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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
15.カイ・ウェルスと尻を叩く祝福
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15-6 カイ、アレクに弟子入りする

『はい。今日からカイさんの師匠となるアレクさんです』『すごい!』

「……なんで?」


 ビルヒルト領、ビルヒルト。

 エルフ勇者達と一緒に並びながら、カイは首を傾げた。


 冒険者ギルドではカイは今でも下級の青銅級冒険者。

 それも戦闘向きではない薬草採集専門とギルドには認識されているはずだ。


 さらに今は冒険者ですらなく商人。

 身分も階級も勇者という頂点集団に混ざれるような強者ではないのだ。


「なんでいきなり勇者と一緒に訓練? ちょっとスパルタ過ぎないか?」

『いえ、このくらいが妥当です』


 しかし心配なカイとは違い、祝福ベルティアは自信満々。


『私達の度重なるはっちゃけでカイさんは強くなりましたので』

『いきなりアレクさんでも大丈夫』

「……なんて迷惑な」


 どうやらはっちゃけの場数を踏んでいるうちに、強くなっていたらしい。

 神々の抱き合わせ押し売り感が半端無い。

 そして呆れるカイと対象的に笑顔満面なのは訓練教官を務めるアレクだ。


「ついにカイの素晴らしさが日の目を見る日が来るんだね……さすカイ!」

『『さすカイ!』』


 そんな日の目はいりません

 というかエルフの里とランデルと聖教国とエリザ世界では超有名人です。

 その他の場所では王侯貴族しか知りませんが。


 と、騒ぐ彼らにカイが心でツッコミを入れる。


 しかし、そんな事は彼らも知っているだろうに神々はさすカイ。

 アレクも当然さすカイ。

 さすカイ包囲網だ。


「いやアレク。お前領主だろ? 俺の鍛錬なんぞしてる暇ないだろ」

「カイの為なら領主の座なんて惜しくないさ!」「アホか」

「今すぐ一家でエルネの里に引っ越しても良いくらいさ!」「アホか!」


 領主なのに、そして妻子ある一家の長なのに恐ろしく軽いダメフットワークにビルヒルト領は大丈夫かと心配するカイだ。


「システィ、何とかしてくれ」

「あら、私はあんたを鍛えるの大賛成よ? だってあんたの技量が上がるとカイズの能力が底上げされるもの。頑張れカイワン!」「うわぁ!」

「あ、家族とのスキンシップもしっかりね? カイズが嘆くから」「ひでえ!」


 そして実質領主のシスティもアレク同様喜色満面。

 カイズ使いのシスティにとって、カイは全てのカイズに通じるカイ。

 本当は常に拉致して役立つ技術を何でもかんでも仕込みたいのである。

 システィは頭を抱えるカイにニヤリと笑うと、訓練の開始を宣言した。


「アレク、徹底的に鍛えてあげなさい」「さすカイ!」

「いやいや適当でいいから。お前ら基準だと俺が死ぬから! 俺、今は商人だから!」


 ニッコリと抜刀するアレクにカイは叫ぶ。

 死と紙一重を普通に歩くアレク基準でやられたらたまったものではない。

 が、しかし……


「カイ、がんばるえう!」「む。カイはできる夫」「カイ様、お尻の回復はお任せ下さい!」

「「「パーパ、がんばれー」」」

『あらあら』『わぁい』

「お、おう……」


 妻達子供達に応援されると頑張ろうと思ってしまうのが夫の性、そして父の性。


『『がんばれー』』「このやろう!」


 そしてとばっちりを食らわせた神々にこのやろうと思うのは人の性だ。

 そんなカイ一家にアレクは笑い、カイの前で剣を構えた。


「じゃ、まずは避ける事をやってみよう」


 アレクが剣の切っ先をカイに定める。


「俺は避けるだけでいいのか?」

「いきなり受けるとか無理だからね」


 攻撃を受けるのは戦った場数がものを言う。

 薬草をのんびり採集していたカイにそんな経験は皆無に等しい。


 戦いは出来る者にぶん投げ鍋を煮込む。

