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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
15.カイ・ウェルスと尻を叩く祝福
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15-10 異界討伐は集団戦

「かかれーっ!」


 指揮官の号令で、王国軍が討伐を開始する。


 異界討伐で最も危険なのは、世界を渡る瞬間だ。

 城が城壁や城門や堀で内部を守っているように、異界も世界との接点を制限する事で内部を守り、外部からの攻撃を防いでいる。


 顕現した異界とは世界のマナを吸い上げる管。

 側溝や水路にゴミが溜まれば水の流れが悪くなるように、兵や勇者に侵攻されればそれだけ流れが悪くなる。

 顕現した異界の主にとって侵入者は管の流れを悪くするゴミでしかない。

 だから、入り口で排除する。


「台所の下水口に物が入らないように網が張ってあるのと同じよ。食べ物の皮とか下水で流すと詰まって後が面倒臭いじゃない」

「ああ、そういえばそうだったな」


 システィのたとえに、過去形で語るカイ。


「今は違うの?」

「今はシャルが全部食っちゃうからなぁ」

「気にせず流すえう」「だから下水とか全くない」「ですわ」

「……あんたらに人間の常識を語った私がバカだったわ」「さすカイ!」


 王国軍の異界攻撃を眺めて呟くカイ一家に、システィが頭を抱える。

 アレクは相変わらずのさすカイだ。


 今、王国軍が行っているのは入り口を確保する為の攻撃だ。

 弓を射掛け、魔撃を撃ち込み、魔石を使った爆弾を投げ込み、強化魔法をかけられた重装兵が内部確認のために突入する。


 抵抗が強ければこの手順が繰り返され、少なければ兵を突撃させて内部での安全を確保する。


 なるほど。アルハンら商人が必要な訳だ。


 と、カイは感心した。

 時が経てば異界は階層を増やし、中の構造は複雑になる。

 階層を移動する度にこんな攻撃をしていたら、外からどんどん物資を運び込まなければやってられないだろう。


 異界は可能な限り素早く討伐。

 マナを吸われ続ける事だけが問題ではない。

 労力と経費が半端無いのだ。


「しかしアレクは以前、単身乗り込んでたよな?」

「異界が力を持つ前に潰そうってシスティの方針でね。後続なんて待たないんだよ。だから装備も同行勇者も他の勇者とは別格さ」

「あぁ……まあ、システィらしいな」


 アレクの言葉にカイも納得だ。

 触れたもの全てを食らう聖剣グリンローエン・リーナス。

 それを手にした王国最強の勇者アレク、魔法で集団を蹴散らすシスティ、世界樹の葉を現地調達出来るソフィア、百戦錬磨のマオ。


 昔は世界樹の枝を素材と燃料に使った、神の力を宿した国宝武具。

 今はエルトラネのピーが作ったイッちゃった武具。

 昔も今もアレク達は王国最強の勇者なのだ。


「あの時だってシスティが天撃を何発もぶち込んでたし、リーナスは何でも吸い込む聖剣だったからね」

「髪の毛が触れただけで頭半分だっけ? まったく、イグドラの食いしん坊め」

『のじゃ!』


 王国軍は討伐手順を確認しながら淡々と攻撃している。

 本来の討伐はこれに加え、異界からあふれた怪物の討伐や入り口を守る砦の攻略などが必要となる。


 この異界からあふれた怪物は、エルフがすでに排除済み。

 ここはエルフが畑を耕すビルヒルト。

 畑を蹂躙する怪物なぞ即排除だ。


 頻発する異界顕現、生活する屈強なエルフ達、少ない人口。

 異界顕現が頻発する間はビルヒルト領の発展など不可能。


 そこに目を付けたのはやっぱりシスティである。

 父である国王と話をつけ、異界への警戒という名目で隣の領地に王国軍を駐留させた。


 ビルヒルト領、まるっと演習場化。

 異界が顕現している限り人も投資もスルーするビルヒルト領の数少ない外貨獲得手段。危険な慢性貧乏領にシスティが編み出したやけっぱち産業であった。


『いやはや、贅沢な討伐だなアーサー』

『我らの力だけで、このくらいの討伐を行いたいものです』


 そんな王国軍をうらやましく眺める老オークとえう勇者アーサー。


「そういえば、エリザ世界は水とか動物を流し込んできていたな」

『余裕がないので混乱に乗じて勇者を潜ませ一発逆転を狙いました』

『主を討てば勝ちですからな』


 余裕があれば当然、正攻法で討伐する。

 確実だからだ。


 カイが主だった頃のエリザ世界に、そんな余裕があるはずもない。

 カイ達に土下座して助力を求める位、余裕がなかったのだ。


『しかし余裕があれば、我らの神との出会いはなかったでありましょう』

『我ら、ぶーさんと呼ばれて幸せでございます』

「……そっか」


 ここまで慕われるうちの子超凄い。


 ただ鍋を煮込んでいた俺とは、えらい違いだな……


 と、耳に届く王国兵のひそひそ話に苦笑いのカイだ。


「おい、あいつ何者だ?」「アレク様やシスティ様とも親しげだな」「エルフとも異界の者とも親しげだ」「さっきはエルフ達が謎の盛り上がりを見せていたしな」「あったかご飯の人とか何とか」「なにその、あったかご飯の人って?」「一緒にいるエルフ三人は美女ばかりだし」「うらやましい」


 兵達の言葉は遠慮ない。

 まあ、自分が命をかける場所だ。遠慮しても良い事はないだろう。


「そういえばあの男、兵舎の事務員に似てるよな」「あ、それは俺も思った」「まあ、どこにでもいそうな顔だしなぁ」


 そしてカイズ密度半端無し。


 そんな所にまでカイズを潜り込ませてるのかよ。

 力と金のある所には配置してるわよ。


 カイが視線で語ればシスティが視線で返す。

 さすがは裏の王である。

 兵達の会話は続く。


「そういえば、アレク様がさすカイと叫んでたな」「さすカイって……まさかカイ・ウェルスか?」

「「「ええっ?」」」


 驚く兵達。


「アレク様が火曜日に語りまくるあのカイ・ウェルス?」「今日は寝かさないよと言いながら延々と語り続けるあのカイ・ウェルスか?」「俺、次の日の訓練でケガしたんだよな……寝不足で」「アレク様は王都にいた頃からカイ・ウェルスには半端無かったと、教官殿がおっしゃっていたな」「バカにしてた他の勇者をこてんぱんにして土下座謝罪させたとか」「さすがアレク様」「お、俺達もさすカイと叫んだ方がいいのか?」「いや、人違いだったら俺らがアレク様にボコられるぞ?」「アレク様よりだいぶ若く見えるもんな」「さすカイは確認してからにしよう」「そうだな」


 そしてアレク、お前は後で説教な?


 王様には宝物庫で見たと言われ、王国軍には間違えたらアレクにボコられると言われる。

 謎の超有名人っぷりに頭を抱えるカイであった。

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

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世界樹エルフ
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