15-32 あぁ、我らが芋煮の神よ!
『『『こんにちはー』』』
「いらっしゃーい」「ぶーさん」「ぶーさんたくさん」
「「「わぁい!」」」『『『わぁい!』』』
ひゃっほい。
エリザ世界の星の裏側、シャル宿。
訪れた地元のえう冒険者達と、芋煮を運ぶイリーナ、ムー、カインは揃って笑顔で小躍りした。
子らにとっては新たなぶーさんとの出会い。
えう冒険者にとっては転生した神への拝謁。
カイがギルドの要望に応えた結果だ。
『で、シャル宿様。今日の怪物はいかほどで?』
『しっかりシメといたから今日もイージーだよぅ』『『『わぁい!』』』
『でも来月からはノーマルにするよぅ』『『『ええーっ!』』』
今やシャル宿は星の全域で一万以上の異界を囲み、湧き出る怪物を枝葉でボコボコにしてから冒険者に提供している。
半死半生の怪物は駆け出しえう冒険者でも楽勝。
だからえう冒険者の敷居下がりまくり。
これまでは聖地の門が遠すぎると諦めてしまっていたオーク達。
しかし、今はシャル宿に行けば芋煮三神に会える。
だからえう冒険者増えまくり。
えう冒険者となったオーク達はシャル宿に突撃し、適度に痛めつけられた怪物を討伐して世界の安定を願うのだ。
『『『こんにちはー。お世話になりまーす』』』
「また来た」「む。新たなぶーさん大漁」「すごい!」『『『すごい!』』』
『そんなに部屋作ってないよぉ! 増え過ぎだよぅ!』
まさにエリザ世界、総えう冒険者。
「マーマ、芋煮ー」「む。今日も大漁」「ぶーさんたくさん。芋煮もたくさん」
「またか……」
「そんなにたくさん作れないえう!」「むむむ。さすがにこれ以上は難しい」「芋もマナも足りませんわ……ぷるるっぷ、ぱー!」
『これではマナブレスもすぐに品切れです』「わふんよ」
子らは嬉しい悲鳴。
そしてカイ一家はあまりの量に悲鳴をあげる。
星は丸く、必ずどこかがご飯どき。
だからカイ一家は二十四時間芋煮体制。
大人達はコップ水ドーピング半端無い。
「イリーナ、芋煮主時代はこんなキツイ事してたえうか」「む。ムーも超すごい」「芋を作って煮て、さらに異界との戦いまで……素晴らしいですわカイン!」
「「「えー?」」」
ミリーナ、ルー、メリッサの叫びに、子らは首を傾げる。
カイ一家の芋はかなり安全となったギストルス周辺の畑から調達している。
一家は芋煮を作って運んでいるだけなのにこのありさま。
芋煮主すげえ。
と、カイ一家も土下座感謝半端無い。
「しかし、このままでは俺らがキツ過ぎる。カイセブンティーンあたりに助っ人を頼もう」
「セブンティーンはダメえう」「む。エルフが怒る。超怒る」「この世界でお世話になっているツーハンドレッドワンツースリーで何とかしましょう」
『僕も手伝うよーっ』
「シャルは異界に全力で頼む。これで芋煮とか作ったら、お前が過労死するぞ」
『わ、わぁい』
ぶぉん、ぶぉん……
カイ一家のそんな様を平手を振りながら見守る祝福ズだ。
『カイさんは芋煮修行が足りませんね』『これは尻叩き案件でしょうか、祝福ベルティア』『後で相談いたしましょう。祝福エリザ』『はい』
「平手を振ってないで手伝えお前ら」『『はぁ?』』
「このやろう!」
「えう!」「ぬぐぅ!」「ふんぬっ!」
こんな調子でカイ一家が悲鳴を上げている頃……
シャル宿では、オーク達が頭を抱えていた。
『我らの神が、近頃あまりいらっしゃらなくなった……』
オークのひとりが、呟く。
『いらしても芋煮を振る舞うとすぐに別のシャル宿様にお移りになってしまわれる……』『芋煮を頂けるのは素晴らしいが、もう少しご滞在頂けないものか』
贅沢な悩みである。
子らは星が回って食事時になった宿にせっせと芋煮を運んでいるのだから、同じ時間帯にシャル宿が複数あればそれだけ時間が短くなるし、多すぎれば行けない宿もできる。
一万を超えるシャル宿に三人で芋煮を運ぶ事が、ムリな話なのだ。
彼らは頭を抱えて悩み、やがて……思いつく。
『我らが強くなれば、もっとこのシャル宿様にご滞在頂けるかもしれん』『ご褒美芋煮という訳か』『そうだ』
『シャル宿様の規模を大きくすれば我らの数も増える。そうすれば長い間ご滞在頂けるのではないか?』『なるほど。異界を討伐しまくってこの地を安定させ、他の宿と合併するのだな』
『どちらにしても……力か』『そうだな』
オーク達は子らと過ごすために策を練り、そして決意する。
『よぅし! 我ら六六八七シャル宿様えう冒険者は、周辺のシャル宿様より早くノーマルモードに移行するえう!』『『『えうーっ!』』』
おぉおおおおえうえうえうえう……
駆け出しは皆、血気盛ん。
夢が現実に削られていないのだから当然だ。
えう冒険者達はひたすら異界と戦い、異界に潜り、怪物を討伐し続ける。
そして駆け出しだから無茶をする。
無茶をするからケガもする。
『もうちょっと身の程を知ろうよぅ!』
シャル宿には負傷したえう冒険者があふれ、シャルも治療にてんてこまい。
そんな傷だらけのぶーさん達ばかりのシャル宿では、子らも笑っていられない。
「ぶーさん」「痛い?」「大丈夫?」
『なぁにこれしき。芋煮を頂ければすぐにでも回復いたしますぞ!』『ですから芋煮を』『我らの神よ!』
「「「……」」」
痛々しい姿で明るく笑うオーク達を前に、子らから笑顔が消えていく。
そして子らは夜、ベッドの中で呟くのだ。
「ぶーさん……」「む……」「……怖い」
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