15-29 さすがは芋煮三神でございます
エリザ世界、街道。
怪物が跋扈する道を警戒しながら、またオーク達の馬車が走っていた。
彼らは砦に物資を送るギルドの補給部隊……ではない。
町の周囲から離れられない、戦えぬ者達の商隊だ。
馬車に乗るほとんどの者は、戦う術をもたない者達。
しかしそんな者達でも、時には離れなければならない時もある。
町から町への援助物資の輸送など、大規模な物資の移動を必要とした時である。
えう冒険者達だけでは数が足りない時は、戦えぬ彼らも危険に満ちた道を行かねばならないのだ。
しかし、今回の商隊はそこまで危険ではない。
『わぁーいっ!』
しゅぱたたた……
商隊の先頭を走るのは、車輪ではなく根で走る馬車。
シャル馬車だ。
前後左右、適度な範囲で配置されたシャル馬車がえう冒険者を乗せて商隊を護衛しているのだ。
『敵だ!』『いただきまーすっ!』『敵……』『わぁい!』『て『わぁい!』』
『わぁい、わぁい!』
『……なあ、俺たちいらなくね?』『それを言うな』
攻撃力、防御力、索敵範囲、速度など全てに勝るシャル馬車は、同乗するえう冒険者達が気付く前に行動を開始して、気付いた頃には食べている。
まさに安全、安心。
商隊は荒れ地よりマシな程度の怪物の湧く脆弱な道をひた走り、被害を出さないまま隣町に到着した。
『それじゃ、気をつけてねーっ!』
『シャルロッテ様、ありがとうございます』『ありがとうございます!』
『わぁーい!』
しゅぱたたた……
シャル馬車が走り去っていく。
馬車なのに車輪ではなく根で走る。
しかしここは異界なので、そんな細かい事は気にしない。
護衛されたオークの商隊は手を振って、シャル馬車を見送った。
カイ一家がエリザ世界を訪れてから、ギストルス周辺は格段に安全となった。
シャル宿が異界を牧場にして囲っている上に街道は分割したシャル樹が巡回。
そして頼めば今回のように護衛のシャル馬車が一緒だ。
これまで何人も犠牲者を出した町から町への移動も、道案内をするだけで終わってしまう。
あまりの落差にオーク達も驚くばかりだ。
『町の往来がここまで楽になるとは』『シャルロッテ様、まさに神の使い』『そしてさすがは芋煮三神。イリーナ様、ムー様、カイン様だ』
『そういえば、俺らも愛芋煮兄貴に護衛されてたなぁ』『兄貴、強かったな』『爆発は凄かった』『そして芋は美味かった』『兄貴ーっ!』
『それにしても素晴らしい。転生なされても我らの神は変わらず我らをお救い下さる』『我らのえうに応えて下さったのだ』『えう!』『えうーっ!』
えうーっ、えうーっ……
町にえうの声が響く。
世界をこの有様にした神エリザより、手を尽くしてくれる芋煮三神。
そして、芋煮三神といえばえう。
芋煮三神の再降臨はこうして町から町へと広がり、オーク達はえうに勤しむ。
畑を耕してえう。
芋を煮てえう。
おはようからおやすみまでオーク達はえう三昧。
えう徳を高め、神が再降臨した聖地の門ギストルスに思いを馳せるのだ。
『再降臨なされた芋煮三神を、ひとめだけでも』
そして始まるギストルス参り。
これまでは町から離れるだけでも危険だったが、今はシャル馬車で安心安全。
物流が活発化すると同時にオーク達の移動も活発となり、オーク達はギストルスへと集まっていく。
「遠くから来たぶーさんだ」「ぶーさん」「わぁい!」
『おぉ! 何と素晴らしい!』『この愛らしさ、まさに神!』『エリザなんぞとは大違い!』
『がぁん!』
おぉおおおおおえうえうえうえうえう……
シャル家のある広場は崇めるオークがえう渦を巻く。
笑い声を崇め、はしゃぐ姿を崇め、ご飯を食べる姿を崇める。
『時間だよー』
「あ、もう時間」「行かないと」「イモニガー」
『ど、どこへ行かれるのですか?』
シャル時計の声に家に戻る三人に、崇めるオークが問いかける。
子らは笑って答えた。
「えう冒険者のお世話だよー」「む」「これから宿屋で働くのー」
『なんと! そんな素晴らしい宿が!』
『俺はえう冒険者になるぜ!』『俺もだ!』
そしてえう冒険者ギルド大盛況。
『さすが芋煮三神! 異界との戦いを志す者がこんなに、こんなに!』
あまりの忙しさにカイを下級えうと判定した受付オークも嬉しい悲鳴。
そして下っ端冒険者に訓練をぶん投げるのだ。
「えー、訓練を依頼されました青銅級えう冒険者カイ・ウェルスです」
『助手のシャル牧場だよーっ』『カイ様の身分証明係のアーサーだ』
『『『まさかの神の父!』』』
『『『神の使いシャルロッテ様!』』』
『『『そしてえう勇者アーサー様!』』』
えう界の巨匠達、ここに集結。
駆け出しえう冒険者達は叫ぶのだ。
『えうを、ぜひカイ様のえうを!』
「……えう」
『『『……』』』
あぁぁああああああうえうえうえうえ……
カイのえうに落胆半端無い、駆け出しえう冒険者達だ。
『で、ではアーサー様、是非ともご指導お願いします』
『私は戦わぬぞ?』
『『『……』』』
えぇえええええええうえうえうえうえ……
そしてめっさ使えない勇者に失望半端無い、駆け出しえう冒険者達だ。
『ではカイさんに代わって私祝福ベルティアと』『私祝福エリザなんぞがビシバシシ教育させて頂きます』
『『『ええーっ……』』』
ぶぉん、ぶぉん……
そして平手を振る祝福ズに唖然とする、駆け出しえう冒険者達だ。
『エリザなんぞに尻を叩かれるくらいなら、戦った方がマシと言わせてみせましょう』
『『『がぁん!』』』
口は災いの元。
「エリザなんぞ」とか「ロクでもない事ばかり」とか、オーク達が言い放った言葉を神はしっかり聞いている。
彼らは尻をしこたま叩かれ、シャルが叩きまくった異界の怪物と戦いめきめき実力を上げていく。
一ヶ月程後にはたくましいえう冒険者のできあがりだ。
『エリザの尻叩きより、マシだな』『あれは痛い。めっさ痛い』『尻が四つに割れたよ俺』『俺なんて八つだ』『回復あるからって骨盤割るほど叩くもんな』『本当にロクな事しないな。あいつは』
『がぁん!』
そして成果に目を見張る、ギルドのお偉方だ。
『戦えぬ素人えう共が、よくぞここまで』『さすが芋煮三神』『ぶーさんと笑っているだけで我らの世界を変えるとは。まさに神の奇蹟』『神は生まれ変わってもやはり神。我らの世界を決してお見捨てにはなさらぬのだ』
そして……
『我らの世界の栄光は、まさにここから始まるのだ』
『……聖戦だな』『ああ』
そして彼らは、欲をかく。
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