14-20 神はサイコロを振る
「超新星爆発六百八十、星系崩壊二万四千、惑星崩壊十万二千……」
「惨憺たる有様ですね」
ベルティアが帰宅した数日後。
世界を調整し終えたベルティアとマキナは、世界の損害を集計していた。
帰宅したベルティアがおこなった世界の調整は、ただのつじつま合わせ。
だから失われた星が戻ってくる訳ではない。
ベルティア世界は二年で大損害だ。
「のじゃ……」
そんなベルティア達の前では、イグドラが植木鉢ですくんでいる。
自分のしでかした不手際を他者に評されるのは気持ちの良いものではない。
それも惨憺たる有様と言われるような惨状だ。
その責任は実行者であるイグドラにある。
まさに針のむしろだ。
が、しかし……ベルティアはイグドラの頭を指でやさしく撫でて微笑んだ。
「よくがんばりましたね、イグドラ」
「そうです。予想以上に上出来ですわ。さすがイグドラちゃんです!」
「お、怒らぬのかベルティア?」
見上げるイグドラにベルティアは頷く。
「当たり前です。むしろイクドラの格なら上出来と言うべきですよ」
「そう……なのか?」
「はい。多くの星が壊れましたが生命に関わる星への影響は軽微。手が足りないなりに優先順位を考えて処理されています。これだけできれば上出来です」
「さすがはイグドラちゃんです。できる子バンザイ!」
「の、のじゃっ……がんばったのじゃ!」
笑顔の二人に涙目笑顔のイグドラだ。
そんなイグドラの姿にマキナが胸を張る。
「だから言ったでしょうベルティア。イグドラちゃんはやればできる子だと」
「まあ、正直言えば三ヶ月くらいで泣きついてくると思いましたけどね。というかそのくらいで泣きついて欲しかったですよ……生命に何かあると賠償が半端ありませんし」
世界の命は神が世界を耕すために送り込んだ者達だ。
ベルティアは神が顕現して荒らし回った特殊な世界。
エルフや竜のように神の都合で振り回した命に、ベルティアは賠償を行っているのだ。
しかし、そんな律儀なベルティアにマキナは笑う。
「そんなの『またのご利用をお待ちしております』で良いではありませんか」
「そんな事ができるのはマキナ先輩だけです。世界をぶん投げて潰した時もそれで通すとか並の神じゃできませんよ」
「ホホホホホ」
「これからはカイに学ぶのじゃ。すぐに皆に泣きつくのじゃ」
「はい。これからはイグドラにも色々な事をしてもらいます。マキナ先輩の言うようにいつまでもエルフの祝福や私とカイさんの橋渡しに注力させていては成長になりませんからね」
「のじゃ?」
首を傾げるイグドラに、ベルティアとマキナが今回の遊びの内幕を語り出す。
「実は今回の遊びの話、マキナ先輩から『あなたが何でもパパッとやってしまうから、イグドラちゃんが些末な事しかやってないではありませんか。成長の機会を与えてあげなさい』と言われた事が始まりなのです」
「さすがの私も弟子の世界が回復不能になるまで遊ばせるほど理不尽ではありません。今回の事はイグドラちゃんの成長と自分の世界ではっちゃけるベルティアに遊びを教える一石二鳥を狙ったもの。がっつり遊びながらもこっそり様子はうかがっておりました」
がっつり遊んでいたんかい。
と、イグドラは思ったがそこはカイに学んでスルーして、エルトラネのようにポジティブに考える事にした。
どういう形であれ、これはイグドラのためにした事。
二人の思いに素直に頭を下げる事にしたのである。
「ベルティア、そしてマキナ。余の為にありがとうなのじゃ」
「どういたしまして。これからはイグドラにも色々な事を経験してもらいますね」
「ああっ、イグドラちゃんが、イクドラちゃんが私にお礼を……!」
イクドラシル・ドライアド・マンドラゴラは神。
カイとエルフとその周囲の物事ばかりをしていれば良いものではない。
世界には無数の神の雑務が存在し、いつまでもそんな事をしてはいられない。
全体を適度に処理しながら、優先度の高い場所に力を注ぐ。
それが神。
エルフの祝福も、いずれ世界樹が受け継ぐ。
そうなればイグドラの手が少し空く。
