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13-16 あんたが関わると戦いがいつもアホになるわね

「釣れたわね」「はい」


 ビルヒルト領ビルヒルト領館。

 『どこにでもいるありふれた顔を持つ男』カイズからの報告を受け、システィとソフィアは頷いた。


 彼女達二人が遠く離れたビルヒルトに居ながら状況を知る事が出来るのは、カイズの存在あればこそだ。

 グリンローエン王国、周辺国、アトランチス、そして聖教国。

 システィはカイが呆れるような場所にまで、カイズを配しているのだ。


「それで、何日後くらいに到着するかしら?」

「だいたい一週間後だな」

「そう。それまで祝福ズに誰かが願わないように警戒してちょうだいね」


 システィの言葉にカイズが頷く。


「まあ地下だから大丈夫だろ。上はもう畑だし、地主のガルダーノも快く了承してくれたし」

「ガルダーノ? あぁ、ペッカーに晒された不幸な領主ね。何と言ってたの?」

「我らが汗水たらして育てた作物をただ食いするとは言語道断。完膚なきまでに心をたたき折って下さいませ。だそうだ」

「言われなくてもそのつもりよ。ね、ソフィア」「はい」


 ソファに座って茶を飲みながら、事もなげに語る二人の女性。

 カイズは二人に呆れて呟いた。


「おまえら、えげつねぇなぁ……」

「なに言ってんの、温情ってもんじゃない」「そうですよ」


 しかしシスティとソフィアはあっさりしたものだ。


「他力本願で奇蹟を待ちぼうけて何もしない。そんな奴らのアホな望みなんてポッキリ折ってやった方がそいつらのため、そして聖教国のためじゃない。そいつら夢だけ見て働いてないのよ? 穀潰しよ? とっとと鍬を手に地を耕すか新たな社会の構築に汗を流してもらわないと壁の中が大変な事になるじゃない」

「その通りですよカイズさん。努力もせずに都合の良い願いが叶う事などない事をわからせてあげなければなりません。こんな事を続けていれば、いずれ兵と農民が戦う事になるでしょうから」

「まあ、その通りだな……」


 カイズも納得するしかない。

 人の行動の起点は常に『自分』だ。

 それを他者に求めた時点で何もできなくなる。


 聖教国の奴らは他者どころか神や奇蹟にそれを求めている。

 今のザマが当然なのだ。


「うちのカイにも無関心だと、カイが喜ぶんだがなぁ……」


 カイズがぼやく。

 求める所には与えず、求めていない所には押し売りまくり。

 世の中とは何とも面白いものである。


「まあ、イグドラを天に還した恩返しなんでしょ。そう考えればまだまだ続くわね」

「恩返しが災厄にしかなっていない所が悲しい所ですね」

「良く言っても反面教師よね。私もカイルとカイトが成長したら一歩引かないと嫌われちゃうわ」「うちの子は生まれながらにして独り立ちしているようなものですから楽でいいです」「竜は前世を引き継げるものね」「はい」


 それにしても……


 システィが笑う。


「それにしてもカイ、あんたが関わると戦いがいつもアホになるわね」

「全くです」


 システィの言葉にソフィアが頷く。

 出会った頃からそうである。


「警告出そうとしたらご飯を守るエルフに殺されて、蘇生してもらった上に世界樹の葉まで貰っちゃったわね」「異界との戦いは敵よりも恥との戦いでしたし」「いやぁ、よく我慢したわよね私達」「システィはあれで運がついたじゃないですか」「それを言うならソフィアだってバルナゥの所で運がついたじゃない」「ここぞという所で恥を捨てるのは大事な事ですよ」「ダンジョンでの主戦力は芋煮だったし、なんだかんだで敵を助けちゃうし」「聖教国はぺっかーと輝いて解決ですからねぇ」「……でも」「はい」


 二人は頷き、笑う。


「「楽なのは良い事よね」」


 そう。

 カイと関わってから戦いが楽になった。

 二人は異界と戦う勇者級冒険者。死んだ事も一度や二度ではない。


 そんな二人はカイと共に歩むようになってからは一度も死んだ事が無い。

 システィの夫であるアレクも仲間のマオも死んだ事は無い。

 恥はかいても命を捨ててはいないのだ。


 それは何かを守り戦う者にとっては非常に都合の良い事だ。

 アホも恥も切り抜けられればいずれは笑い話になる。

 それが嫌だと傷ついたり死んだりするのはそれこそアホの所業。

 この世界は生き延びてこそなのだ。


「ま、私達もとことんアホになってやろうじゃない」

「そうですね。それが皆の幸せなら、どこまでもアホになってあげましょう」


 それが一番賢い選択なのだから。


 茶を飲みのんびり笑う二人は母の貫禄。

 何よりも大切なものを得た二人はそのために戦い、そして恥をかくのだ。


「カイズ、聖教国にカイを連れて行くから連絡お願いね」

「行く必要あるのか?」

「カイにはないけど、祝福ズのしつけに使えるかもしれないわ」

「あぁ、そういう事か」

「カイも困っているようだし、利用した分の手助け位はしてあげましょう」


 そして恥をかいて楽をした分は、足掻く者に手を差し伸べる事に使う。

 それがシスティの生き方だ。


「しかしあいつら、ちゃんと学ぶかな?」


 心配そうなカイズにシスティは笑う。


「それは、神のみぞ知る事よ」

「……あまり期待できんな」


 そしてカイズは頭を抱えるのであった。

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「私、前世は芋煮だったの」と、二人の姉がおかしな事を言い出した……え? 僕もイモニガー?

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