15-22 カイ一家、ぶーさん達に熱烈歓迎を受ける……が
えうーっ……えうーっ……
エリザ世界。
青い太陽のもと、紫の雲が浮かぶ黄色い空にえうの叫びが響き渡る。
声の発生源はカイ達が使う異界トンネルの近くにある町らしい。
ここからその町までおよそ一キロ。
それだけの距離があるのに声がここまで響いてくるのだ。
「……アホなのか?」
「えうっ!」
その叫びをシャル家の中で聞きながら、カイはひたすら首を傾げる。
ルーとメリッサが激しく頷き、ミリーナがショックに叫ぶ。
ミリーナには悪いと思うカイであったが、さすがに異様さ半端無い。
何というか、その……邪教感半端無いな。
「カイが邪教だと思ってるえうー!」「いやいや、お前のは救済のえうだから!」
「パーパ」「いじめちゃ」「めっ!」
「いじめてないから!」
心を読んだミリーナが叫び、子らがカイに怒り、カイはひたすら頭を下げる。
お前らのせいで家族仲が壊れたらどうしてくれるんだ……
と、カイがひたすら謝った後でぶーさんズを睨めば、ぶーさんズもショックに叫んでいる。
『おぉ! 我らの信仰に何というおっしゃりようだ!』
『カイ様ともあろうお方が!』
「お前らもかい!」
まったくもって面倒な大人である。
「パーパ」「いじめちゃ」「めっ!」
「いじめてない。ミリーナもぶーさんズもいじめてないから!」
カイは再び子らにひたすら頭を下げて許しを貰い、ようやく頭を上げた。
『『我が神々の怒り、思い知ったか!』』
「調子に乗るな」
胸を張るぶーさんズにカイはツッコミを入れ、カイは土下座している間にずいぶん近付いた町を眺めた。
「いや、だって叫んだ所で何かが変わる訳でもないだろ?」
祈る暇があるなら自分の頭で考えなさい。
カイの心の師。聖樹教司祭ミルト・フランシスの言葉だ。
祈れば心の幸せは得られるかもしれないが、祈り続けていては何もできない。
祈っているだけでは駄目なのだ。
「それとも輝くのか? 俺が言うあったかご飯のなんちゃらみたいなもんか?」
『『そんな面倒な事は起こりません!』』
『『がぁん!』』
ぶーさんズが首を振り、祝福ズがショックに叫ぶ。
「パーパ」「いじめちゃ」「めっ!」
「今のはパーパじゃないだろ? ぶーさんだろ?」
「ぶーさん」「いじめちゃ」「めっ!」
『『申し訳ございませぬ!』』『『思い知ったか!』』『『調子に乗るな!』』
そんなアホ問答をしているうちに、シャル家は町の門にたどり着く。
ぶーさんズが連絡を入れておいたのだろう、門番のオーク達はこの世界でもおかしなシャル家に恭しく頭を下げ、門を開いた。
「ありがとー」「ぶーさん」「わぁい」
『『わぁい!』』
窓から手を振る子らに門番もにこやかに手を振り返す。
そして町の中に一歩足を踏み入れたカイ一家は、エリザ世界の熱烈な歓迎を受ける事となった。
『我らが神の再臨だ!』
『イリーナ様!』『ムー様!』『カイン様!』
『我らの尊き芋煮三神の一家よ!』
おぉおおおおおえうえうえうえう……
大通りに熱狂的なえうが渦巻く。
「パーパ」「すごい」「すごいねー」
異様な熱気にうちの子らが怯えるかと思えば、不思議と満面の笑みだ。
……いや、不思議でも何でもないのかもしれないな。
歓声を上げるオーク達は子らが守り繋げた命。
たとえ生まれ変わり、物心がつき前世を忘れてしまっても変わらないのだろう。
カイは子らを抱え上げた。
「お前達、ぶーさんが好きか?」「「「だぁい好き!」」」
「よぅし。手を振ってやれ」「「「「わぁい!」」」
子らが手を振ると、オーク達の熱狂がさらに加速する。
『お、俺に手を振ったぞ!』『俺には笑いかけてくれた!』『俺なんて芋煮を作ってくれると心で語ってくれたぞ!』『それなら俺はうちの子になってくれると『『『それはないだろ』』』ううっ……』
子らが手を振り笑うだけでこれである。
すげえ。
うちの子ら本当にすげえ。
生まれ変わっても信仰半端無い。
「楽しいか?」「「「うん!」」」
「よかったな」
「えう」「むふん」「はい」
子らに笑いかけたカイが、ふと後ろを見れば情けない顔をした祝福ズだ。
『祝福エリザ、なんという情けないありさま』
『祝福ベルティアに言われたくはありません』
お前らは子らの爪の垢でも煎じて飲め。
カイは心で呟き、子らと一緒に手を振り笑う。
老オークがミリーナに懇願した。
『ミリーナ様、熱狂する皆に始まりのえうを』
「えう!」『『『……』』』
おぉおおおおえうえうえうえうえうえぅ……
『なんという素晴らしい』『これほどまでのえう、聞いた事がない』『さすがはイリーナ様の御母堂ミリーナ様』『このえうを受け継いだイリーナ様の何と偉大な事よ……』
すげえ、相変わらずさっぱりわからん。
シャル家の外のオークの熱狂半端無い。
歓迎でも何とも怖い有様である。
『カイ様! カイ様も是非ともえうのお言葉を!』
「……えう?」『『『……』』』
そして道行くオーク達の叫びにカイがえうと言ってみれば一気に静まる町である。
「……?」
『『『この方のえうには徳がありません!』』』
「えーっ……」
熱狂、一気に失望へ。
あぁあああああうえうえうえうえ……
落胆半端無いオーク達だ。
『芋煮三神の父ともあろう方がこんなえうとは信じられん!』『この方は、本当に芋煮三神様の父君なのでありますか?』『これでは俺のえうの方が素晴らしいじゃないか!』『神の父より我らのえうが素晴らしいなんてバカな事があるものか!』
なに? この謎の世界。
全く理解できないので、罵倒されている気にもならないカイである。
「いや、俺らの世界ではえうはまったく重要じゃないから」
『『『そんなバカなえう!』』』
カイの言葉に驚愕半端無いオーク達だ。
『そういえば、ミリーナ様とイリーナ様以外からえうの言葉を伺った事が無い』
『通り抜けるだけのエルフや人間も異界討伐の勇者も竜もえうとは誰も言わない』
『この素晴らしさがわからぬ世界とは、神の世界は何と恐ろしい……』
『とにかく、カイ様のえうには徳がありませぬ。えう名声をお磨きなさいませ』
『あぁ、この程度のえうとはなんと情けない』
「なんだその、えう名声ってのは!?」
何とも理不尽な言葉に、カイはシャル家の中で叫ぶのであった。
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