『さあ、レッツ尻叩き!』』
べっっっっっちぃぃぃぃぃぃぃんっ!!!
『『『ぐぅあああああーっ!』』』
エリザ世界、尻叩きの嵐。
ブチ切れたカイの願いに応えた祝福ズが、皆の背後で尻を叩く。
右尻を叩かれて左に転がり、左尻を叩かれて右に転がり、下尻を叩かれて空を舞い、連続右尻叩きでコマのようにグルグル回る。
オークも、そして怪物も、主も、もはや戦うどころではない。
『祝福エリザ、ナイス尻叩きです』『祝福ベルティアも見事な尻叩きスピン』
『叩く瞬間に手首のスナップを利かせるのがコツです。このように』べちん!
『なるほど。こうですか?』べちん!
『違います。こうです』べちん!
『こうですね!』べちん!
『『『ぎゃぁああああああああっ!』』』
叩く。叩く。とにかく叩く。
オークの尻が赤く染まり、怪物の切れ痔が再発し、異界の主の尻が割れる。
神は我と共にありと勇んでいた者達が這いつくばって悲鳴しか上げられないようになった頃、カイは祝福ズに願って皆に叫んだ。
「貴様ら!」
エリザ世界にカイの叫びが満ちる。
「どいつもこいつも神に振り回されやがって。オーク共! うちの子に命を押しつけるんじゃねえ!」
『『『ぎゃぁああああ!』』』
まず叱るのは世界のオーク達。
べちん!
カイがオーク達の尻を叩く。
『わ、我らは決してそのようなつもりは……』
「お前ら死んだらうちの子泣くぞ! 悲しむぞ! うちの子はお前ら大好きなんだよ! ずっと遊んでいたいんだよ! 神扱いするな!」
さぁ子らよ、お前らの心の声を聞かせてやれ。
カイは祝福に願い、子らの姿と声を飛ばす。
「ぶーさん!」「あそんで!」「死んじゃ、やだぁ」
『『『わ、我が神よ!』』』「神じゃねえ! うちの子だ!」
べちん!
『『『ぎゃああっ! カイ様、カイ様尻痛い!』』』「知るか!」
「ぶーさん」「いたいの」「とんでけーっ」
『『『い、痛くなーいっ!』』』「「「わぁい!」」」『『『わぁい!』』』
こんな風に、祝福で子らの姿を飛ばしておけばよかったな。
と、カイは今さら反省する。
子らに対してオークが多すぎたから競争が始まり、このような破局に至った。
いつも子らの姿を見せておけば、そして子らと言葉を交わしておけば、会うのが時々でもここまで酷い事にはならなかっただろう。
だから、オーク達の報いはカイのせいでもある。
その埋め合わせくらいはさせてもらおう。
カイは尻の痛みと子らの言葉に涙するオーク達から意識を外し、怪物達に意識を向ける。
彼らはシャル牧場で囲った異界の怪物と主。
だから彼らのありさまも、カイに責任の一端がある。
お前らも、埋め合わせくらいはさせてもらおう。
カイは叫んだ。
「怪物共! よその世界に押し入ったくせに叩かれたら怒るのか!」
『貴様もこの世界の者ではないだろうが!』
「俺は招待客だ! お前らと一緒にするな!」
「ようこそえう」「ウェルカムです」「実績が違いますわ!」
『あらあら』『わぁい』「わふんね」
子らの活躍半端無い。
そのおかげで子らはカイの子となり、エリザ世界のオークは命を救われた。
互いに打算から始まった関係でも今やマブダチ。
世界は違えど助け合う間柄。
敵である怪物達と異界の主に何を言われる筋合いもない。
お前らと一緒にするなと言い放ったカイに、怪物と主が叫ぶ。
『大体、誰だ貴様は!?』
「カイ・ウェルスだ!」
『はぁ?』『知らぬ!』
ならばその身をもって味わうがいい。
カイは深く息を吸い、世界に叫ぶ。
「あったかご飯の人だーっ!」
ぺっっっっっっかああぁぁああああああああっ!
