15-18 新生勇者誕生
「みんなありがとう。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
異界討伐から二週間後の夜、ビルヒルト領館。
撤収から報告書、書類仕事諸々を終えた今回の討伐参加者は、杯を掲げたアレクに続いて杯を掲げた。
異界討伐は王国への報告までが仕事。
異界討伐は国家事業。
勇者級冒険者といえども書類と経費精算から逃れる事はできないのだ。
それが終わった今日は戦勝祝いと訓練終了祝いと勇者誕生祝いを兼ねた宴会。
異界は無事に討伐され、王国兵達は実戦を経験する事で成長した。
そしてダロスら勇者見習いはシスティに認められ、正式に勇者級冒険者となる。
主を討てる程ではないが、階層主を討てる実力はあると認められたのだ。
「おめでとう」「でも、まだまだひよっ子なんだから無理しちゃダメよ?」「今度俺の店に来い、うまいもん食わせてやるぞ」「おめでとうございます」
「「「「ありがとうございます!」」」」
アレク、システィ、マオ、ソフィア。
王国最強の勇者達の祝いの言葉に、ダロスら新生勇者は感激半端無い。
これから彼らは長く険しい勇者の道を歩んでいく事になる。
今はまだ階層主を討つ真打ち勇者の露払い。
しかし経験を積み成長すれば主を討てる真打ち勇者になるだろう。
この宴会は新生勇者の門出なのだ。
「俺たち、見守ってただけだったな」「いいじゃんか。楽だったし」「でも、カイ殿が居なかったら俺たちも忙しかっただろうなぁ」「カイ殿、強くなったなぁ」「俺らの出番まるでなかったもんな」「でも……」「ああ……」
「「「あったかご飯の人なんだから、戦うより芋煮を作って欲しかった」」」
あぁあああああしめしめしめしめ……
そんな勇者達を眺めながら、エルフ勇者達はがっかり半端無い。
拠点でも見てるだけ。運搬路でも見てるだけ。階層主も主も見てるだけ。
カイが参戦した事でエルフ勇者は見てるだけで終わってしまった。
「それは悪かったな」
「「「カイ殿!」」」
そんな呟きに律儀に謝るカイである。
「言えば作ってやったのに」
「俺らが戦いますから芋煮をと、何度言おうと思った事か」
エルフ勇者達、我慢していたらしい。
「でも、くっそ使えない祝福にカイ殿が尻をバチンバチン叩かれてる姿を目の当たりにするとなぁ」『『がぁん!』』
「芋煮なんて作ったら、カイ殿の尻がくっそ使えない祝福に五つくらいに割られてしまう」『『がぁん!』』
「ですから涙をのんで諦めたのでございます……くっそ使えない祝福の分際で!」『『がぁん!』』
ええい、がぁんがぁんうるさいぞ祝福ズ。
カイは呆れて笑い、腰から鍋を抜き床に据えた。
「わかったわかった。今から煮てやるから待ってろ」
「「「ひゃっほい!」」」
おぉおおおめしめしめし……
宴そっちのけで芋煮に喜ぶエルフ勇者達である。
「ルー、水」「むふん」「芋は……」
「こちらをお使い下さい」「こうなると思って、準備しておきました」
かかる声にカイが振り向けば、芋と諸々の食材がこんもり乗った台車を押して現れるアルハンとダリオだ。
王国軍の補給を担当していた彼らも、当然この宴に参加している。
この宴は全てトニーダーク商会持ち。
こういう所に上手に食い込むのはさすが大商会。抜け目ない。
「アルハン、ダリオ。用意がいいな」
「我らオルトランデルの商人はエルフとの付き合いが長いですからな。このくらいの事はお見通しでございます」
「討伐中にエルフ勇者達が嘆いておりましたから」
「そうなのか」
「「「ひゃっほい!」」」
踊るエルフ勇者に苦笑いして、カイは適当に食材をぶっこみ鍋にマナを流す。
聖剣『心の芋煮鍋マークスリーカスタム』はマナを効率良く熱に変え、たちまち芋煮鍋がグツグツと煮立ちはじめる。
エルフ勇者が歓声を上げて踊り始めると、システィが呆れて声をかけてきた。
「あんたねぇ、宴してる最中に芋煮る?」
「仕方ないだろ。エルフ勇者が作ってとせがむんだから」
「ほう、宴の料理は俺と弟子達が腕を振るったもんなんだがなぁ」
「「「マオさん!」」」
驚愕のエルフ勇者達。
「やべえ!」「まさしく神対決!」「美味なマオさんか、はたまたエルフ心のあったかご飯か」「「「迷う!」」」
「どっちも食べれば、いいんじゃね?」「「「解決!」」」
そして食べまくる事に決めたエルフ勇者達だ。
「アホか」
「アホえう」「む、アホ」「アホですわ」
そんな様を呆れて見ながらカイは芋煮を作り、ミリーナ、ルー、メリッサはマオの料理をもりもりと食べる。
「パーパ」「パーパの芋煮」「出来たら食べても、いいー?」
「いいぞー」
「「「わぁい!」」」
『もっしゃもっしゃ』『わぁい!』「わふんよ」
子らも色々な料理を目を輝かせてもりもり食べている。
マリーナもシャルも当然もりもり食べている。
ついでにエヴァももりもり食べる。
カイ一家もやっぱりエルフ一家。美味しいご飯があればもりもり食べるのだ。
「よぉし! 芋煮できたぞ!」「「「ひゃっほい!」」」
「俺のデザートも食え」「「「ひゃっほい!」」」
エルフ勇者にカイが芋煮を振る舞い、マオが料理とデザートを振る舞う。
「あぁ、すばらしい……」「まるで夢のようだ」
「なあ、俺たちこんなに幸せでいいのか?」「もしかして……これは、死の予感?」「死ぬ前にいい事があるってアレか!」「「「やべえ!」」」
「でも、蘇生すればいいよな?」「「「解決!」」」
「アホか」「「「おかわり!」」」「アホか!」
「カイ様、まだ芋はありますぞ?」「こんな事もあろうかと用意しておきました」「アルハン、ダリオ。お前らもアホか!」
エルフ勇者は恍惚と食べ、悩んで食べ、開き直って食べる。
宴会場の一角で繰り広げられる様に皆の注目半端無い。
宴会の主役のである新生勇者達も呆れ顔だ。
「この宴、俺らの門出を祝う宴だと思っていたんだが……」
「さすがエルフだな」「まあ、エルフですし」「ホント。よく食べるわね」
ダロスが呟き、他の新生勇者と呆れて笑う。
「カイ殿、おかわり!」「里の皆への土産にするので、俺の聖剣で煮込んでください!」「俺も!」「テイクアウトプリーズ!」
「お前ら、いい加減にしろ!」
エルフ勇者はカイに延々と芋煮を要求し、やがてカイは叫んで不貞寝するのであった。
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