15-35 シャル、補給線限界
『みんなー、危ないよーっ』
えうえうと進むオーク達を枝葉で守りながら、シャルはダンジョンを進んでいた。
怪物と戦い、傷つき、シャルに怪物を叩いてもらい、シャルに傷を回復してもらい、また怪物と戦い……
自分達よりずっと強い怪物がはびこるダンジョンを、オーク達は恐れる事なく奥へと進んでいく。
『そろそろ戻ろうよ。ね?』
『なにをおっしゃるのですかシャル様』『今、我らの世界には神がご降臨なされておるのですぞ』『ここが頑張りどころではありませんか』『神の芋煮を頂いたのですから、相応の戦果を捧げねば』
『おぉ、我らが芋煮神万歳!』『『『万歳!』』』
おぉおおおおおえうえうえうえう……
疲れも痛みも何のその。
オーク達はえうえう勇ましい。
正直、無謀だ。
オーク達は頑張りどころと言ったが、本当に頑張っているのはシャルロッテ。
全滅必至の敵と戦い今も生きているのはシャルの防御と攻撃、そして回復あればこそだ。
勝利はシャルが実力差を穴埋めしているからに過ぎない。
収支は大赤字なのだ。
そして、恐ろしい事にそこら中のシャル牧場ダンジョンで、このような無謀な攻撃が行われている。
イリーナ、ムー、カインの芋煮を食べて意気揚々とダンジョンに潜るオーク達を守護するシャルは日を追うごとにやつれ、枝は細く葉は小さくなっていた。
食べるマナより使うマナの方が、はるかに多いのだ。
『僕もう疲れたよぅ。お腹空いたよぅ』
『では、我らの世界をお食べ下さい』『そんな事をしたらカイが困るよぅ』
『それではここから先は我らに任せてくだされ』『そんな事したらうちの子たちが悲しむよぅ』
世界を救うために世界を食べるなど本末転倒。
そしてオーク達だけで行かせれば間違いなく全滅。
オーク達をぶーさんと慕う子らが悲しむ。
宿を使うオーク達は日増しに増え、今やシャルが囲ったどの異界も休みなくオーク達が攻勢をかけている。
だからシャルは枝葉を休めるヒマもない。
シャルが叫んだ。
『僕がもたないんだよぅ! このままじゃ僕が弱って囲いを破られちゃうよぅ!』
『ではその前に我らが討伐して見せましょう!』
『絶対ムリ!』『そんな事はありませぬ!』
『僕がどれだけあいつら叩きのめしてるか知ってるでしょ? 死ぬよ? みんなサクッと死ぬよ?』
『もとより命は芋煮三神に捧げております』
『イリーナもムーもカインもそんな事望んでないから。ぶーさんと遊んでいたいだけだからね?』
『なんと!』『それでは遊び道具を調達せねば!』『怪物のマナに神の遊具を願うのだ!』『者共、かかれーっ!』
『うわぁん。アホかーっ!』
イリーナ、ムー、カイン。
芋煮三神の芋煮のもとにはせ参じたオークは数知れず。
そして数が揃えば希望が生まれ、やがては世界の流れとなる。
皆、世界に比べればちっぽけなもの。
カイも、シャルも、そして子らもその流れには抗えない。
オーク達は流れに乗ってえうえう戦いえうえう進み、やがて主の間の扉を砕いて主の間に突入した。
『……来たか』
そこにいるのは巨大な主。
そして多くの怪物達。
富でも名声でも栄華でもない。
そこにいるのは自らの世界を守るため。誰かのために死を覚悟した者達。
命の全てをもってシャルとオークを滅そうとする者達だ。
『我らの世界を守るのだ! かかれーっ!』
『『『うぅおおおおおおーっ!』』』
主が叫び、怪物達が決死の突撃を開始する。
その力は凄まじく、格下のオーク達を蹴散らし弱ったシャルの枝葉を切り刻んだ。
切り刻んだ枝葉が塵となって消えていく。
『うわぁん!』
『切れた!』
シャルが泣き、主が驚く。
『こいつ、弱っているぞ!』『きっと我らだけではないのだ! 我らとは違う世界も我らと同じく戦っているのだ!』
彼らは知っている。
エリザ世界に数多の異界が顕現していた事を。
そして彼らは考える。
この枝葉に苦しめられているのは我らだけではないだろう……と。
この弱った枝葉は他の異界からのメッセージ。
共に戦いこの枝葉から自らの世界を守り抜こうという、エリザ世界の流れを砕く数多の世界が願う流れだ。
『我が世界の興廃、この一戦にあり!』
『『『おぉおおおおおおおおお!』』』
主が再び叫び、怪物達が咆哮する。
『戯れ言を……あいたっ!』
『逃げるよっ!』
べちん!
シャルは戦おうとするオーク達を叩き、倒れた体をくるりと枝葉で包む。
そして……しゅぱたっ!
シャルはオーク達を抱えたまま、脱兎の如く逃げ出した。
カイ直伝のとんずらだ。
『シャル様!』『我らまだ戦えます!』
『僕はもう回復もできないよ! とんずら一択だよーっ!』
その日、シャル牧場は崩壊した。
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