ベルティアは余裕のできた分でイグドラに新しい経験をしてもらい、成長してもらおうと考えているのだ。
「余はがんばるのじゃ。がんばるのじゃーっ!」
「いえ、がんばるよりすぐに相談して下さいね。ほうれんそうです。これ以上世界に堕ちたり星を爆発されるとさすがに私も困りますから」「のじゃっ!」
「ベルティアが嫌なら私、私がイグドラちゃんに手取り足取り教えますわ!」
「私もいます! この新たな力に目覚めたエリザ・アン・ブリューががっちりサポートいたしますよイグドラ様!」
エリザもふんぬと拳を握る。
マキナが呆れ顔でエリザに言った。
「……いえ、あなたは自分の世界を何とかしなさい」
「フフフ、マキナ先輩わかっていませんね。えう覚醒したエリザ・アン・ブリューはこれまでの私とは違うえう!」
「わかっていないのはあなたです」「えうっ!」
自慢げに胸を張るエリザの頭をパコンと叩くマキナだ。
「カイ・ウェルスが貴方をこき使うために祝福ベルティアに願い、答えを耳元で囁いていた事にまだ気付いていないのですか?」
「えうっ?」
エリザが背後を振り返れば、ゴメンと手を合わせ消えていく祝福ベルティア達。
愕然とするエリザの姿にマキナは呆れ、エリザにダメ出しをはじめた。
「大体知らない単語を理解できる訳がないではありませんか」「えうっ!」
「アイデアも同様です。色々な試行錯誤が下地となって生まれるのが良いアイデアというもの。力押しだけで世界運営していた貴方にベルティア並のアイデアが浮かぶ訳がありません」「えうっ!」
「これが私の弟子とか、なんと情けない」「えうっ!」
「えうではありませんえうでは。カイ・ウェルスにいいようにこき使われただけの丁稚ですよ貴方は」「えうーっ」
「……何ですかその嬉しそうな顔は」「カイさんは真面目だから弄ばれた責任を取って貰うえう」
「アホですか!」
ああもうこいつらどうしたものかと、頭を抱えるマキナである。
そしてマキナはカイを手本にする事にした。
ぶん投げる事にしたのである。
「ベルティア」「はい」
「貴方の祝福のせいでエリザのアホさが増しました。責任取って貴方がエリザを教育なさい」「えーっ……一億年くらいかかりますよ?」
「よ、よろしくお願いします先輩! これまでもそうでしたが先輩に見放されたらうちの世界は立ち行きません。カイさんの子らが大好きなぶーさんを救うと思ってご指導ご鞭撻の程をよろしくお願いいたしますぅううぅう……えう」
「仕方ありませんねぇ……では、えうは禁止します」「がぁん!」
えうと世界を天秤にかけて頭を抱えるエリザだ。
マキナはそんな様をアホですねぇと呆れ、そういえばとベルティアに問いかける。
「そういえばベルティア、ずいぶん面倒な所に神の手が及ぶように世界を構築しているのですね」
「ああ、素粒子の振る舞いに対する干渉ですね。あれをすると世界の現象を色々操作できますし、世界初期の立ち上がりも早くできるんですよ」
「貴方も私と似たような事をしているのですね」
「いえ、私は生命に首輪なんて嵌めておりませんから」
そこは全力で否定するベルティアだ。
「ドミノ倒しと同じようなものです。一つのドミノを倒せば連鎖的に周囲のドミノが倒れるように一つの振る舞いを決めれば周囲も同じように振る舞ってくれます。ですからそこまで面倒ではありませんよ」
「まあ、このサイズの世界なら何とかなるでしょうが、大きくなったら手に負えなくなりますよ?」
「もっと大きな世界になったら、サイコロで決めようと思ってます」
「貴方のその割り切り方、なかなかすさまじいですね」
世界が十分に大きくなれば、星もブラックホールも銀河も小さなこと。
そんなものがどう振る舞っても、世界はそんなに変わらない。
どのように振る舞っても構わないなら、サイコロでいいじゃん。
何でもそつなくこなす神ベルティアは、こんな所もそつが無かった。
台風ひどいなぁ。皆様もご注意下さい。
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
書店でお求め頂けますと幸いです。
誤字報告、感想、評価、ブックマーク、レビューなど頂ければ幸いです。





