15-2 あなたの願いを叶えますったら叶えます
「すげえ宴だったなぁ」
夜、カイ宅前。
露天風呂の湯に浸かりながら、カイはぺっかー明るい夜空を見上げ呟いた。
今日は子らの本当の誕生日。
オルトランデルの主の間にある神殿で開かれた誕生祝いはエリザ世界からもオーク達がたくさん訪れて、ダンジョン通路が通行止めになるほどの大宴会であった。
うちの子らは幸せ者だな……
カイは思う。
そして幸せを自らの力で掴み取った強者だ。
芋煮主としてエリザ世界を守り抜いたイリーナ、ムー、カインにオーク達は感謝と崇拝を忘れない。
子らは彼らの新たな神なのだ。
『本当にすごい宴でした』『私にはあんな事してくれないのに』
「エリザ、それは自業自得だ」『その通りです』『がぁん!』
風呂には必ず現れる祝福エリザにカイはツッコミを入れた。
本当の神は選べなくても崇拝する神は選べる。
異界あふれる世界を作り上げた神エリザよりも助けてくれた芋煮三神。
今のエリザは祟り神扱いだ……
まあ、やった事を考えれば本当に祟り神なのだが。
そして風呂に祝福ズが現れる現状にカイ一家も慣れたもの。
最初は浮気だと大騒ぎしたミリーナ、ルー、メリッサも、今では絶対あり得ないと安心おまかせ放置プレイ。子らと一緒に夢の中だ。
慣れというのは怖いもの。
そんなカイもすっ裸だが、もう気にする事はやめている。
風呂 > 羞恥。
どうせ神には世界の全てが筒抜けである。
一緒に風呂に入るなんて事を気にするだけ無駄なのだ。
『ううう、先輩もカイさんもひどいです』『自業自得ですから仕方ありません』
「いや、ベルティアも崇拝されてないからな?」
『私はそもそも存在を表に出しておりませんから当然です』
「そういやぁ、そうだな」
祝福ベルティアの答えに、そうだったと思い出すカイである。
竜皇ベルティア。
生きとし生ける動く者の神は聖樹教の書物にわずかに記されているのみであり、イグドラとは違い今も存在は眉唾とされている。
露骨に力を行使しない限り、存在を知られる事はない。
世界に堕ちたイグドラや世界から搾取していたエリザとは違い、世界に生きる者に耕す世界を与えただけのベルティアは裏方なので目立たないのだ。
『余の呟きを教祖に聞かれていたのじゃな』
「まあ、そうだろうなぁ……」
イグドラの声にカイは頷く。
エルフ、竜、そしてイグドラ。
この中で人間に竜皇ベルティアと伝えそうなのはイグドラくらいだ。
バルナゥはベルティアのことを陰湿者と呼び、良い印象を持ってはいなかった。
イグドラに食われ続けた竜も、竜と仲が良かったエルフも悪い印象を持つように語るだろう。
竜皇ベルティアという呼び方に、そういう悪印象はない。
ただ眉唾なだけだ。
とにかくも目立たず荒らさず力となる。
それがベルティアであったのだ。
『ううう、先輩だって世界を回してご飯を食べているのに……』
『波乱を世界に起こして搾取するなんて事はしていません。破天荒な日常では生きるのに精一杯で耕す余裕もないではありませんか』
「俺の日常は破天荒ですげえ大変なんだが」『がぁん!』
それがカイの前ではこの有様。
まったく困った神である。
まあ、それでも何とかやってきた。
というかカイの周囲の者達が、カイに力を貸してくれた。
カイ自身は流れを導きはしたものの、いつも皆の後ろに立っている。
ビルヒルトに異界が発生した時はアレクら勇者とエルフが戦い、カイは後ろで芋を掘っていた。
竜峰ヴィラージュでバルナゥが聖剣と戦った時は妻達と勇者の後ろで見ていただけ。イグドラを天に還した時も実行したのはイグドラとベルティアら神であり、これまた見ていただけだった。
エリザ世界との関係に至っては全てが子らの努力のたまもの。
カイはその場にすらいなかった。
そこから後のカイは祟り神のようなものだ。
皆の苦労も半端無いだろう。
俺も、結構周囲を振り回してるなぁ……
と、反省するカイである。
だからと言って戦うとか先陣を切るとかするつもりは全くない。
妻達が言う通りカイはへなちょこ。
戦いは後ろで震えている位がちょうど良い。
しかし先日の誕生日の時のように、魔道具と食べ物の見分けくらいはできた方がいいだろう。
エルフの奇妙な文化はとにかく、カイに区別ができていれば妻達は涙目で取り皿をさし出す事もなく、もっと竜牛肉を楽しめたはずだ。
妻達子供達の幸せの為に、マナを見るなら安いもの。
郷に入っては郷に従う。
カイもエルフの祝福を持つエルネの一員なのだから、できた方が良いだろう。
「明日から、がんばってみるか……」
と、広い湯船に漂いながら、カイは呟く。
即座に反応する祝福ズだ。
『いえ、今日から頑張りましょう』『というか今から頑張りましょう』
『『という訳で貴方の願いを叶えます』』
「いや、俺がんばってみるかとしか言ってないんだが……」
願いなんぞ言ってない。
そう言おうとしたカイであったが祝福ズは押せ押せだ。
『私達は祝福ですから心読むとか楽勝です』『魔道具と食べ物の見分けが出来るようになりたいのですね?』
「心読むとかアリかよ!」
『これは私達の思いやり』『シャイなカイさんへの善意の心なのです』
「いや忖度しなくていいから!」『『はぁ?』』「このやろう!」
『『さぁ、レッツ祝福! そして尻叩き!』』
べちーんっ!
明るい夜に尻を叩く音が響く。
やべえこいつら、忖度するようになったああぁああ!
尻を叩かれながら、カイは心で叫んだ。
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