13-15 『彼女』が我らを復権するのだ!
カイが祝福ズにお引き取りを願う少し前、聖教国でひとつの動きがあった。
「『彼女』を見つけました」
男の報告に、暗い部屋がどよめく。
「『彼女』か?」「本当に『彼女』なのか?」「間違いありません」
頷く男に再び暗い部屋がどよめく。
「そ、それで……願いは?」
部屋の一人がかすれた声で聞き、他の皆が息を呑む。
男は皆を見渡すと、深く頭を下げ答えた。
「『はぁ?』と、聞き流されました」「な、なんだそれは……!」
部屋の皆が叫ぶ。
「ですがまだ『彼女』は存在しています」
「そ、そうか……願いが大き過ぎたのか?」
「我らが聖樹様の再来は、さすがに過ぎた願いであったか」
「さすがに神は呼べぬと言う事だな」
「それなら願いを段階的に下げていくべきか」
「早急に他の願いをまとめよう」
「ところで……エルフや竜には見つかっていないだろうな?」
「現れたのは地下でしたので、今のところは発見されていないようです」
今は暗いその部屋は、かつて一つの国の中心であった場所だ。
グランボース聖教国、聖教都ラジュベルの聖なる円卓。
かつては昼夜問わず明るかった部屋も、今となっては昼も暗く汚い部屋だ。
世界樹の枝の力を使い、エルフを使い、異界を食らって貯め込んだミスリルも魔道具もマナもあったかご飯のぺっかーに屈し、そのほとんどが奪われた。
マナを贅沢に使う事を前提に作られた部屋は今は暗く、松明が汚れと臭いをまき散らしながら部屋を照らしている。
そこに残るのは失われた権威。
そして、権威にしがみつく者達だ。
聖教国国民がこれまでの生活を諦めて鍬を取り、地を耕し始めた今でもかつての栄光が忘れられない者はいる。
彼らが今、求めているのは失われた世界樹の枝の代わりになる『彼女』だ。
突如現れて近くにいた者を驚かせ、取るに足りない願いを叶えた『彼女』。
普通の者は胡散臭い存在にいきなり大それた事は願わない。
ある者は失せろと言って消し、ある者は壊れた鍬を直せと言って直させ、ある者は腹が減っているのかと農作業を手伝わせた。
そんな事をそこら中で繰り返した聖教国の人々は、やがて気付くのだ。
これは世界樹の枝に代わる、神からの祝福なのではないか……と。
『彼女』が何者なのかは分からない。
しかし、そこに超常の力は確かに存在する。
それも異界のような脅威を討伐した後に得られるものではない純粋な恩恵だ。
願えばそれが手に入る。
それを知った聖教国は残る兵を使い、血眼になって探しはじめた。
『彼女』は気まぐれ。
どこに居るかはわからない。
そしてようやく見つけた『彼女』もあっという間に消されてしまう……エルフに。
時折現れ農作業の指導を行うエルフが、その祝福にご飯を願い消しているのだ。
あれだけの力を、ただのご飯のために使う。
誰の差し金かは容易に見当がつく。
あったかご飯の人だ。
聖なる円卓の皆がかつては笑い、そして頭を抱えた聖教国の惨状を招いた輝く男が、聖教国復権の機会を潰しているのだ。
天を舞う竜と結託したエルフに、地を這うしかない聖教国は常に後手だ。
願う事ができた頃には価値がわからず、価値を知った後はエルフや竜に先を越される。
価値を知らなかった頃の己を悔いても後の祭りだ。
しかし……
今回は地下という特殊な場所に出現したために、エルフも竜もまだ気付いていない。
「事は一刻を争う。我らもそこに向かおう」「願いは道中で決める事にする」「そうだな」「このような機会、もう二度とないからな」
円卓の面々が立ち上がる。
千載一遇のこの機会、決して逃す訳にはいかない。
こんな場所で願いを議論している余裕はない。
いつ『彼女』が誰かの願いを叶え、消えてしまうとも知れないのだ。
「我らを案内してくれたまえ」
「かしこまりました」
男が恭しく頭を下げる。
男は『どこにでもいるありふれた顔を持つ男』。
聖教国の者達はまだ気付いていない。
自らの行動がすでに『どこにでもいるありふれた顔を持つ男』と、その上司の掌の上にある事に。
そしてかつての『神』は呟くのだ。
『まったく、情けないのぅ……』
と。
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子らの短編書いてみました。
「私、前世は芋煮だったの」と、二人の姉がおかしな事を言い出した……え? 僕もイモニガー?
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