15-5 カイ、祝福を祝福するハメになる
「ごちそうさまでした」
エルネの里、カイ宅。
ジャラリ……魔道具の残った椀を置き、カイは手を合わせた。
「完璧えう」「む。さすがカイ」「やればできる旦那様ですわ!」
「「「パーパすごーい」」」
『あらあら』『わぁい』
一家が驚嘆する通り、カイのマナ判断は完璧だ。
食事限定だが他の事に使う予定はまるでない。
カイ的にはこれでオッケーなのだ。
『『願いは叶えられました』』
ざばぁ……
そして祝福ズ的にもこれでオッケー。
カイのお尻もこれで安泰。カイは見守っていてくれた皆に笑う。
「皆、心配かけたな」
「えう」「む」「はい」
「これで来年の竜牛肉野菜炒めはビルヒルトの奴らにリベンジだ!」
「次はシスティに目にもの見せるえう!」「む。大皿の頂点を極める一家爆誕!」「そうですわ! 次こそ竜牛肉食べ放題「いや、それは懐具合で無理だ。すまん」あうっ……」
竜牛肉は食べた分だけお金がかかる。
マナを見れても懐具合は変わらない。
カイはメリッサの言葉をやんわり遮り、椀を洗い場へと持って行く。
「それにしても、ここまで凝ったものを作るとは」
魔道具食材を洗いながら、呟かずにはいられないカイである。
洗えば緻密な芋煮や肉や野菜の姿。
一緒に煮込むと熱を蓄え、保温して傷まないようにしてくれる。
魔道具はエルトラネ……ではなくアトランチスのメリダの里製。
メリダの里もハーの族。
聖教国に完全管理されていたのでエルトラネには遠く及ばないが、ピーが技術を継承し続けていた事は変わらない。
「でも、このくらいならエルネでも作ってたよな」
「エルネはバルナゥからミスリルを貰えたえう」「む。知識は継承できても実技が継承できない」「そうですわ。王国が辺境国でなければエルトラネも同じ事になっていたでしょう」
知識はあくまで知識。実物ではない。
作れるように継承するには実物の作成は不可欠。高度な魔道具に必須なミスリルをすべて聖教国に奪われるメリダの里ではピーでも完全な継承は無理だったのだ。
「しかしこれ、ミスリルが使われてちゃ人間には売れないなぁ……高すぎて」
「えうっ」「ぬぐぅ」「ふんぬっ」
まあ、知識としては残っているのだからシスティとエルトラネが色々やってる事だろう。
あやふやな知識は一度しっかり形にしないと危険度合いが半端無い。
そういった知識をシスティとエルトラネは収集し、修復し、作成し、場合によっては封印しているらしい。
廃都市アトランチスが農業研究集団ならエルトラネの里は魔道具研究集団。
そんな所でもシスティは世界を守る勇者なのだ。
「それにしても、システィはよくもあれだけ動けるもんだ」
「人間なのにえう」「祝福されてもいないのに」「本当に超人ですわ」
あれでカイルとカイトもしっかり育てる肝っ玉母さん。
カイなんぞ逆立ちしてもかなわない。
『あの人はうちの世界にトンネル掘りまくるんで困ります』
「あー、やっぱ移動は異界経由か」
そんな会話に割り込むのは祝福エリザだ。
この世界を移動すれば数千キロの彼方でも、異界を繋げて通れば数分。
こういう所はさすがシスティ。
『ついでにマナも奪っていきます。カイさん何とかして下さい』
「あいつが超人な訳だよ……」
「主えう」「ぬし」「主ですわ。まさに顕現した異界の主ですわ」
通るついでに自らのマナも補充しているらしい。
こういう所もさすがシスティだ。
「そのかわりエリザ世界の異界討伐を手伝ってくれるんだろ?」
『それはそうですが、あの人掘り過ぎるので赤字なんです』
「赤字は問題が解決してから補填してくれ」
『その前にあの人が他界しますよ。借金踏み倒しです』
「そりゃそうだ。えげつねぇなシスティ」
エリザ世界の問題が百年や千年で解決するなら誰も苦労しない。
何万年と時間をかけて解決するべき問題だ。
当たり前だがその前に寿命で死ぬ。
つまりやったもん勝ちである。
さすがはシスティ。
「じゃあベルティアに補填してもらえ」
『先輩はカイさんに甘くても私にはそこまで甘くないです』
『世界の不始末は神の不始末です。垂れ流した赤字の十倍は払ってもらいます』
「高いなーっ」
『私がイグドラを天に還す時のぼったくり価格に比べれば、超良心的ですよ』
『がぁん!』
祝福エリザの嘆きをしれっと現れた祝福ベルティアがぶった切る。
さすが神の世界。対価もカイの想像を超えている。
あまり関わりたくないなぁ……
と、思いながらカイが魔道具を洗っていると、いきなり祝福エリザが叫んだ。
『カイさんが補填して下さい!』
「えーっ……」
『さぁ願うのです。エリザ世界を救いたいと願うのですカイさん!』
「俺が祝福するんかい!」
あべこべだ。
妙な育ち方をしてしまったなぁ……
これもルーキッド様の言う飼い主責任か?
俺が身をもってエリザ世界を助けないといかんのか?
と、カイはため息をつく。
そのカイのため息に、祝福ズの瞳がギラリと輝いた。
『『あなたの願いを叶えます』』
「は?」
『身をもってエリザ世界を助けないといかん!』『さすがカイさん!』
「そこで切るんじゃない! いかんのか? だ!」
『『はぁ?』』
「このやろう!」
『『叶えますったら叶えます!』』
もはやイカサマだ。
こいつら、ひねくれた育ち方をしてしまったなぁ……
と、カイは盛大にため息をつくのであった。
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