14-19 カイ、右手を煮込む
「エリザよ、頼んだのじゃ!」「がってんえう!」
ベルティア宅、仕事部屋。
イグドラとエリザは世界の安定に奔走していた。
同時多発超新星爆発は何とか落ち着いたが、問題はそれだけではない。
手数が圧倒的に足りないイグドラが先送りにした処理は多数。
それらが次々と世界の大問題に発展しているのだ。
「銀河の自転が崩れたのじゃ!」「がってんえう!」
「ガンマ線バーストが命ある星に迫っておるのじゃ!」「がってんえう!」
「ぬぉおお銀河中心のブラックホールが消滅する!」「がってんえう!」
イグドラが叫び、エリザが手数で対処する。
エリザの背後ではカイが送り込んだ祝福ベルティアが現れ、消え、また現れる。
神の祝福といえども神の世界ではへなちょこだ。
しかし、状況を見て囁くくらいなら事足りる。
「そこは」「それは」「あれを」「それを」「今です」
さすがは世界主神ベルティア・オー・ニヴルヘイムの祝福。
瞬時に状況を理解し、的確な囁きでエリザを導く。
そしてエリザがベルティア以上の手数で対処。
いかにエリザがへなちょこでも、祝福ベルティアというあんちょこがあればバッチリだ。
「エリザよ、汝がいて助かった」「えう覚醒バンザイ!」
そして汝が単純で助かったのじゃ。
まったくです。
苦笑いのイグドラに祝福ベルティア達。
一方、世界ではアホな戦いの真っ最中だ。
「カイ、右手がブヨブヨえう!」「む。右手煮込み過ぎ」「カイ様、右手を回復しましょう今すぐしましょう!」
「右手の回復は後回しだ! 回復魔法で爪の垢をもっと作れ! そして煎じろ!」
「えうっ!」「ぬぐぅ!」「ふんぬぅ!」
「爪の垢を作ります。回復魔法使い、右手の爪先に集中回復!」
「「「はいっ!」」」
「まったく、困ったものですね」
「「「すぺっきゃほーっ!」」」
カイ、ミリーナ、ルー、メリッサ、ソフィアに聖樹教の回復魔法使い、ミルト、エルトラネのピー達が煮込んだカイの右手に回復魔法をかけまくる。
こっちも手数で勝負の総力戦。
爪の垢を作りに作りまくり、ボコボコ湧いて出る祝福ベルティアに願って神の世界にすっ飛ばす。
『貴方の願い『エリザの耳元で最適な選択を囁いて下さい』願いは叶えられました』』『貴方『耳元で囁いて』』『あ『囁け』』『あ『囁』』『あ『さ』』
あさあさあさあさあさあさあさあさあさあさ……
現れた祝福ベルティアに願うのは、涙目の祝福エリザだ。
はじめはカイ自らが願っていたが願いを言う時間すら今は惜しい。
カイは祝福エリザに超高速で願いを告げろと願い、祝福ベルティアが現れると同時に願いを告げさせる。
『ああ、自分をアホにする願いを自ら行わなければならないとは……さすがカイさん鬼畜です』
「お前が賢ければ、こんなアホな事もしなくて良かったんだよ!」『がぁん!』「愚痴を言う暇があったら願え! 願うんだ!」『ううう……』
カイも必死だ。
うっかり太陽でも爆破されてはたまったものではない。
世界のために右手がブヨブヨになるくらいなら安いものだ。
さあ行け祝福ベルティア。
さあ願え祝福エリザ。
カイは右手を煮込みまくり、祝福出しまくり、願いまくり、回復しまくる。
「イグドラ! ベルティアは戻って来たか?」
『連絡して駄々をこねたからもうすぐ戻るのじゃ。それまでカイも頼むのじゃ!』
「当たり前だ!」『アフターケアも頼むのじゃ!』「ぶーさんはうちの子に良くしてくれるからな!」
『かーちゃんがんばれーっ!』『余の子よーっ!』
イグドラもカイも自分のため。そして自分の子らのため。
望みが同じならば神も人も同じ。
エリザに悪いとカイも思うが神の命は超長い。勉強の機会はいくらでもある。
ぶーさんはうちの子大好きな友達だ。
エリザが賢くなるまでは無理だが、できる限りは手助けしよう。
「自分の右手も煮込んじゃう。さすカイ!」
「これで真面目な戦いってのが、全くもってカイらしいわよね」
『全くだ。右手を煮て戦うなど、この世界は本当に愉快だな』
『まあベルティアだし』『そしてエリザだし』『あらあら』
陣中見舞いに訪れるアレクやシスティ、ハーの族のエルフと聖樹教回復魔法使いの送迎に飛び回るバルナゥ、ビルヌュ、ルドワゥ、マリーナの呆れも半端無い。
「トイレは三分えう」「着替えは一分」「ですわ」
「私達みたいに垂れ流しにならないだけマシよねソフィア」
「全くです。私達はコップ水で樽トイレでしたもの。カイさんは回復魔法使い総動員ですからとても恵まれていますよね」
「くううっ……」
システィとソフィアの言葉が痛いが因果応報。
戦いは日々続き、カイは寝ながら右手を煮て、ご飯を食べながら右手を煮て、風呂に入りながら右手を煮る。
そんなこんなで三ヶ月。
『やっとじゃ! やっとベルティアが戻って来たのじゃ!』
「長いよ! 連絡入れて三ヶ月とかどんだけ遊んでいるんだよ!」
あぁ、神と世界の時間感覚の違いよ。
ベルティアが遊びに出てからおよそ二年。
ようやくベルティアが帰宅したのであった……
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