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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
14.神はサイコロを振る
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14-8 祝福のないエルフ達

「カイ殿! 作物が育たなくなりました!」「祝福無いからな」

「カイ殿! 疲れやすくなりました!」「祝福無いからだよ」

「カイ殿! リンゴをかじったら歯ぐきから血が!」「だから祝福無いんだよ!」

「カイ殿! 試しに木から飛び降りた者が骨折しましたぞ!」「試すなよ……」


 イグドラからの祝福が無くなって一ヶ月。

 行く先々のエルフの里で、カイはこんな問答を毎日繰り返していた。


 イグドラの宣言から後、エルフの里はどこもかしこも阿鼻叫喚。

 耕しては嘆き、試してはのたうち回り、足掻いてはバテる。

 そして最後は決まって土下座し涙を流すのだ。


「呪われていた頃だって食べられないだけで育ちは良かったのに……」

「我らのウハウハハッピータイムが……」「食べ放題パラダイスが……」


 何よりも、畑の作物が育たなくなったのが大ショックらしい。

 そんな彼らにカイは毎日ツッコミを入れるのだ。


「いや、それでも人間がやるより育ちはずっと良いからな?」

「「「えーっ!」」」


 カイの言葉にエルフ達の驚愕半端無い。


「この育ちでは二ヶ月はかかるぞ?」「人間は大抵一年に一回だけだな」

「そんな育ちでなぜ生きて行けるんだ?」「計画立てて育ててるからだよ」

「一年も先のご飯の事なんて考えて生きてるのか?」「考えないと飢えるからな」

「「「人間すげえ!」」」「……」


 ああ、呪われ時代のエルフの恵まれていた事よ。

 頭をご飯で殴られても土下座するだけで食えるなんて、人間なら狂喜乱舞する者だっているだろう。


 あの呪いは元々は祝福。

 子を食われたイグドラの恨みが呪いに変えただけなのだ。


「お前ら、これからは一年は食える食料を備蓄してくれ」

「カイ殿、我らの里には今、二ヶ月分の食料しかないのですが……」

「足りなければカイズに言ってくれ。俺が調達してくるから」

「お願いします。事ここに至ってはカイ殿だけが頼りです」

「苗も用意するから植える畑を耕しておいてくれ。あと食料の保存方法をランデルの農家に色々教えてもらうから、カイズの指導を受けてくれ。食べ過ぎるなよ?」

「わ、わかりました……」


 どの里に行ってもこんな調子だ。

 エルフにとっては呪われた頃よりも弱体化する異常事態。

 気弱になるのも仕方ない。


「なに情けない顔してるんだ。人間に比べればまだまだ恵まれているさ。こういう時こそ頭を使い、技術を色々モノにしろ」

「さすが我らのあったかご飯の人!」「偉大なるハラヘリ神!」

「「「カイ殿、一生ついていきます!」」」


 行商で里を訪れたカイは皆をこう言って励まし、システィから貸してもらった様々な学問書を手渡す。


 数学、農業、生物、土木、化学、建築、医療、治水……

 人が苦労して編み出した、世界で生きる様々な技術が記された貴重なものだ。


 学の無いカイには本の中身はちんぷんかんぷんだが、人が長い時間をかけて積み上げた様々な理屈は世界の道理に通じている。


 農業も技術で効率が高まり、人々は安定した実りを得る事ができる。

 人間の農業だって人々が何世代にもわたって考えに考え抜いた結果なのだ。


 だからエルフの役にもきっと立つ。

 この祝福不渡りはエルフが繁栄していた時代、アトランチスで栄えていた頃に近付く良い機会。


 八百万年以上もその姿を残し続ける大都市アトランチス。

 それを作ったエルフの頭が悪いはずがない。

 システィがピーの魔道具技術に学んでいるように、繁栄していた頃のエルフは人間の技術などはるかに凌駕するのだ。


 今は食べ物に夢中なだけ。

 そして呪いにより使う機会を奪われ、祝福により使う必要を失っていただけ。


 今はエルフの食の大ピンチ。

 彼らは必死に足掻くだろう。

 そして技術をモノにするだろう。

 エルフは食への執着半端無いのだから。


「カイ達はいつもこんなに大変だったえうね」「む。これは大変超大変」「カイ様の家族は素晴らしい方々ですわ。これまで以上に尊敬いたしますわ」

「ありがとう」


 行商の帰り道。

 ミリーナ、ルー、メリッサも人間達に感心しきりだ。


「ミリーナもカイと農業学ぶえう」「む。ルーも負けてはいられない」「私は師匠に回復魔法の技をもう一度教わることにいたします」

「そうだな。みんなで頑張ろう」

「えう」「むふん」「はい」

『私もミリーナ達と共に農業を学ぶことにいたしましょう』

『僕もカイ達みんなの祝福頑張るよー』「頼むぞ」『はぁい』


 皆の決意の言葉にあわせてシャル馬車が揺れる。

 イグドラからの祝福が途切れた今、カイ一家はシャルが祝福している。

 いずれエルフを祝福する事になる世界樹としての予行演習だ。


 今のシャルではカイ一家が手一杯。

 しかしいずれは里全体を祝福する大樹に生長する。

 エルフと世界樹は互いを支え、共に未来を生きるのだ。


『異界を食べれば、もっとたくさん祝福出来るかなぁ』

「イグドラは手一杯だ。今は何が起こるかわからんからやめておけ」

『はぁい』

「まぁ、何とかなるさ」


 これまでも何とかなった。

 だから今回も足掻けば何とかなるだろう。

 妻達も子らもマリーナもシャルもカイに協力してくれる。

 アレクら勇者も、竜達も、エルフも、オーク達もカイに力を貸してくれるだろう。


『『私達もお手伝いいたします』』

「お前らは本体を何とかしろ」『『無理です』』

「アルハンの言う通り、くっそ使えない祝福だなぁ」『『がぁん!』』


 そして祝福ズもいる。

 神の世界ではイグドラも奮戦している。

 だからきっと何とかなる。


 と、カイは思っていたのだが……

 やっぱりエルフは食への執着半端無いのである。

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世界樹エルフ
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