エリザ世界が輝いた。
『な、なんだこの光!』『身体が、身体が勝手に土下座するっ!』『ぬぅうああああっ!』『わ、我が主の三時のおやつを盗み食いしました……お、俺は何を!』『貴様が食ったのかーっ!』
世界、土下座懺悔の嵐。
カイ、力は神にぶん投げる。
「パーパすごい!」「パーパぺっかー!」「あったかご飯の人だーっ!」
神の力で全てを圧倒する父の輝きに、子らは大はしゃぎだ。
「いいか怪物共! 神はお前らを祝福などしていない! 儲け話の手先にお前らを使っているだけだ! 神と人とは道が違う。いいように使われてるんだよ!」
「さすがカイえう!」「む。ミルトの受け売り半端無い」「まるで自分の言葉のように語っていますわ!」
「当たり前だ! 俺にそこまでの学はないからな!」
カイ、言葉はミルトにぶん投げる。
『貴様に神の何がわかる!』
「わかるんだよ! イグドラ!」
『呼んだかの?』
カイの呼びかけに応え、声と共に天から根が伸びてくる。
イグドラの仕業だ。
怪物達の世界に伸ばした根を天に映しているのだ。
『あ、あの根は!』『我らの世界を食らった根!』『貴様、まさかあの根の正体を知っているのか』
「マブダチだよ!」
『のじゃ!』
怪物と主の悲鳴に、カイが叫ぶ。
さすがは三億年間、多数の世界を苦しめた根。
怪物と主の恐怖半端無い。
『余がブチ抜いた世界の木っ端屑共か。余は神、世界樹イグドラシル・ドライアド・マンドラゴラ』
『邪神だ!』『こいつ、邪神の手先だ!』
イグドラの言葉に怪物と主が口々に叫ぶ。
『邪神のぅ……いいか汝ら、よぅく聞け。余が汝らの世界をブチ抜いたのは汝らの神が勝ち馬に乗って儲けようと余の世界に攻め入ったからじゃ。余からすれば汝らの神こそ邪神。食らって当然』
『『『邪神が、何を!』』』
『世界に聖も邪もない。あるのは強さ、それのみじゃ。汝らの神の都合で余の世界が攻められ、余の世界が勝った。それだけの事』
『『『ぐぬ!』』』
『汝らがそこで尻をさすっているのも汝らが弱かっただけの事。汝らもカイのように神に好かれておれば神に力を授けてもらえただろうに……ただ世界を繋がれて放り出されただけとは、憐れじゃのぅ』
『『『これが、神の力!』』』
イグドラの言葉に、エリザ世界は恐怖の嵐。
カイ、説明をイグドラにぶん投げる。
「いや、俺はこんな力いらないから」『ぐぬ!』
『これほどの力を振るっておきながら神と道を違えるのか!なぜだ!』
「こっちは好きで力を振るってるんじゃねえ!」
カイは叫ぶ。
ここはカイの魂の叫びだ。
「こっちは地道に薬草集めて暮らしていければ良かったんだ! こんな力がなければ一家で地道にのんびり暮らせたはずなんだよ! それが神のはっちゃけのせいでこのありさまだ! 何で俺がお前らの尻を叩いて道を示さねばならんのだ!」
「それだとカイの妻になれないえう!」「それは嫌。超嫌」「そうですわ! カイ様との絆がなくなってしまいますわ!」
「神ごときに、俺たち家族の絆が切れるものか!」
「それはその通りえうね。絶対ご飯欲しさにカイにつきまとったえう」「む。呪われたままでも家族の絆は安心安全」「ピーすら愛するカイ様ですもの。一家団らん呪われハッピーライフですわ……ぺまー、ぺまーっ!」
「そうだ! こんな力なくても子らもしっかり生まれてハッピーライフ! マリーナもシャルもエヴァ姉も家族でぶーさんとはマブダチだ!」
『あらあら』『わぁい』「わふんよ」
「「「わぁい!」」」『『『わぁい!』』』
「もしもの世界なんぞ、言ったもん勝ちだからな!」
そしてカイ、因果関係はまるっとぶん投げる。
ぶん投げ男の本領発揮。なんでもかんでもぶん投げだ。
『いらぬならその力、我によこせ!』
「くれてやる! イグドラ!」
『火曜日じゃな。そぉれ』
ぐぉん……
エリザ世界、左手祝福の嵐。
右手に受けたベルティアの祝福が左手からあふれ、エリザ世界を包んでいく。
『な……』『なんだ? この力……』『力があふれてくる』『す、素晴らしい!』『これが神の力!』『これなら、何でもできるぞ!』
注がれた力に怪物と主が驚嘆する。
が、しかし……
『『なお、この祝福にはもれなく尻叩きが付いてきます』』
『『『へ?』』』
『『さあ、レッツ尻叩き!』』
べちんばちんべちんばちんばちんべちんべちんばちんばちんべちん!
『『『ぐぬぅあああああああっ!』』』
エリザ世界、再び尻叩きの嵐。
力を欲した怪物と主の叫びが地を揺らす。
『尻が砕けました』『カイさんの足下にも及ばぬ脆尻』『こんな尻に神の祝福はふさわしくありません』『もっと尻を鍛えましょう』
祝福ズ、容赦無し。
のたうち回る怪物と主にカイは叫ぶ。
「これが神だ! 世界を超越した存在の気まぐれと理不尽だ! お前らがここにいるのも神の気まぐれ! 儲け話に使われたに過ぎん! とっとと世界に帰れ!」
『か、帰れるものか!』『我らの神の導き、無下にはできぬ!』『我らの神の御心を、我らは信じるのみ!』
「はっ……」
怪物の呻きをカイは鼻で笑い、そして言い放った。
「あいつらは、バカだぞ!」『『がぁん!』』
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