15-31 シャル宿、めっさ増える
『我らエリザ世界のシャル宿様開業要望地でございます』
「……うわぁ」
聖地の門ギストルス広場、カイ宅。
異界を囲むシャル宿の怪物難易度がイージーからノーマルに変わった頃、カイは訪れたえう冒険者ギルド長が示すシャル宿開業要望数に呆れた声を上げた。
めっさ多い。
そしてめっさ遠い。
「これ、大陸違うよな?」『はい』
「これとか、星の反対側なんじゃないか?」『大体そのくらいですな』
ギストルス周辺の異界はほとんどシャル宿で囲ってしまったので少し遠くになるだろうとは思っていたが、思っていたよりはるかに遠い。
「お前ら隣町に移動するのも苦労してたのに、そんな所とどうやって連絡取ってるんだよ?」『バルナゥ様に頼んでカイツーハンドレッドワンツースリー様の分割体を運びました』
「……システィ?」『はい』
さすがシスティ。エリザ世界でも半端無い。
『システィ様にはベルティア世界を経由した町の接続をお願いしたのですが、うちの世界が危ないからと却下されました』「……まあ、実際危ないからな。怪物に使われたら厄介だし」
そして自分達は通路として使っているのに、エリザ世界にはベルティア世界を通路として使わせない。
このあたりもさすがシスティ。えげつない。
『ですのでカイツーハンドレッドワン様はえう伝道師として、ツーハンドレッドツー様は芋煮伝道師として、カイツーハンドレッドスリー様はすぺっきゃほー伝道師として世界中の町に赴いております』
「この世界でえうとかすぺっきゃほーとか何伝道してんだよ俺ズ!」
「えう!」「むふん!」「ふんぬっ!」
芋煮と連絡だけにしとけ。
カイはそう思い、ああなるほどと納得する。
「そうか。シャル宿があれば行き来もできるのか」『はい』
要はシスティが却下した移動手段をシャルにやって欲しいという事だ。
シャルに空間を繋げてもらえば異界トンネルと同じ。
小規模だったりシャルにしこたま食わせなければならなかったりするが不可能と可能の差は大きい。
ギルド長がこんな要望を持ってくるのも当然と言えば当然だ。
「ご飯がたくさん必要だぞ?」
『異界と怪物ならいくらでも捧げます。もし空間を渡る事ができずとも、シャル様なら空を駆ける事もできましょう』
「まあ、できるな……」
『我らエリザ世界にまず必要なのは皆に希望を見せること。町の中だけが我らの生きる場所ではない事を、我らの世界は広い事を皆に示さねばならぬのです』
「そうだな。世界は町よりもずっと広いもんな」
『と、カイ様に言えば聞いてくれるとシスティ様が』
「……あんにゃろ。後で尻叩きを願ってやる」
『『あなたの願いを「仕返しされるからやめろ!」がぁん!』』
人使いの荒い元王女にカイはぼやき、願いを叶えようとする祝福ズに釘を刺す。
まあ、システィが言わずともそうするのが良いだろう。
カイはシャルに聞いてみる。
「シャル、できるか?」
『たくさんご飯をくれれば、ちょっとくらいは大丈夫だよーっ』
「だ、そうだ」『ありがとうございます。ありがとうございます!』
シャルの返事に土下座感謝のギルド長。
しかし、シャルも有限。
ご飯をしこたま食べても限界はある。
一度に全てはムリだろう。
カイがギルド長と優先度の相談を始めようとしたその時、扉が開いて子らが姿を現した。
シャル宿からシャル宿へと渡るイリーナ、ムー、カインだ。
最初は空間を繋げてどのシャル宿に入っても中はひとつだったのだが、今のシャル宿はそれぞれ別個に営業し、空間を渡るのは子らと親と芋煮。
住むなら我らの神の近くがいい。
と、オーク達がシャル宿を使ってギストルス周辺に移住しまくって、祝福ズのダメ出しをくらったからだ。
気持ちはわかるが少しは我慢しろと、叩かれた尻をさするカイである。
「「「マーマ、芋煮ー」」」
「できてるえうよ」「む。なかなかの美味」「頑張るぶーさんにふるまっておあげなさい」
子らの求めにミリーナ、ルー、メリッサが芋煮鍋を担ぐ。
「さあ、次のぶーさん宿へゴーッ」「ごーごー」「わぁい」
「えう」「む」「るるっぱーっ」
「ギルド長ぶーさん」「さよなら」「また明日ー」『また明日ーっ』
子らはギルド長に笑いかけ、再び扉の向こうに消えていく。
シャルが繋いだ空間を渡り、シャル宿でオーク達に芋煮をふるまうのだ。
さすがうちの子。ぶーさん大好き大人気。
『それともう一つ、お願いがございます』
ギルド長はそんな子らをにこやかに手を振り見送った後、カイに再び頭を下げた。
『これから開くシャル宿様にも、芋煮三神にお越し頂けませんでしょうか?』
「待て、結構数があるぞ?」『はい』
「星の裏側にも宿を作るんだよな?」『はい』
「そんなに働かせたらうちの子が過労死してしまう!」『そんな事は絶対にいたしません!』
カイが叫び、カイの叫びにギルド長が叫ぶ。
『そんな事をしたら私が殺されてしまいます! 蘇生出来ない程に殺し尽くされてしまいます!』
「殺されてしまえ!」『ですから働かせません!』
「どうせ回復魔法ドーピングだろ。甘い言葉には騙されんぞ!」『そんな事もいたしません!』
「ぬがあっ!」『ぬぉおおっ!』
ヒートアップしたカイとギルド長は互いにテーブルをバンバン叩いた後、クールダウンだと互いに息を整えた。
「じゃあ、うちの子は何をすればいいんだよ?」
『我らの神はあるがままで良いのです。かたよりなくお越し頂ければ良いのです』
「うちの子の好きにさせるぞ?」『はい』
「嫌だったら行かないぞ?」『嫌々来て頂いても我ら嬉しくありませぬ』
「夜はちゃんと寝かせるからな? 夜更かしなんかさせないぞ?」『当然でございます』
「……まあ、それなら、いいか」『ありがとうございます!』
カイはギルド長としばらく問答を続けた後、ようやく提案を受け入れた。
まあ、宿ができればうちの子の事だ。
新しいぶーさんとの出会いだと喜んで行くだろう。
「「「ただいまー」」」
「えう」「む」「ただいま戻りましたわカイ様」
帰ってきた子らにカイは言う。
「イリーナ、ムー、カイン。シャル宿が増えるぞ」
「新しいぶーさん?」「むむ、ニューぶーさん」「ニュー!」
『ニューでございます』「「「わぁい!」」」
ひゃっほい。
どこかのシャル宿から戻ってきた子らに告げると、やはり子らは大喜びだ。
今はぶぎょーと言わない、転がらないカイの子供達。
しかし、こういう所は変わらないんだなぁ……
と、カイはしみじみ思うのであった。
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