15-7 カァモーンッ、バァールナァーゥ! ぺちん
「さすカイ!」「ぬぉあ!」
「さすがカイえう!」「癒やしタイムむふん」「カイ様、お尻を回復いたしますわ」
「「「パーパ、すごーい」」」
『あらあら』『わぁい』
「カイ、次は密偵技術よ。あぁ魔法も捨てがたいわ!」
『『どんとこいですえっへん』』
「このやろう!」
アレクの剣を避け、家族に癒やされ、子らに応援され、どさくさにまぎれて色々仕込もうとするシスティと胸を張る祝福ズに怒鳴り……
「ま、まだ避けられんのか……」
「さすが神の祝福えう」「む。はっちゃけ無双」「回復回復ーっ……ぷるっぷ」
カオスでハードな日常を送りながら、カイは尻の痛みに呻いていた。
『『尻叩きを避けようなど万年早い』』
「死ぬまで無理なのか!」
『『さぁ?』』
「このやろう!」
答えを曖昧にする祝福ズにカイは叫ぶ。
アレクの剣は避けられても祝福ズの尻叩きは避けられない。
神の祝福だけにその平手はまさに神速。しこたま尻を叩かれるカイである。
『しかしなかなか良い動きになってきました』『はい。勇者であるアレクさんを上回る動きです』『『避け専門ですが』』
「やかましい!」
祝福ズの言う通り、今のカイは避けるだけならアレク以上。
勇者級冒険者は人の枠を超えた存在。
知らぬ間に枠外にされてしまったカイである。
さすが神。押し売り半端無い。
「風魔法で尻を冷やすのはまかせるえう」「む。水魔法でもいける」「師匠の回復魔法はさすがですわ」「ついでに魔撃のキレも良くなったえう」「む。水魔撃も同じくキレッキレ」「そして切れ痔もいぼ痔もメリッサにおまかせくださいませ。師匠直伝の回復魔法は効果てきめんですわ」
「いや、まだ痔にはなってないから」
「パーパすごーい」「マーマもすごーい」「わぁい」
『あらあら』『わぁい』
ミリーナとルーはシスティから、メリッサはソフィアから魔法の修行を受けている。
全てはカイの尻の為。
ついでに祝福ズの願いの為にカイ一家一丸。
『仲良き事は美しき哉』『さすがカイ一家です』
そんな姿に満足に頷く祝福ズだ。
「お前らは無理矢理祝福を反省しろ」
『カイさんがあんな祝福をさせるからです』『尻を叩いて祝福するのは修行の末に私達の見つけた存在価値』『『アンチョコ囁きダメ。絶対』』
カイの言葉に祝福ズがプイッと横を向く。
まったく困ったものである。
一家全員こんな調子だから行商はカイズとシャル馬車にまかせっきりだ。
まあ、今はそれでも問題ない。
最近は農業研究が進み、エルフも里の土地に向いた作物を作るようになった。
作っていない作物は、他の里に求めるしかない。
だからエルフ同士の交易も盛んになってきた。
道はしっかり整備され、カイだけが行商をするような事も解消されつつある。
カイ一家だけが道を走っていた数年前が嘘のようだ……
食べ物以外は知らんぷりなのは相変わらずだが。
そんな訳だからカイが今、売っているのは荷馬車だ。
エルフは馬車を本腰入れて作る気はまだないらしく、馬とセットでそこら中の里に売り空前の利益を上げている。
まあ、農業用水や粉ひきの為に水車を作るエルフの事、その内に馬車もホホイと作る事だろう。
エルフ農業技術者は、食に絡む事には本当に半端無いのだ。
「そういえば最近、鉄で橋を作ったそうですわ」
「すげえな」
「違うえう。アトランチスのミスリルを転用したえうよ」「だから軽くて超頑丈」
「すげえな!」
いや、本当に食への執着半端無い。
驚きと共に少し寂しいカイである。
しかしそれも仕方ない。
エルフは元々人よりも強い種族。
イグドラとの関わりで停滞していただけの事だ。
こんな調子でどんどん発展し、カイの手を離れていく事だろう。
「子の独り立ちは、きっとこんな気持ちなんだろうなぁ……」
「えう?」「む?」「はい?」
「「「んー?」」」
芋煮主だった子らをダンジョンに残した時と似た寂しさに、カイは呟く。
あの時カイがダンジョンに居座っていたら、今ここで首を傾げる子らはいなかったかもしれない。
親は親、子は子。
そしてエルフはエルフ、カイはカイ。
皆、それぞれに進む道がある。
ならば、せめて邪魔にならないようにしないとな。
と、妻達に治療してもらった尻をさすりながらカイはよっこら起き上がる。
エルフ達はカイを慕う。
ほとんどの里ではあったかご飯の人と慕い、芋煮プリーズと寄ってくる。
ボルクの里では焼菓子様と現人神の扱いだ。
そんなカイが危機に陥る事があればエルフは振るう鍬を剣に変え、畑ではなく敵に果敢に立ち向かうだろう。
それが、エルフにとってのカイ。
『回復しましたね?』『もうアレクさん避けは良いでしょう。次のステップに進みます』「さすカイ!」
「……はいよ」
だから、そんな事にならないように頑張ろう。
皆が笑って芋煮プリーズと寄ってくる日常のために、頑張る。
自分の尻よりやりがいはある。
カイの努力を見続ける事で、祝福ズも今の価値を内包できる大きな価値に気付く事だろう。
カイは祝福ズに従い、エルネの森へと移動した。
『それでは次の修行です』『先生、お願いします』
祝福ズが頭を下げた直後、ガァーフゥーッ……マナブレスがカイの頬を撫でる。
木々の影から現れた姿は……
「バルナゥじゃねえか!」
カイが叫ぶ。
なんつースパルタだ!
死ぬ! 今度こそ死ぬ!
ぶっちぎり世界最強の大竜を前に、カイは戦いに使った事のない鍋を思わず引き抜いた。
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