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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
15.カイ・ウェルスと尻を叩く祝福
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15-3 祝福が俺にだけやたらと厳しい

「いただきます」

「えう」「む」「はい」

「「「いただきまーす」」」

『いただきます』『わぁい』

『『いただきます』』


 朝。エルネの里、カイ宅。

 カイは家族と共に、朝食に手を合わせた。


 食が豊かになっても食への感謝は忘れない。

 研究学会ができて祝福が戻り、アホなくらいに農業生産性が上がっても食への感謝を忘れない。

 それがエルフだ。


 カイも今はエルフの祝福を受けたエルフの一員。

 食事にしっかり感謝して、フォークとスプーンを手に取った。


 今日もいつもと同じ芋煮だ……カイ以外のものは。


 カイの芋煮はいつもの芋煮と見た目は同じ。

 カイは湯気あふれる芋煮にフォークを構え、芋の一つに狙いを定めた。


「えう!」「む!」「ぬんぬっ!」

「え? これ違うの?」


 そんなカイに妻達が叫び、カイはフォークを引っ込める。


 そう。カイの芋煮は魔道具入り。

 祝福ズがカイの芋煮にぶち込んだのだ。


 魔道具なのかよこれ……


 と、湯気あふれる芋をまじまじ眺めればマナの流れは確かに違う。

 唖然とするカイの背後にぬるぅり……と、祝福ズが移動した。


『マナの流れをまだ理解していませんね?』『お仕置きです』


 ばしーんっ!


「ぬぅおおおおっ!」


 椅子に座ったまま尻を叩かれるカイである。


 障害物があっても祝福ズには関係ない。

 カイに世界樹の守りがあっても関係ない。

 祝福ズの振るった平手は椅子をスルーしカイの尻を直撃した。


 痛い。痛すぎる……!


 カイが椅子の上でのたうち回る。

 祝福ズは叫んだミリーナ、ルー、メリッサに注意した。


『カイさんの成長を妨げてはいけません。これはカイさんが望んだ試練』

『その通りです』

「えうっ?」「ぬぐぅ?」「ふんぬっ?」


 首を傾げる妻達に、祝福ズが言う。


『先日の竜牛肉野菜炒めで家族の足を引っ張った事を、カイさんは気に病んでおりました』

『皆様と同じようにマナを的確に見わける事が出来れば俺の取り皿はジャラジャラ言わず、妻達も自分の食事に集中できたのに……と』

『この試練はカイさんの家族を思う愛のあらわれ』

『ですから助太刀無用』

「惚れ直したえう! これからは全力スルーするえうよ!」

「む。その心意気、妻は全力応援」

「お食事後のお尻の回復はこのメリッサにお任せください!」

「こんなキツいの望んでないから!」


 納得する妻達に叫ぶカイだ。

 気にしたのは事実だが、のたうち回るほど痛い折檻など求めていない。


 これなら食事抜きの方がまだマシだ……


 と、思えば心を読んでツッコミを入れてくる祝福ズ。


『食事抜きなどカイさんには無意味』『作物作れるではありませんか』

「くそぉ」


 どこかで祝福のしつけを間違えたらしい。

 心を勝手に読んで尻叩き祝福をしてしまう祝福なんて付きまとっていたら、怖くて人前にも出られない。


 誰もが心に願望を持つ。

 こんな祝福ズが人前に出れば周囲は尻叩き地獄だ。


 また俺は、ランデル出入り禁止なのか……


 と、湯気あふれる芋煮を前に頭を抱えるカイに祝福ズが告げる。


『十秒……二十秒……一回目の長考時間に入りました』「何そのルール?」

『一分以内に芋煮に手を付けなければ尻叩きです』「何そのルール!?」


 しかしランデルの出入りなんて後で考えれば良い事だ。

 今は朝食に全力投球しなければ尻叩きなのだ。


 食べ物のマナだ。マナの流れを見極めろ……!


 と、カイが芋煮を睨めば妻達が助け船を出してくる。


「カイ。わかる物を先に食べるえう」「む。安全確実なものから除いていくべき」「そうですわ。それでカウントリセットですわ」

「お前ら、俺に助言すると尻叩きが来るぞ」

「えうっ」「ぬぐっ」「ふんぬっ」


 しかし祝福ズはスルーした。


『明確な答えではありませんので』『セーフです』

「そうか」

『ちなみに私達が厳しいのはカイさんだけです』『ですからランデルでホイホイ尻叩き祝福はしませんよ?』

「……そうか」


 少し安心するカイ。


『『そして残り十秒です』』「このやろう!」


 会話で時間稼ぎしやがって。 


『九、八、七……』『六、五、四……』


 高らかにカウントダウンする祝福ズを背にカイは芋煮を睨みに睨み、妻達の助け船にひとつの光明を見出した。

 ペネレイだ。


「そうか。ルーのペネレイならわかるじゃん」「むふん」


 ルーの背中から生えたキノコはルーのマナの特徴を受け継いでいる。

 カイがこれだと選んで口に入れればいつもと変わらぬ柔らか感触。

 間違いない。ルーのペネレイだ。


 カイは口に入れたペネレイを、ていねいに噛みしめる。


 カイ・ウェルス。

 今日初めて口にする食べ物だ。


『正解です』『次もこの調子で頑張りましょう』


 ええいお前らやかましい。

 なんで食事でこんな苦労をせねばいかんのだ……


 と、カイは心で悪態をつく。


「ミリーナが育てた栗もたべるえう!」「わ、私の芋も食べて下さい!」

「いやぁ、お前らふたりは体から直接生やさないから良くわからん」

「えうっ!」「で、では昼食は私の尻で育てた「それはやめてくれ」あうっ……」

「むふん」


 しかし、考えてみればかつてのエルフはこんなもの。

 食べようとすれば腐って食べられず、食べれば食中毒や寄生虫にのたうち回る。

 そして頭を食でかち割られて一生を終える。

 それが、かつてのエルフだ。


 それに比べれば食べられないくらいマシな方。

 妻達や里の皆のかつての苦労を思い、心でホロリ涙なカイである。


「お前ら、苦労してたんだなぁ……駄犬だと思っててゴメンな」

「カイはちゃんと忠犬、愛犬へと昇格してくれたえう」「む。そして今は可愛い妻」「そうですわ。カイ様は自らを改める事のできるお方。過ちに頭を下げてくださる素晴らしいお方ですわ……ぺぺりっぽぷーっ!」


 よぉし、俺も頑張ろう。

 そしてまた竜牛肉野菜炒めでリベンジだ。


 と、カイが決意も新たにフォークを突き出せば、カチンと不吉な固い音。

 湯気あふれる魔道具の芋だ。


『ハズレです』『お仕置きですね』

「いやいや、この魔道具が凝りすぎなんだよ。素人の俺には難しすぎる」

『『カイさんともあろうお方が、なんと情けない!』』


 バシーンッ!


「ぬぅうおおおっ!」


 エルネの里、カイ宅。

 カイの悲鳴が響いた。

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

書店でお求め頂けますと幸いです。


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世界樹エルフ
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