14-2 カイ、火曜日を満喫する
「よぉーし、今日は散歩に行こう」
「えう」「む」「はい」
「「「わぁい!」」」
『あらあら』『わぁい!』『『ひゃっほい!』』
火曜日。
エルネの里、カイ宅。
カイは昼食の入った荷物を持ち、皆と家を出発した。
カイを先頭にミリーナ、ルー、メリッサ、イリーナとムーとカインを背負ったマリーナ、祝福ズ、そしてシャル家が続く。
「カイスリー、留守番は任せたぞ」
「……家くらい残して行けよ」
「あ、悪い」
『分割ーっ』
「俺も連絡係として同行しよう。分割だ!」
「ぱーぱずも一緒だ!」「ぱーぱず!」「ぱーぱずーっ!」
「そうだぞー。ぱーぱずも一緒だぞーっ!」
カイスリーが分割して散歩組に加わり、シャル家が分割して留守番カイスリーの家になる。
「いってらっしゃーい」『いってらっしゃーい!』
「留守は任せたぞーっ」
荷物を担ぐのは気分。
そして歩くのも気分。
家がしゅぱたとついて来てても気ままにおでかけカイ一家だ。
「おお、カイ殿おはようございます。一家でお出かけですかな?」
「おはよう長老。今日は休みだからな」
「そうですか。良い休日を」「ああ」
最後尾を歩く家が何とも異様な姿だが、カイ一家はいつもこんなもの。
通りを歩くエルネの皆もすでに慣れた光景だ。
「ぱーぱとおさんぽー」「まーまとおさんぽー」「わぁい」
「えう」「むふん」「はい」
子らも妻達もごきげん。
いつもは行商に祝福に仕入れにと飛び回る一家。
その度に子らはミリーナの実家やぶーさん達に預けられるが今日は一日中一緒。
子らもまだまだ甘えたい盛り。
カイやミリーナ、ルー、メリッサと遊びたいのだ。
「ぶもーさん」「ぷぎーさん」「わんわんー」
エルネの集落を出れば、広がるのは牧場や畑の広がる仕事場。
竜牛、豚、そして番犬を指差して子らははしゃぎ、マリーナの背をぺしぺし叩く。
「良い火曜日だな」
「えう」「む」「のんびりほっこり火曜日ですわ」
そんな子らの姿にカイ達大人もほっこりだ。
「それにしても、このあたりもだいぶ開拓されたなぁ」
「森もずいぶん遠くなったえう」「む。昔とはえらい違い」「周囲が勝手に森にならないのは本当に素晴らしい事ですわ」
カイ達が周囲を見渡し呟く。
遠くに見えている森も伐採用に育てた森。いわば樹木畑だ。
拉致されてエルネに連行された時は集落すら森の中だったのに、今や手つかずの森は集落、畑、牧場、果樹園、樹木畑の向こう。はるか遠くだ。
エルネのエルフも増加傾向。
大きくなった集落が畑を押し出し、牧場、果樹園、樹木畑を押し出していく。
十年ちょっとですごい変化だ。
発展とは、すごいものだな……
と、思いながらカイは放牧していない牧草地に許可を貰って入り、草原の真ん中に敷物を広げた。
「ごろーん」
「ごろーんえう」「む、ごろーん」「ごろーんですわ」
「「「ごろーん」」」
『あらあら』『わぁい』『『わぁい』』
ごろーん……皆で敷物にごろり転がる。
青い空に雲が流れ、太陽は温かく、風は適度に涼しい。
絶好の散歩日より。
周囲で働いている者達には悪いが、カイ一家の今日は休日。
いつも訳のわからない事に多忙なのだ。
神様がはっちゃけない火曜日くらい、のんびりさせてもらおう。
「カイ、お酒えう」
「ありがとう」
「そしておつまみ」「乾杯ですわ」
『かんぱーい』『わぁい』『『いただきます』』
「かけっこー」「それいけ」「わぁい」
しばらくのんびりした一家は起き上がり、荷物の中から酒とつまみを出して乾杯。
大人はのんびりお酒を飲みながら、かけっこをはじめた子らを眺める。
子らは駆け、転び、笑い、また駆け、転び、笑いを繰り返している。
ここは牧場として使われている草原だ。
踏めば痛い石などは撤去されているし、草がクッションになるから転んでも痛くない。
だから安心して見ていられる。
はしゃぐ子らは、大人達の酒の肴だ。
「……さすがにもう、転がりダッシュはしないえうね」「む。転がっても普通」「ただのでんぐり返しですわね」
「いやぁ、あれは転がりを移動と思ってないからじゃないか? その気になったら今も天井を転がりそうな気がするぞ」
「ありそうえう」「む。転がり魂は健在」「そうですわね。いつかまた、転がる日が来るかも知れませんね」
カイはそう考えているが、子らにはそれを教えない。
昔の事を忘れてしまうのは少し寂しい事だけど、今の子らの笑顔はそれを埋めて余りある。
子らは新たな人生を歩みはじめたのだ。
言うのは野暮ってものだろう。
それが必要となった時には、思い出す事もあるかもしれないな……
カイはそんな事を思いながら一家の皆と酒を飲む。
「よし、芋煮でも作るか」
「えう」「む」「はい」
「「「待ってました!」」」
そしてカイが鍋を手にすれば、四方八方からすっ飛んで来るエルフ達。
久々のジャンピングスライディング土下座、大挙襲来だ。
「お前ら、仕事はどうした?」
「いやぁ、カイ殿が芋煮を作ると聞けば黙ってはいられません」「聞いてたのかよ!」「エルフの耳は伊達ではありません!」
さすがエルフ。伊達に耳が長くない。
胸を張って言うエルネの皆に、カイは昔を思い出す。
「以前ミリーナも、そんな事言ってたなぁ」
「駄犬えう」「む。駄犬」「駄犬ですわ」
「カイ殿、もっと鍋を大きくなさいませ。まだまだエルネの者は訪れますぞ!」
「芋持ってきましたーっ」「肉持ってきましたーっ」「野菜ですーっ」
「お前ら、ちゃんと仕事しろ」
「「「芋煮食べたら働きますーっ!」」」
里の景色が変わっても、エルネの皆は相変わらず。
カイもこの有様には苦笑いだ。
「どげざー」「どげざでぴょんぴょん」「すごいー」
「そろそろ子供達にも土下座を教えるえう」「む。土下座はエルフの心。いつか親子でハイドロプレーニング土下座かもーん」「カイ様と私達の子ですもの。立派な土下座エルフになりますわ」
『土下座なら私の出番ですね』『わぁい』『『さすがプロ』』
いや、もう土下座はいいんじゃないかな……?
カイはそう思ったが、言わない事にした。
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
書店でお求め頂けますと幸いです。
誤字報告、感想、評価、ブックマーク、レビューなど頂ければ幸いです。





