14-15 神の振る舞いには本当に苦労させられる
「また、面倒臭い事だな」
「はい」
『『本体がすみません』』
ランデル領館。
納税のために領館を訪れたカイは、ルーキッドに近況を報告した。
ルーキッドがため息を漏らし、祝福ズがペコリと頭を下げる。
今の祝福ズは尻を叩いて願いを叶えさせるスパルタ祝福。
ランデルにもその話は広まっているらしく、以前は隙を見て願おうとする余所者がチラホラいたが今は誰も寄りつかない。
カイもルーキッドも安心だ。
『さすが陰湿者。師匠も相当だな』
ルーキッドの背後には金貨を磨くバルナゥ。
相変わらずの入り浸りだ。
「ヴィラージュの方のカタは付いたのか?」
『当たり前だ。陰湿者なぞはじめからアテにはしておらぬ。相手の神でも出てこない限りはどうにでもなる事よ』
聞いたカイに、バルナゥは金貨から目を離す事なく言う。
相手の神もマキナの世界ぶん投げが怖いらしく手を出してこなかったようで、バルナゥは特に苦労もなく攻勢を退けていた。
まあ、世界を投げられたくはないよなぁ……
スケールが大き過ぎてよくわからないが世界と世界が衝突して砕けるのだ。
人が住んでいる星くらい軽く消滅するだろう。
しかもマキナという神は実際にやった事があるらしい。
それを知っていればうかつに手は出せまい。
ひとまず他の神は安心という訳だ……ベルティア世界は。
『まあ陰湿者はそのうち戻ってくるだろう。それよりもクソ大木はどうなった?』
「余裕がまったくないらしい。最近はちょっかいも出してこない」
『そうか……エルフを祝福できぬ程度で済めば良いがな』
バルナゥが金貨を磨く手を止め、カイを見据えた。
『エルフの数は世界に瞬く星よりもはるかに少ない。その程度を祝福できぬようでは、我らは相当の苦労を覚悟せねばならぬ』
「えーっ……これ以上の波乱が起こるのか」
バルナゥの言葉にカイが頭を抱える。
今でも手一杯なのに、これ以上の厄介事が起こってしまったらお手上げだ。
『まぁ、クソ大木もそのあたりは分かっているだろうから不要な所から切っていくはず。我らが切られるのは本当に最後の最後だろうな。おおーふルーキッド、その時は共に金貨を磨いて迎えよう』
「その時は家族と静かに過ごすから、お前もそうしろ」
『おおーふルーキッド冷たいーっ』
頭を抱えるカイに対しルーキッドは落ち着いたものだ。
「ルーキッド様、ずいぶん落ち着いていますね」
「私にはどうしようもないからな。慌てるだけ無駄な事」
しれっとルーキッドは言い、書類にサインを書き込んだ。
「日常をこなしながら何も起こらぬようにと願うだけだ」
『願う?』『願いますか?』
「いや、お前達には願っていない」
『『がぁん!』』
ルーキッドは祝福ズを軽くいなし、カイに告げる。
「しかし備えはしておくべきだろう。領の食料備蓄を増やす事にしよう」
「エルフの里の備蓄も増やしておきます」
『我はマナでも貯め込むか』
できる事をする。
それがランデル領を守る領主と、ダンジョンの主の務めだ。
「ところでルーキッド様、そしてバルナゥ。これからエリザ世界の戦勝祝いがあるのですがご一緒しませんか?」
「そうか……いや、やめておこう。仕事が立てこんでいるからな」
『我ももうひと働きせねばならぬ。皆によろしくな』
「そうですか。それでは失礼します」
「カイよ。楽しんでくるがいい」
そしてできる内にやる。
カイの誘いを二人は断りルーキッドは備蓄の手配、バルナゥはマナの確保に動き出す。
カイは二人に礼をして、オルトランデルのえう神殿に移動する。
戦勝祝いはもう始まっていた。
「ぶーさん、きずいたいー?」「いたいのとんでけー」「とんでけーっ」
『いたくなーい。いたくなーい!』
「「「わぁい!」」」
『わぁい!』
子らを抱き上げるオーク戦士は喜色満面。
抱き上げられる子らも笑顔いっぱい。
守り守られる二者の関係は立場を変えて、今もしっかり続いている。
異界を討伐したオーク戦士も今はぶーさん。
やさしいぶーさん。
『我らの神のあの笑顔の為なら、我ら命をなげうって戦いますぞ』
「いやアーサー、そこはしぶとく生き残れよ? 子らは俺が守るから」
「ミリーナも守るえう」「む。やばければとんずら万全」「そうですわ。アーサーに何かあったら子供達が悲しみますわ」
『カイ様と御母堂様方が我らの神をお守りくださるのなら我らも安心。我らの神の笑顔のために、我ら全力でとんずらいたします』
「いや、そんな簡単にとんずらされても困る」
『ハハハ』
エリザ世界の異界侵攻は今も続いている。
神の不在もまだ続いている。
しかし、それでもアーサー達は笑うのだ。
『なぁに、カイ様が顕現される前に比べればずいぶん楽になりました。元々エリザ世界は神が匙を投げ荒れ果てた世界。この程度はまだまだ序の口でございますよ』
「俺らが神を気遣ってどうするよ……」
『本体が本当にすみません。後でよく言っておきますので』
祝福エリザが頭を下げる。
神の振る舞いには今も昔も本当に苦労させられる。
そしてカイは祝福ズをしつけて良かったと、心の底から思うのであった。
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