15-23 誕生。青銅級えう冒険者カイ・ウェルス
聖地の門ギストルス。
カイ一家が訪れたオーク達の町の名だ。
カイ達の世界とエリザ世界を繋ぐ異界トンネルが集中するこの地を、オーク達は聖地として崇めている。
神の世界に繋がる多数の異界トンネル。
その中のひとつ、オルトランデルへと続く異界トンネルの主の間には芋煮三神の神殿があり、時折生まれ変わった超絶可愛い芋煮三神が訪れぶーさん大好きと笑って抱きついてくる。
まさにエリザ世界に生きるオークの天国。
そんな場所が野放しになればオーク達は殺到し、神殿は万年すし詰め状態となるだろう。
神殿に訪れる者を制限する門が必要なのだ。
そういう理由で築かれたのがこのギストルスの町だ。
この町はまさに聖地の門。
ここで認められた者以外は聖地への立ち入りは許されず、芋煮三神にぶーさん大好きと笑って抱きつかれる事もない。
だから、オーク達はここでえうを磨くのだ。
えう名声を得て、聖地で芋煮三神に笑って抱きつかれる為に……
「まさかの本人がパチモン判定えう」「む。困った」「崇められるはずなのにぱぱらっぷぽー」
「……うるせえ」
そんなギストルスの広場に建つシャル家にて、カイはダメ出しを受けていた。
えうと言ってもミリーナではない。
口数すくなくてもルーではない。
奇行に走ってもピーではない。
神殿からやってきたカイツーハンドレッドワンツースリーである。
エリザ世界に引き取られた彼らはカイの惨状を聞き、神殿から駆けつけたのだ。
「ほら、俺のえうをマネて言ってみるえう」「えう」
「……駄目えう」「駄目」「ぷるるっぽ」
「えー……」
ミリーナが願ったカイツーハンドレットワンの言葉にカイはえうを言ってみる。
カイズは揃って額を押さえて首を振った。
「これが俺とは情けないえう」「お前のえうはミリーナが願っただけだろうが」「つまり直伝えう!」「む」「ぷるりっぱ」
「そういうのを直伝とは言わん」
「それを言ったらイリーナだって直伝じゃないえう」
「エリザ世界に確固たるえう基盤を作ったイリーナとお前を一緒にするな!」
「えうっ!」「お前もえう禁止だ!」「無理えうっ!」
ああ、砂の海だった頃のアトランチスを思い出す。
あの頃はカイズもまだまだ少なかったなぁ……
今や二百を超え、分割すれば万超えるけど。
カイは昔を懐かしみ、今のありさまに頭を抱える。
ここは聖地の門ギストルス。
芋煮三神にぶーさんと抱きつかれたいオーク達がえう名声を磨く地だ。
皆、えうへの執着半端無い。
今も窓を開けばえうの声で会話も出来ないだろう。広場はオーク達のえう修行の場所なのだ。
「外を見ろ。ミリーナはさすがえう」「む。ルーなんてえう言わなくてもさすが」「メリッサだってピーでもさすがぱぱっぷ」
窓の外を見ればオーク達が妻と子を囲んでえう崇めの真っ最中。
芋煮三神と御母堂の方からエリザ世界にやってきたと、えう名声に伸び悩んでいた者達が大挙押しかけているのだ。
世界を渡れる者は選ばれたえう人のみ。
カイが老オークとアーサーを見る。
そうすると、俺がいつも会ってるこいつらもえう名声半端無いのか。
大して変わらんと思うんだがなぁ……
『カイ様。今、我らのえう名声を疑いましたな?』
「あ、バレた?」
カイの心情が顔に出ていたらしい。
老オークが心外そうな顔でツッコミを入れてきた。
『我はエリザ世界を代表して芋煮三神を見守るぶーさん。我のえうを侮らないで頂きたいものですな』『私もえう勇者ですからな。日々、えうに精進しております』
「いや、正直そんなのどうでもいい」『『えうっ!』』
老オークやアーサーのえうなど本当にどうでもいい。
しかしこのままでは問題だ。
えう名声のないカイが町を歩けばパチモン扱い。
妻や子を連れて歩けば不審者事案。
下手をすれば連れ去り案件だ。
『深刻なえう名声不足です』『エリザ世界を何とかするには、まずえう名声』
祝福ズが平手をブンブン振りながらカイに告げる。
えう名声。
とにかくえう名声が圧倒的に足りない。
このギストルスではカイのような付け焼き刃なえうでは誰も相手にしてくれないのだ。
「なんでそんなもんを磨かねばならんのだ……というか、それならルーとかメリッサはなんで崇められてるんだよ?」
「そりゃ母だからえう」「おかん最強」「ぱぱーぷ、ぴっぷぺぽ」
「えーっ……」
そんなのアリか?
と窓の外を見るもルーもメリッサもえうも言わずに崇められまくり。
何とも理不尽なものである。
「しかし、このままでは尻の叩かれ損だ。何か打開策はないかアーサー?」
『そうですなぁ……えうではなく実力で黙らせるのが一番でしょう』
「実力?」
首を傾げるカイに、アーサーが言う。
『世の為人の為に働くえう冒険者ギルドにて冒険者登録いたしましょう。身分証明にもなって便利でございます』
「こっちにもそんな組織があるのか」
世界が違えど似たようなものはあるものだ。
とにかくも不審者脱出。
カイはアーサーを伴い冒険者ギルドを訪れた。
『このお方を冒険者として登録したいのだが』
『アーサー様の紹介であれば異界の方でも大歓迎です』
さすがえう勇者。えう名声半端無い。
受付オークは恭しく頭を下げると机の引き出しを探り、水晶玉をカイの前に出してきた。
『では、えうをお願いします』
「えう?」
ここでもえうなのか?
と、カイが首を傾げれば、水晶玉を見て怪訝な顔をする受付オーク。
『その程度のえうでは……青銅級ですね。下級えう冒険者からとなります』
そしてなぜ、えうで実力を測る?
ますます首を傾げるカイである。
『いや、このお方の実力は私以上なんだぞ? えう勇者でも足りないほどだ』
『いくらアーサー様の紹介でもこればかりは……規則ですから』
『そこを何とか』『実力があるのでしたら昇格も容易い事でありましょう』
『まあ、そうだな』『では、青銅級えう冒険者からという事で……』
カイ、ここでも下級扱い。
アーサーと受付オークの問答が続く中、ひたすら首を傾げるカイであった。
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