14-16 夜空に輝くあの星は
エルフの食が安定し、エリザ世界への異界侵攻が減少を始めたある日の夜。
「おつきさまー」「ぺっかー」「わぁい」
「そうだな」
「えう」「む」「はい」
『あらあら』『わぁい』
『良い月です』『はい』
エルネの里、カイ宅。
カイ一家はエルネの自宅前の広場で、夜空を見上げていた。
満天の星空には月が煌々と輝き、広場には焼肉ジューシーな香りが漂う。
そして広場を歩くエルフの手にあるのは串焼きだ。
そう、今日は串焼きの日。
カイがはじめてエルネの里で串焼きをご馳走した日なのである。
「ぬぅおおカイ殿、串焼きですぞ串焼き肉肉おふぅううっ」
「長老、少しは落ち着け」
『まったくいつまでも子供ですねぇもっしゃもっしゃ』
『わぁいもっしゃもっしゃ』
「そして来月は拉致芋煮の日ですぞカイ殿!」
「普通に芋煮の日と言え!」
「ほっほっほ……串焼きばんざーいっ!」
「「「ばんざーいっ!」」」
おぉおおおおめしめしめしめし……
騒ぐエルフにカイは呆れ、串焼きの肉を頬張る。
カイがあの時作った串焼きとは違い、香辛料がピリリと美味い絶品。
こんな風に祭りで騒げるのも、エルフの食に対するたゆまぬ努力のおかげだ。
エルフの皆が頭を使って編み出した農業技術は作物の収穫量を大幅に引き上げ、今はエルフに技術を教えた人間が逆に技術を学ぶまでに至っている。
おかげで王国の農作物収穫量は大幅増。
隣国が頭を下げて学びに来る始末だ。
エルフの食への執着は今も変わらず半端無い。
これで祝福が戻ったらどれだけ収穫できるのか、考えるのがちょっぴり怖いカイである。
「カイと将来を誓い合ったのも、こんな月夜だったえう」「そうだな」
「む。エヴァ姉さんが犬だと知ったのもこんな月夜だった」「そうだな」
「勘違いが嬉し恥ずかしくてのたうち回ったのもこんな月夜でしたわ」
「そうだな……って、全部同じ夜じゃんか」
「えうっ」「ぬぐっ」「ふんぬっ」
「らぶらぶー?」「らぶらぶー」「わぁい」
ミリーナ、ルー、メリッサも串焼きを食べながら昔を懐かしむ。
イリーナ、ムー、カインも串焼きを食べてご満悦だ。
あぁ、あの頃は大変だった……今も大変だが。
しかし今回もあの頃同様、何とかなった。
祝福のなくなったエルフは技術で食を獲得し、エリザ世界の異界侵攻も減少傾向。アトラチンスと王国との間の通路の安全も確保した。
これでベルティアが戻ってくれれば一安心。
というか、とっとと戻ってこい。
遊んでないで仕事しろ。
と、カイが神の振る舞いに呆れていると、子らがいきなり騒ぎ出す。
「ぺっかー!」「ぺっかーだ!」「ぺっかー!」
カイが夜空を見上げれば、子らが指差す先にひときわ輝く星がある。
他の星とはまるで違う強い輝きを放つそれは、今までなかったものだ。
「あぁ、本当だ。明るい星が生まれたな」
「「「わぁい!」」」
「さっきまでなかったえうよ?」「謎星誕生」「本当ですわ。超明るいですわ」
『あらあら』『わぁい』
時々、いきなり輝く星が生まれるという話は聞いた事がある。
数ヶ月ほど夜空で明るく輝き、そして消えていくのだそうだ。
「カイ、あれ何えう?」「知らん」
「む、カイが知らないとは超謎現象」「いや、俺の知識なんぞへなちょこだから」
「祝福ズに聞いてみては?」「そうだな」
メリッサの言葉にカイは頷き、祝福ベルティアに聞いてみる。
『超新星爆発ですね』
さすがは神の分身、祝福ベルティア。
即答である。
「なにそれ?」
『太陽のような輝く星が最期に起こす爆発ですどかーん』
「「「どかーん!」」」
「え? 太陽って爆発するの?」
子らが騒ぎ、カイが素っ頓狂な声を上げる。
『したりしなかったり』「どっちだよ?」
『その時々で色々あるのです』「えーっ」
『ちなみに爆発したらこの星は一瞬で消滅です』「ええーっ……」
『しばらくは起こらないです。たぶん』「たぶん? たぶんって何だ!」
怖い事言わないでくれ。
祝福ベルティアの言葉にカイが身震いしていると、また子らが騒ぎ出す。
「またぺっかー」「ぺっかぺっかー」「わぁい!」
「え?」
カイが見上げれば、また一つ輝く星が生まれている。
そして……ひとつ、またひとつ。
カイが見上げている間にも、それがどんどん増えていく。
「まただー」「ぺっかーがたくさんー」「わぁい!」
「ええーっ!」
子らは歓声を上げている。
しかし、おかしい。
これはどう考えてもおかしい。
影が出来るほど眩い夜空にカイが唖然としていると、竜が広場に舞い降りる。
『カイよ!』
バルナゥだ。
「バルナゥ、いったい何が起こっているんだ?」
『クソ大木がしくじった!』
見上げるカイにバルナゥが叫ぶ。
『あれはこんな頻度で起こるものでは決してない。クソ大木の手が回らなくなって世界のバランスが崩れたのだ。生命を宿した星々は守り通したようだが数万光年にも及ぶ銀河の数百の星々が今、砕け散った』
「数万光年……いや、ベルティアが遊びに出てから一年かそこらだろ? 仮にイグドラが何かやらかしたとして、その光がなぜ今届いているんだよ?」
一光年とは光が一年で駆ける距離。
とんでもない距離だとカイは聞いた事がある。
しかし、その速度を決めたのは……神だ。
『何かの都合で光の速さを変えたのだろうさ』
「そんな事をしていいのか?」
『ダメに決まっておる!』
カイの問いに激高するバルナゥ。
『世界は絶妙なバランスで成り立っているのだ。根元を変えれば変えるほど世界は大きく揺らぎ、崩れていくのだ。汝の爪の垢やぺっかーなど取るに足らぬ些事と言える破滅が今、起こっているのだ!』
ガゥフゥーッ……
バルナゥは荒く息を吐き、静かにカイを見つめて告げた。
『カイよ……この世界、ダメかもしれぬぞ』
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