爪の垢祝福の爪の垢でも飲んではどうですか?
「祝福が成長しました!」「さすがカイさんえう!」
「そしてさすが私の祝福!」「私の祝福もさすがえう。えうーっ!」
神の世界。ベルティア宅仕事部屋。
画面に映る祝福ズの成長に、ベルティアとエリザは喝采を送っていた。
初めは何でもかんでも祝福していた祝福ズが、今はしっかりと相手を見て祝福の授け方を変えている。
ベルティアやエリザの欲望だけだった願いの聞き流しも同様だ。
祝福は相手のために授けるもの。
授けた相手が腐ってしまっては意味がない。
それを理解しただけでも素晴らしい成長だ。
「そして……これが、カイさんの爪の垢!」
「この中に爪の垢が、あのカイさんの爪の垢が入っているえうね!」
ゆらり……
二人が掲げたコップの中の湯が揺れる。
ベルティアとエリザが掲げるコップの湯の中には、祝福が送ってきたカイの爪の垢が入っている。
たとえ億万の星々がその中に入ってしまう神の世界のコップであっても、カイの爪の垢は確かに入っているのだ。
二人はそれをしばらく頭上に掲げた後に口元に運び、腰に手を当て構えた。
「さっそく煎じて飲みましょう」「レッツドリンクえう!」
ごっくごっくごっく……ぷはーっ。
「む、これは確かにカイさんの爪の垢!」「さすカイ。さすカイ!」
「カイさんパワーを感じます」「何か賢くなった気がしてきましたえう先輩」
「あなたもですかエリザ」「えう!」
ウフフ。アハハ。えうえう。
空になったコップを再び掲げ、二人は笑う。
「アホですかあなた方は」「のじゃ」
そんなベルティアとエリザに、同じ部屋にいる二人がツッコミを入れる。
マキナとイグドラだ。
「まったく、そんなものに何の効果があると言うのです」
「爪の垢を煎じて飲めと言ったのはマキナ先輩ではありませんか」
「言いましたがたとえです」
優秀だったかつての弟子のアホっぷりに、ため息半端無いマキナである。
「本当にやると思ってはいませんでした。カイ・ウェルスから少しでも学べという意味で使ったのに、本当に調達して煎じて飲むとは……情けない」
「えうっ!」
「そして何がえうですかエリザ。あなたがミリーナ・ウェルスを真似ても可愛げの欠片もありませんよ」
「えうーっ!」
ベルティア世界ではカイの爪の垢に祝福が宿ったが、爪の垢など本来ゴミ。
煎じて飲んでも何が変わる訳ももい。
「あぁ、未来が見えますわ……」
酷評に苦しむ二人に、マキナはさらに追い打ちをかける。
「祝福ズに導かれた転生者が天寿を全うしてあなた方に会った時、首を傾げて愛想笑いする転生者の姿が。『本物はダメだなぁ……』と、ため息をつく姿が」
「「ぐうっ……」」
「そしてあなた方が入れ込むカイ・ウェルスが天寿を全うした時『俺が育てた祝福とチェンジでお願いします』と頭を下げる姿が!」
「「ぐううっ……」」
「カイ・ウェルスの爪の垢より、自分の祝福の爪の垢を煎じて飲みなさい」
「「ぐうううっ……」」
マキナの言葉にのたうち回る二人である。
不都合な真実は、何よりも人を傷つける刃なのだ。
「そしてカイ・ウェルス。あなたがもっとはっちゃければイグドラちゃんから何かしらの譲歩を引き出せていましたのに。空気の読めないダメ男ですね」
マキナは憤慨半端無いが、カイはしっかり空気を読んでいる。
よくやったのじゃ! カイ、よくやったのじゃ!
という、イグドラの空気を読んだだけの事。
カイからすればマキナは他人。
赤の他人の空気なんぞ知った事ではないのである。
「まあカイ・ウェルスはともかく、あなた方はこのままではダメになりますね」
「「ええっ?」」
「エリザは元々ダメでしたが」
「そんなぁーっ」
マキナの呆れは半端無い。
エリザは元からゴリ押し一辺倒のアホだからよしとしましょう。
しかし、ベルティアのこのザマは一体どうした事でしょうか。
世界を上手に組み立て短期間で格を上げていった手腕はどこへ行ったのですか?
私の本命世界を扱わせるに値する手腕を持っていたのですよ。貴方は……
と、床でのたうち回るベルティアの無様にマキナは嘆き、ポンと手を叩いた。
「ベルティア。あなたには遊びが必要です」「はい?」
床にへばりつくベルティアに、マキナは腕を組み告げる。
「あなたに必要なのはバランス。そうバランスです。これまであなたは仕事仕事仕事仕事と仕事一辺倒でした。それが今は遊び遊び遊び遊びと遊び一辺倒。仕事は遊びの原資を得る為のついでと化しているのです」
「さ、さすがにそこまでじゃ……」
「だまらっしゃい! イグドラちゃんのサポートとカイ・ウェルスという厄介事現地処理係がいるから大事にならずに何とかなっているのです。彼は現地で現人神として扱われていますが全くもってその通り。彼がいなかったらこの世界、今ごろメチャクチャですよ」
「いえ、カイさんがいなかったら私もはっちゃけてませんから」
「アホですか!」
ああもう、どうしようもない。
と、マキナは額をおさえて首を振り、ベルティアの首根っこむんずと掴んで持ち上げる。
なりは小さくともマキナはベルティアとは格の違う上位級神。
ベルティア程度は吹けば弾けるもやし神だ。
「とにかく、あなたのバランスは最悪です。仕事遊び仕事遊び程度のバランスに改善が必要なのです。私のイグドラちゃんの為に!」
「……正直ですねマキナ先輩」
「当たり前です。独り立ちした者の不始末はその者の責任。弟子に不始末をなすりつけるんじゃありません」
そしてベルティアを担いだマキナはイグドラに笑う。
「イグドラちゃん。ベルティアにガツンと活を入れてきますのでしばらく大変だと思いますが、イグドラちゃんならきっと大丈夫。何事も経験です。カイ・ウェルスをガンガンこき使ってあげなさい。困ったら私に連絡をお願いしますね」
「のじゃ」
「ホホホ、では遊びの旅にレッツゴー!」
「イグドラ! カイさんに、カイさんによろしくお伝え下さいーっ!」
「……のじゃ」
ゴリ押しで恩を売ろうとしておるのじゃ。
まあ、この際きっちり活を入れてもらうのが良いじゃろう。
本当に、ダメダメじゃからのぅ……
と、思うイグドラだ。
ベルティアがダメダメなのは反論できない。
イグドラは担がれ去って行くベルティアを植木鉢の中から見送って、これは大仕事じゃのう……と、世界を見る。
イグドラの格ではベルティアの世界は大きすぎるのだ。
「そしてエリザ」「えうっ?」
マキナは去り際にエリザに言い放つ。
「あなたは入り浸っていないでもっと仕事なさい」「えうっ!」
「何がえうですか。ぶーさんはあなたを見限って芋煮神をえうえう崇めているではありませんか。崇められるか恐れられるかどちらかにしなさい。はい、これ宿題です」「えうーっ!」
そしてエリザはどっさり宿題を渡されて、えうーと悲鳴を上げるのであった。
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