 アーサーらエリザ世界の勇者達の攻撃を受けた時に構えた武器がおたまなくらい、カイは戦いと縁がない。

 それがカイの戦い方だ。


 アレクは笑いながらカイに語り続ける。


「避けてる限り生き延びられるし、生きてる限り反撃できる。僕らが狼の群れと戦った時もそうだったじゃないか」

「あー……互いにケガしないように必死だったな」

「そう。負けない限り勝つ機会はあるんだよ」


 あの時は戦う力を削がれない事を第一に戦った。

 負けず、力を削がれず、互いに助け合って機会を待つ。

 下痢と嘔吐に苦しみながらカイとアレクはそれを行い、狼の群れに勝ったのだ。


「でも、あの時はマリーナが見ていなければ死んでいたからな?」

『たまたまです』

「あはは。運も実力のうちさ」


 ……まあ、腹の調子をベルティアが何とかしていなければ死んでいたのだが。


「じゃ、いくよ!」


 ぬるり……アレクが動いた。

 手にする剣は異界と戦う本物の聖剣『心の芋煮鍋』。

 アレクは笑みを浮かべたまま自然にカイに近付き、鋭く剣をカイに振る。


 カイは微動だにしない。

 武器としては使わない聖剣『心の芋煮鍋カスタム』に手をかける事もない。

 アレクの剣が風を切り、カイの髪がふわりと踊る。

 剣を振り抜き静止したアレクが、動きもしなかったカイに問いかけた。


「カイ、どうして動かなかったんだい?」

「いや、だって今のは当たらないだろ」

「さすカイ!」「ぬぅおあっ!」


 シュバッ!

 アレクの次の刃は派手に避けるカイである。


「今のは殺す気だったろ!」「真っ二つを狙いました!」「笑顔で言うな!」「大丈夫! ソフィアさんに頼めば灰でも蒸気でもばっちり蘇生さ!」「だからって笑って殺しに来るんじゃない!」「さすカイ!」「ぬぅおおおおっ!」


 避ける、避ける、動かない、避ける、動かない、避ける……

 アレクの剣が空を切る。


「さすがカイ殿」「芋煮勇者に引けを取らないぞ」「芋煮勇者は飯マズでも腕っ節でねじ伏せやがるから嫌だよな」「しかしカイ殿の芋煮ならウェルカム!」

「「「うちの芋煮勇者になってもらおう!」」」

「お前らは自分の訓練してろよ!」「こんな時にもツッコミ入れるさすカイ!」


 隣で訓練しているエルフ勇者の雑談にツッコミを入れる余裕もあるくらいだ。

 祝福ズの言う通り、確かに強くなっている……押し売り感半端無いが。


『『えっへん』』「やかましい!」


 ええいもうこの際だ。

 尻叩きを避けられるくらい強くなってやる。


 胸を張る祝福ズにカイは怒鳴り、覚悟を決めた。

 望んではいなかったが強くなってしまった以上、仕方ない。

 とことんやるまでだ。


「カイ、動きが良くなってきたね!」「尻が可愛いからな」「こんな時に尻の心配とかさすカイ! 僕も殺すつもりでぶった切るよ!」「頑張るな! 隙を狙うな! フェイント使うな!」「さすカイ!」


 アレクは剣を振り続け、カイは避け続ける。

 命のやりとりをしているのに二人は笑顔。

 あの時別れた二人の道が今、ここにある……レベルは段違いであったが。


「相変わらず仲良しねぇ。ちょっと妬けちゃうわね」


 そんな二人に苦笑いのシスティ。

 そして歓声を送るカイ一家だ。


「「「パーパ、すごーい!」」」

『あらあら』『わぁい』

「ミリーナも修行するえう!」「む。水魔法ならルーにおまかせ!」「私も師匠にもっと学ばねばなりません。そしてカイ様のお尻の助けとなるのです!」

「よし! お前ら俺の尻を頼んだぞ!」

「えう!」「む!」「ふんぬっ!」


 異界の討伐よりカイの尻。

 相変わらずのカイ一家であった。

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

書店でお求め頂けますと幸いです。


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世界樹エルフ
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