私がアホなのはきっとカイさんの責任なのです
「先輩、これはヌ、ヌですよね!」
「ヌ?」
「次はキ、そしてチクラシイトナミイ! 私完璧!」
「回答記号を憶えてどうするんですか……」
エリザ宅。仕事部屋。
エリザを前に、ベルティアは頭を抱えていた。
ダメだこの子。まったくダメな子だ。
なんて事をしてくれたんですか私の祝福……
と、自分の祝福を恨む。
意味がわからない知識などただの言葉なのに、エリザは回答だけを憶えている。
一夜漬けの悪い所がまるっと出ているパターンだ。
いえ、回答ではなく回答記号ですね。
知識ですらありません。ただのカンニングです。
まったく、ぜんぜん、これっぽっちも意味がありません……
と、ベルティアは深くため息をつく。
本当に、まったく使えない。
知識を実践に繋げるのに必要なのは意味。
それがどういう意味を持つかを知れば使える場所もわかるし選べる。
頭の中にしか存在しないものが道具となり、何かを生み出す力となるのだ。
「コチノチイシトナンライスニツチ……」
「ですから、回答記号に意味はないです」
「がぁん!」
それがエリザには、致命的にできていない。
ベルティアと同じく何十億年もマキナの弟子だったのにこの惨状。
マキナが匙を投げるのも当然だ。
「あなた、マキナ先輩の所で何を学んでたんですか?」
「転生者からの搾取方法を」
「そこは学んではいけない所です。転生者は世界を耕す協力者。そこから搾取すれば世界が荒れるに決まってます。現にあなたの世界は荒れまくっているではありませんか」
「それはイグドラ様が三億年も吸い上げていたせいですよぅ」
「その前から荒れていたでしょう……転生者や他の世界からかっぱぐ事しか考えていないから、世界がロクに成長しないんですよ」
「がぁん!」
ベルティアはエリザの先輩だが、マキナに師事していた期間の差は数億年程度。
神の時間においてはそれほどの差ではない。
しかし作り上げた世界の差は歴然。
搾取と略奪は耕し育てた者がいない限り成立しない。
そして耕し育てた者が自分より強くなってしまえば搾取も略奪も不可能。
自ら生み出さない者は、自分だけでは無力なのだ。
「で、でもマキナ先輩の所だって……」
「先輩の世界は本命世界以外はアトラクションみたいなものです。利用者はいわば遊びに来たお客様。搾取を知ってて転生しているのですよ」
転生者は数多く、その中には遊びで転生を繰り返す者も多い。
マキナはそんな者を集めて数千のサブ世界を回している。
いわばテーマパーク世界を運営する神なのだ。
「というかエリザ、貴方は先輩の本命世界は触らせて貰えなかったでしょう? 先輩の本命世界はガチガチに守られた超優良世界ですよ? そこでは皆、真面目に世界を耕しているのですよ?」
「ええっ?」
「知らなかったんですか?」「だって見た事もありませんから」
「先輩、見せるのも嫌だったんですねぇ」「がぁん!」
そしてサブ世界の稼ぎで本命世界を潤す多角経営神でもある。
ベルティアやエリザは世界ひとつが精一杯だが、マキナ程の神になれば数千、数万の世界を運営してもへっちゃらだ。
本命世界は耕し育て、さらにサブ世界から搾取。
複数の世界を運営しているからこそ可能な技である。
育成と搾取を自らの世界で回しているのだ。
「よく、そんな搾取当たり前の世界に転生したい人が集まりますよね」
「あんな運営している神は少ないですからニッチ狙いでも成立するんですよ。そしてエリザ、貴方がそれを言いますか?」「がぁん!」
そんなマキナの搾取しか学ばずに独立したのがエリザだ。
派手で華麗な舞台の裏には血のにじむような努力と鍛錬がある。
それを知らずに世界を作ればどこかで伸び悩むに決まっている。
うわべだけをまねた世界は最初は調子が良くてもやがては行き詰まり、そして崩れていくのだ。
「せ、先輩見捨てないで下さいえうーっ!」
「えうは禁止です」「がぁん!」
そんなエリザを押しつけられたベルティア。
世界をぶん投げる神マキナは不肖の弟子もぶん投げる。
真面目に学んでいたベルティアからすれば迷惑千万この上ない。
だがしかし、今のベルティア世界はカイの活躍によりエリザ世界とがっちりタッグを組んでいる。
だからベルティアは見捨てる事も適当に相手をする事も出来ない。
予想習熟期間、一億年。
神の時間としてはそれほど長くはないが、それだけ余力が奪われる。
不肖の後輩にため息半端無いベルティアだ。
「あぁ、イグドラにも色々教えなければならないのに貴方の面倒まで見なければならないなんて……これはカイさんに癒やしを求めるしかありません」
「そうです! カイさんです!」
ベルティアがカイの名を呟くと、エリザが叫んだ。
「カイさんが祝福先輩に妙な事を願うから私がヌとかキとかしか憶えなかったんです。カイさんに責任をとってもらわなければ!」
「あなたが学ぶ機会に遊んでいただけです」「がぁん!」
「そしてカイさんが何もしなくても、あなたはヌとかキとしか憶えなかったでしょう」「がぁん!」
「大体資料のひとつも調べずに宿題するとかアホですか」「がぁん!」
がぁん、がぁん、がぁん……
ベルティアの説教が続き、エリザのがぁんが続く。
これで終わっていればアホな一幕なのだが……神は超絶ハイパワー。
これまでも謎の祝福をカイにぶん投げてきたように、がぁんの叫びも何かしらの影響を与えてしまうもの。
エリザの叫びに世界が震え、繋がるベルティア世界に伝播する。
「え? 祝福エリザがはっちゃけた? カイさんが尻を叩かれてる?」
そしてベルティアにイグドラのツッコミが入るのだ。
「エリザ……私達の祝福が、逆襲を始めました」
「先輩、祝福の逆襲って何ですか?」「さぁ……私にもわかりません」
イグドラからのツッコミに、ベルティアとエリザは首を傾げるのである。
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