13-19 垢に願いを
『『ダブル祝福、キーック!』』
ずがん!
祝福キックが小惑星に炸裂し、その軌道をわずかに変える。
『このくらいで良いでしょう』
『はるかな未来に起こる衝突は回避されました』
祝福ベルティア、祝福エリザ。
祝福ズは互いに頷き、不毛の荒野から飛び上がる。
この小惑星は数百年の後の未来、母なる星に衝突するはずの星であった。
しかしその未来はもはやない。
軌道が変わった小惑星は母なる星から次第に離れ、やがて太陽に食われるだろう。
『みみっちく』『せせこましく』『それが私達の祝福の道』『ですが、どうしようも無い破滅は回避しなければなりません』『そして今日は船出の日』『杞憂を残さぬ心遣い。さすが私達』『そろそろ時間です』『見送りに行かないと』
祝福ズは自画自賛しながら小惑星を見送り、母なる星へと移動する。
青く輝く、母なる星。
そこから飛び出す輝きがある。
世界樹シャルロッテだ。
『間に合いました』『シャル姉さんです』
世界樹シャルロッテが、宇宙を駆ける。
その幹の中にあるのは『世界』。
世界樹は己の内に世界を作り、星へと命を運ぶ船。
数多の命をその身に包み、可能性を宇宙に広げていくのだ。
『乗ってますね』『乗ってます』
『ルドワゥが乗ってます』『ビルヌュも乗ってます』『マリーナとバルナゥとソフィアさんは残りましたか』『守り手が残ってくれて助かります』
シャルの中では二人が出会った様々な者の子孫達が、新天地へと夢を馳せる。
人間、エルフ、竜、ぶーさん、ぷぎーぶもーひひーんぶるるっ。
見知った者は竜くらい。
しかし皆、二人がよく知る者の子孫。
そして世話になった者の子供達だ。
「お前達、成長したなぁ……」
「えう」「む」「はい」
二人が瞳を閉じれば、しわくちゃになった顔で笑う父と母がまぶたに浮かぶ。
若い頃からラブラブな両親は、老いてもなおラブラブだった。
幼い頃は両親を困らせもした。
しかし両親は根気強く二人を導き育て上げ、今では立派な祝福だ。
父は二人に母なる星の命が健やかであるように願い、二人はそれを今も守る。
父は自らの爪の垢に未来を託したのだ。
二人が授けるのはちょっとした祝福。
全ての災いから命を守る訳じゃない。
しかし完全な破局となれば話は別。
そういう時は存分に力を振るい、母なる星を守るのだ。
『いってきまーすっ』
『いってらっしゃい』『良い旅を』
いってらっしゃいシャル姉さん。
行ってきます妹達よ。
シャルが枝葉を振り、祝福ズが手を振り返す。
我ら三人、あったかご飯の娘達。
父が育てた三人の、今も元気な長生きの娘達だ。
『住める星に着いたら異界で繋げるから、待っててねーっ』
シャルが根を伸ばし、空を掴み、しゅぱたと駆ける。
星から星へと渡る船。光を超える速度で駆ける樹木。
それが世界樹だ。
『……行ってしまいました』『次に会うのは数百年後か、はたまた数万年後か』『寂しくなり……ませんね』『まだまだたくさんいますから』
祝福ズは足下に青く輝く母なる星を見て、微笑む。
叶える願いは、今もまだここにある。
幾万年もの時が流れた。
父も、母も、兄姉達も、その子も孫もひ孫もすでに世界を去った。
しかし命はまだまだ続く。
そして願いもまだまだ続く。
母なる星がある限り。
星に命が尽きぬ限り。
母なる星は、爪の垢の祝福に守られている。
これで13章終わりです。
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