15-15 さすカイ教団、ダンジョン最下層へ
『ギィアアアァアアア……!』
第二階層、階層主の間。
階層主であった巨大なクモが八本の手足をのたうち回らせながら絶命した。
勇者見習いダロスの剣が怪物の頭を切り飛ばしたのだ。
最初の成功で階層主が倒せる相手だと理解したのだろう、勇者見習い達の動きは前回とは打って変わって機敏で臨機応変だ。
終始優勢に戦いを進め、カイがのんびりと戦場に参加した頃には勝負はほとんど決まっていた。
「終わったか」
「無駄踊りだったえう」「む。勇者見習い本調子」「大技を繰り出した甲斐がありましたわ」
カイが鍋を腰に戻し、ミリーナ、ルー、メリッサが踊りをやめる。
相手が心を読めない事を良い事に適当ぶちかます大技ハッタリもそろそろ卒業。
こいつらから見習いの文字が無くなるのも近そうだ……
と、カイが見習い勇者らの成長を喜んでいると、不機嫌そうな表情のダロスがカイに寄ってきた。
「お前、ずいぶん階層主に警戒されてるな」
「あ、さすがにわかったか。賢い賢い」「やかましいっ!」
頭を撫でるカイの手をダロスが払いのける。
彼らは王国に選ばれた勇者となる者達。
余裕を持てば相手の動きも見えてくる。階層主の視線や動きで戦っている自分達よりも踊っているカイ達を警戒していた事がわかったのだ。
勇者、奇妙な踊りに敗北す。
実際に討伐したのは自分達だが、後ろで踊っていただけのカイ達のおかげ。
何とも情けない結果に不機嫌半端無いダロスだ。
「つーかもったいぶらずにとっとと出せよ。山をも砕く大技なんだろ?」
「使わなければ、それはそれで良い事だ」
「えう」「む」「はい」
「このやろう!」
そもそも嘘だし。そんな大技ないし。
持っていない事はないけど、山を砕くどころじゃない超絶はっちゃけ祝福だし。
そんな事を考えながらカイがはぐらかすと、ダロスの後ろで回復勇者が何とも申し訳なさそうに頭を下げている。
回復魔法使いは心が読める。
そんな回復勇者の嘘八百をダロスはまるっと信じているのだ。
「まあ、そろそろ俺らが何もしなくても大丈夫そうだな」
「見習い卒業えう」「おめでとう」「おめでとうございます」
「当たり前だ!」
カイの言葉にダロスらが胸を張る。
これで階層主、二戦二勝。
勇者見習い達は実戦に勝利する事で、己の強さを発揮しつつある。
実戦を危なげなくこなせるようになれば本物だろう。
彼らはカイの補助のもと、勇者たる強さを自ら示したのだ。
この討伐が終われば、彼らは勇者として認められる事だろう。
「階層主を踊りで倒したぞ」「勇者見習いもかたなしだ」「さすカイ」「さすカイだ!」
おい、さすカイ教信者ども。勇者がヘソ曲げるからそんな事言うな。
「さすカイ……」
そしてお前はまた拗ねてるのか。アレク。
カイは地べたに丸まって拗ねるアレクに呆れ顔だ。
「僕はカイにそんな事してもらった事ないのに……」
「お前、出会った時から俺より強かったじゃんか」
「強くてもアシストーッ!」「飯食わせてやったじゃん」
アレクは出会った時からカイより強かった。
エルフ同様、満足に食べられなかっただけ。
腹一杯食わせてやれば、カイは常に助けられる側だった。
しかし、そんな理屈でアレクは納得しない。
本人は不本意だろうが、カイも今は強いのだ。
アレクが叫ぶ。
「主を討伐する時は、僕もさすカイアシストを希望します!」
「え? 俺、主と戦うの?」「さすカイ……」
「ああもうわかったわかった。俺が死なないようにしてくれよ?」「さすカイ」
「妻達は戦わせないからな?」「さすカイ!」
「えうっ」「ぬぐぅ」「ふんぬっ」
三十半ばになって面倒臭い拗ね方だ。
カイは拗ねるアレクをなだめると、第三層へと続く門を見た。
「次が、最下層だな」
「そうね」
カイの言葉にシスティが頷く。
異界の顕現はまず主が現れ、主の願いで階層が作られる。
そして一週間ほどかけて階層は空間を広げ、その後に新たな階層を作る。
初期のダンジョンは一週間に一階層を増やす。
この異界は顕現から二週間と少し。
だから第三階層が最下層となるはずだ。
「ここからの抵抗は、これまで以上のものになるわよ」
システィがカイに言う。
最下層は異なる世界への出口でもある。
相手がどういう主かは知らないが、怪物はどんどん投入されてくるはずだ。
対するこちらは踏破した二階層も無視出来ない。
物資も人員も二階層を移動しなければカイ達には届かない。
そしてバルナゥのダンジョンにもあるように、ダンジョンには主の側にのみ使える秘密の道がある。
それを使って階層を移動した敵に補給路や拠点を制圧されれば、カイ達はダンジョンの底で孤立する。
「討伐側の宿命ね。主を討伐するまでは死守しなければならないわ」
「異界側はどこでも攻められるのはズルいよなぁ」
「カイ。世界の構造に文句を言っても仕方がないわよ」
『私も時々困ってます』『私はいつも困ってます』
システィの言葉に祝福ズが苦悩を漏らす。
異界のダンジョンは世界を貫いた主の世界。
不利なのは仕方がない。
しかしそんな中でも兵は精強。気合い充実だ。
「大丈夫。さすカイだから」「だってカイだもの!」「さすカイ!」
「ええいお前らやかましい!」
さすカイ信者、俺にぶん投げるんじゃない。
「ぷぷっ、ぶん投げ得意なあんたの信者らしいじゃない」「このやろう!」
そしてシスティ、王国兵のザマを笑ってないで何とかしろ。
「今の俺たちなら主にだって勝てる」「おお!」「はい!」「がんばります!」
「あんたらはカイと同様ばっちり見られてるから、主との戦いには出さないわよ」
「「「「えーっ……」」」」
そして勇者ズ、慣れてきたからって調子に乗るんじゃない。
と、騒ぐ皆に思うカイだ。
「で、では誰が戦うのですか?」
「私達に決まってるじゃない」
不満そうに問うダロスにシスティが不敵に笑う。
「あなたたちに勇者の戦いを見せてあげるわ」
「そうだねシスティ」「お、ついに料理以外にも出番が来たか」「はい」
アレク、マオ、ソフィアがシスティの言葉に頷く。
「そしてさすカイ!」
「えーっ……俺もばっちり見られてるじゃん」
「あんたはアレクのお守りよ」「なんだそりゃ」「さすカイ!」
カイ、お守りで主討伐に参加。
しばしの休息の後、王国軍は最下層への攻撃を開始した。
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