15-33 子らは悩み、ぶーさんは突き進む
シャル宿が増え、ぶーさん達が異界と戦い、子らが芋煮をふるまい、カイとミリーナ、ルー、メリッサが芋煮を煮込みまくり……
そんな日常とコップ水ドーピングに、カイが慣れてきた頃。
「カイ」
「なんだ?」
「イリーナが悩んでるえう」「ムーも」「カインもですわ」
「……そうだな」
夜、カイ宅。
ミリーナ、ルー、メリッサが深刻な顔で、芋を煮込むカイに子らの事を相談した。
「原因は、ぶーさん……か」
「えう」「む」「はい」
カイも気付いてはいた。
カイもミリーナ、ルー、メリッサも回復魔法使い。
心を読める赤裸々一家に秘密は基本的にない。
隠せないから晒すし、家族を信じているから知られる事も知る事も怖くない。
どんな事でもどんとこい。
それがカイ一家。
しかし、それは世間的には普通ではない事もカイ一家は良く知っている。
カイとて心を読めるようになったのは十二年ほど前の事だ。
イリーナ、ムー、カインはまだまだ幼子。
一家の非常識を当たり前のように育ってしまってはちょっと困る。
まあ、もう手遅れかも知れないな……俺ら色々おかしいし。
カイは芋煮を仕上げて鍋を火からおろし、エプロンを外した。
「子らは?」
「子供部屋えう」「む」「お願いしますわカイ様」
「ああ」
何でもかんでもぶん投げるカイでも、さすがにこれはぶん投げない。
一家の長たるカイの責務だからだ。
「シャル」『なあにー?』
「子供達はまだ、起きてるか?」『うん』
これを投げるようでは家族ではない。
カイは妻達に頷くと静かに子供部屋の前に立ち、シャルに子らが起きている事を確認して扉をノックした。
「……パーパ」「寝る前にちょっと、いいか?」「うん」
扉を開いたイリーナにカイは言い、子供部屋に入った。
カイが家に居るときは、子らが部屋にいるのは寝る時くらい。
里の友達とは広場で遊び、家ではいつも家族と一緒。
しかし今、里は遠く遊びに来る友達はいない。
だから子らは今、広場で遊ぶ事はない。
オーク達にとって子らはあくまで神。
友ではないのだ。
「パーパ」「パーパだ」
壁に貼った大きな紙を前に祈っていたムーとカインが振り返り、カイを見上げてぎこちなく笑う。
カイは笑みを浮かべ、子らを後ろから抱き抱えた。
「この絵は?」「……神様」
イリーナがカイに呟く。
紙には子らが描いたのだろう、笑うオークがいびつに描かれている。
イリーナ、ムー、カインの想像する、オークの神だ。
「祈ってたんだな」
「「「うん」」」
カイの言葉に三人は頷いた。
「ぶーさん言ってた」「神に祈れば願い、叶う」「だから、ぶーさんの神に祈ってたの。ぶーさんを守って……って」
「そうか」
「パーパも祈って」「む。パーパなら叶うかも」「お願い」
「いいぞ」
「「「「えう」」」」
あいつらの言う神は、お前達の事だがな……
カイは子らと一緒に、オークの神に祈りを捧げる。
しばらくの静かな祈りの後、子らがポツポツと語り始めた。
「ぶーさん、最近傷だらけ」「時々死んで生き返る」「目が血走ってて、怖い」「でも、笑ってる」「だから余計怖い」「うん……」
「……そうか」
異界との戦いは過酷。
シャルの手助けがあっても過酷さは変わらない。
シャルの力とて有限。ぶーさん達を助けきれない時もあるのだ。
「パーパ、どうしてぶーさんの世界、こんなにひどいの?」「む」「どうして?」
「全部エリザのせいだ」『がぁん!』
いつの間に部屋にいた祝福エリザが叫ぶ。
そう。ぶーさんは全く悪くない。
ベルティアの世界を妬み神々を煽ったエリザが全ての元凶だ。
自ら耕す事をせずに他者から奪っていたエリザが、今は逆に奪われている。
これはスケールの大きい、神々の因果応報なのだ。
「何ががぁんだ。身の程を知らなかった三億年前を恥じやがれ。そしてベルティアに土下座して真摯に教えを乞いやがれ」
『それはやってますえっへん「威張るな」がぁん!』
それに振り回される世界の者達はたまったものではない。
「エリザ、めっ」「む。めっ」「めっ」
『すみません。私の本体が本当にすみません』
子らの叱咤に土下座する祝福エリザ。
世界のありさまは全てエリザのせい。
しかし、今のオーク達のありさまは彼ら自身の選択。
エリザを責めても仕方がない。
「えう」「えうーっ」「えう」
子らが必死にえう祈る姿は、何とも悲しく切ない。
カイの経験からすれば、そろそろでかいしっぺ返しが来る。
それが身の程知らずの宿命だ。
他者の力を実力と勘違いした者達に課せられる、試練と罰だ。
お前ら、うちの子が悲しんでるぞ……もう少し地に足をつけろ。
カイは子らと一緒に絵に祈りつつ、オーク達に心で呟いた。
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