14-18 ささやけ、祝福!
「えうぅ……えうぅうぅうううう……」
エリザ宅。仕事場。
何ともいびつな世界を前に、エリザは宿題と格闘していた。
いや、敗北を続けていたと言っても過言ではない。
マキナから渡された回答欄のマークシートは一枚目なのに今もまっさら。
名前欄だけが埋まっている状態だ。
「これはエ……いやいや、カでしょうか。それともヨ? 五十択って何ですかマキナ先輩。こういう問題は普通三択とか四択じゃないんですかぁ……」
マークシートの上をペンがさまよう。
そしてエリザが問題に悪戦苦闘している間にも世界は動き続けている。
部屋に警告音が響き、画面に新たな異界の顕現が示され続々と現れる怪物達が表示された。
「あああ、また異界の侵略です。オーク達頑張って。今こそ鍛え上げたえう力を発揮する時えう、えうーっ!」
いや、お前が頑張れよ!
オーク達が聞いていたら、きっとこう叫んでいただろう。
元々の世界運営もいい加減なエリザだが、宿題している今はさらにいい加減。
とある事情で実力以上の格を獲得してしまったエリザは、他の神々からカモ扱いされているのである。
しかも今はベルティアもマキナもいないボーナスタイム。
いつもより五割増しの侵攻と宿題のダブルパンチに頭を抱えるエリザだ。
そんなエリザの背後が揺らぎ、女性の幻が現れる。
カイが放った刺客げふんげふん救いの神、祝福ベルティアだ。
祝福ベルティアは背後から宿題を覗き込み、エリザの耳元にそっと囁いた。
『ヌ、です』
くわっ……エリザが目を見開く。
「はっ……この答えはヌ!」
『次の答えはキですよ』「これはキですね!」
『そこからチクラシイトナミイと続きます』
「すごい! 問題がスラスラと解けていきます! えう覚醒? これがえう覚醒なのですか? オークと同じように私もえう力に目覚めたのですか?」
違います。
相変わらずのお調子者ですね。
と、エリザの背後で祝福ベルティアは苦笑いだ。
しかし、この疑いもしない全力前向き姿勢こそ好都合。
イグドラを助けるまでは突っ走って貰わねばカイがとても困るのだ。
『コチノチシイトナンライスニツチ……』
「し、宿題がどんどん解けていくえうーっ! すごい私! 聞いた事も無い単語の意味まで分かっちゃうえうーっ!」
回答欄をペンが踊る。
エリザがのたうち回る問題も、ベルティアには見ればわかる簡単なもの。
これが実力の差。
経験の差。
そして努力の差だ。
祝福ベルティアは耳元で囁き続け、エリザはマークシートを埋めていく。
そんな中、祝福ベルティアがもうひとり現れて世界に悪戦苦闘するエリザに囁いた。
『ここはこのように処理した方がいいですね』
「こんな難しい宿題を考えているのにさらに世界の修正が! すごいえう!」
……困った後輩ですね。
狂喜乱舞するエリザの背後で呆れて笑う祝福ベルティアだ。
祝福ベルティアはそのままエリザの宿題の答えを教え、世界の修正方法を教え、異界に対する備えをさせる。
『イグドラが助けてと言ってます』
「イグドラ様がピンチの予感えう!」
淡々と経験と実績を積んできたベルティアと場当たりで世界を運営していたエリザの差は歴然。
助力によって瞬く間に宿題を終えたエリザは自らの世界に応急処置を施し、ベルティア宅へと駆け込んだ。
「終わりました! 終わりましたえう宿題! そしてイグドラ様のピンチを感じて飛んで来ましたエリザえう。エリザ・アン・ブリューえう!」
「……のじゃ」
いつも思っていた事じゃが……汝、アホじゃな。
と、思ったイグドラだが今は頼もしい助っ人参上。
素直に頭を下げて頼むイグドラだ。
「すまぬが手が足りぬ。エリザよ、余を手伝ってはくれぬかのぅ」
「お任せ下さい! 宿題と世界の修正を成し遂げた今日の私は一味違いますよ! あぁ、この肩に感じる心地よいずっしり感。これが成し遂げた者の疲れというものなのですねイグドラ様!」
「……のじゃ」
あぁ……見えるのじゃ。
エリザの背後にずっしりと、たくさんの祝福ベルティアが見えるのじゃ。
見た目はまんま背後霊。カイが願った怨念だ。
そして今も続々増加中。
少しでも世界を守ろうとカイが祝福に願い続けているのだ。
「感じます。世界の悲鳴を感じます! エリザ、全力分割!」
エリザが自らを分割させて世界の悲鳴に対応する。
中身はアホでも世界がいびつでもエリザはイグドラよりも格上の神。
そしてイグドラを神の座に戻す過程でベルティアよりも格上となった成金神だ。
そんなエリザと耳元で助言する祝福ベルティアが組めば超つよい。
エリザの数に比べて祝福ベルティアの数が恐ろしく少なくても指示できてしまうのは知識と経験と練度の差。
祝福ベルティアは巧みに連携を取りながらエリザの間を駆け回り、耳元でささやきエリザを導く。
そしてエリザはイグドラを助ける感動に叫ぶのだ。
「アイデアが次々と思いつくえう! 自分の才能が恐ろしいえうーっ!」
力と技の融合……
いや、何とかとハサミは使いようじゃな。
植木鉢でイグドラも苦笑い。
エリザの背後で祝福ベルティアも苦笑い。
そしてエリザと共に世界を正しく導きながら、世界で今も足掻く心強い助っ人に思いを馳せる。
カイよ、しっかり回復魔法を使うのじゃぞ。手がふやけるぞ?
今も爪の垢を煎じ続けているであろうカイにイグドラは感謝し、エリザと二人で獅子奮迅の世界処理。三日三晩の戦いで暴れる世界をねじ伏せた。
「お、落ち着いた……のじゃ……」
「さすが私! さすがえう覚醒! えう、えうーっ!」
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