14-3 あの神々、チェンジ出来ぬものかな
『またか……あの神々、チェンジ出来ぬものかな』
「無理だろ」
竜峰ヴィラージュ、ライナスティ家。
頭を抱えるバルナゥに、カイは容赦なく告げた。
組織乗っ取りじゃあるまいし、チェンジなどできる訳もない。
カイの知るベルティアより上位の神は師匠のマキナという神くらい。
仮にチェンジできたとして、そこらの虫にまで神の力を行使できるよう紐付けして殺生や転移をホホイと行う神などゴメンである。
まあ、イグドラならちゃんとやるだろ。
余裕が無い無いとわめいていたが、カイから見ればイグドラはベルティアよりもはるかにまともでマシな神。
バカ神が遊んでいる間の代行くらいは、しっかりこなしてくれるだろう……
と、カイは気楽に考えていた。
「そういえば、神って何の仕事をしてるんだ?」
『我も良く知らん』
「……お前、転生前の記憶あるんだよな?」
カイがバルナゥを見上げると、バルナゥは知った事ではないと横を向く。
『我はあの陰湿者が提示した破格の条件に即座に乗った口だからな。まあ世界を司るのだから色々しているのであろうよ』
「参考にならないな」
『それを聞くなら我よりも何十年も居候をしていたそやつらがおるだろう。ルドワゥ、ビルヌュ、そしてマリーナ、汝らは知らないか?』
そういえば、この三人はベルティア宅で居候をしていたな。
と、カイが期待を込めて幼竜に視線を向ければ、三つの首が横スイングだ。
『『『知らない』』』
「お前ら、何十年もベルティア家で何してたんだよ」
『酒飲んでた』『飯食ってた』『私は八年間ですが、不動の大食い記録樹立を』
「アホか!」
くっそ役に立たない情報に叫ぶカイである。
そしていつから出ていたのだろう、祝福ベルティアが大きく頷き語り出す。
『ビルヌュとルドワゥは家の大掃除にも使えない、くっそ使えないニートでした』『それがお前の本音かベルティア』『まあ事実だが、お前ひでぇな』
『マリーナはご飯を作ってくれましたので使えるニートでした』『あらあら』
『ちょっと食べ過ぎで困りましたが』『あらあら』
「いや、お前出てきたんなら俺の疑問に答えろよ」『がぁん!』
そうだよ。
祝福に聞けばいいじゃんか。
カイは祝福ベルティアに向き直ると、神の仕事を聞いてみる。
祝福ベルティアが答えた。
『世界が一瞬でも長く続くように、物事が円滑に動く様々な調整です』
「……なに、それ?」
『さまざまな振る舞いの調整です。どんな物事か説明しましょうか?』
「いや、いい」
どうせ聞いてもわからない。
そして本当に聞きたいのはそこではない。
カイは単刀直入に聞いてみた。
「イグドラでも大丈夫なんだよな?」
『無理です』『絶対無理ですね』
「……おい」
即答である。
祝福ベルティアと、これまた出てきた祝福エリザが首を大きく横スイング。
「なんでお前遊びに行ったんだよベルティア!」
『マキナ先輩にかかったら、私なんて腹パン一発のもやし神ですので』
「そ、そうか……」
上には上がいるもんだ。
カイには理解できない神の世界の諸事情だ。
『ですがカイさん大丈夫です』
祝福エリザがカイに言う。
『マキナ先輩はイグドラ様に恩を売りたくてたまらないので、この世界がピンチになったらベルティア先輩をひっさげ恩着せがましく登場間違いありません』
「ピンチになるんかい!」
聞きたくなかったーっ!
と、アホなピンチ確定の未来に頭を抱えるカイである。
ピンチを作るのもマキナ。ピンチを救うのもマキナ。
ベルティアがバカ神ならばマキナはズル大神といったところか。
さすが虫すら紐付けする神。自作自演くらい平然とやらかす。
この世界、もつのか……?
何ともアホらしい危機に身震いするカイ。
『カイよ、どうしようもない事をくよくよ考えても詮無きこと』
「バルナゥ……」
しかしさすがは年の功。
バルナゥはのんきなものだ。
『どれだけ頭を抱えようが、滅びる時は滅びる。滅んだ時はバカ神に説教でもしてやるが良い』
「……えーっ」
バルナゥの言う通り、どうしようもない事はどうしようもない。
イグドラで無理ならカイやバルナゥやシャル、そして祝福ズがどれだけ力を尽くしても無理。
神の力はそれだけ絶大なのである。
カイは天を仰ぎ、そこから頭を垂れ、大きくため息をついて顔を上げた。
「まあ、この星くらいは俺たちで何とか守ろう」
『それで良い。クソ大木も自らに出来ぬ事を汝にぶん投げはせぬだろう』
どうしようもない事は考えても無駄。
出来る事をしっかりこなして成功を祈る。それだけだ。
「さすがだなバルナゥ」
『二億年も過ごすと、腹が据わるものよ……あぁ、クソ大木はひどかった。本当にひどかった』「そうか」
『奴は竜を片っ端からバクバク食いおってな。我も危なかったのは一度や二度ではない』「そうか……」
『それで天に還るならまだしも実を作りおって。あの色キチクソ大木め』「そ、そうか……」
バルナゥの苦労の歴史に冷や汗のカイ。
しかし苦労話を険悪な口調で語り続けたバルナゥも、最後は穏やかな口調でこう締めくくる。
『まぁ、それも何とかなった。ほとんどの竜が食われたが何とかなった』
「そうだな」
だから次も何とかなるだろう。とは言わない。
しかし足掻かなければ望む未来は手に入らない。どれだけ無謀でも足掻くしかないのだ。
たとえ、それがアホらしさ半端無くとも。
「まあ、できる事を頑張ろう」
『駄目だった時はバカ神宅に殴り込みだな』
まったく、しょうがない神々だ。
カイとバルナゥは顔を見合わせ、笑う。
『ところで、いつもなら必ず騒ぎ出すクソ大木が静かだな』
「本当に、余裕無いんだな……」
ピンチになる前にぶん投げるんだぞ。イグドラ……
と、カイは願った。
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