13-13 道の駅、マナーアップキャンペーン
「この店で俺の事を語るのを禁止する!」
エルネ道の駅の料理店。
カイは店の中に立ち、食事するエルフの皆に宣言した。
店の入り口と中にはシャルに作ってもらったポスターがばばんと貼ってある。
「マナーアップキャンペーン?」
「そうだ。お前らもこれから色々な所で食事する機会を持つ事になるだろう。今の内に食事のマナーに慣れておかないとな」
「「「……はて?」」」
カイの言葉にエルフの皆が首を傾げる。
それはそうだろう。
ポスターに書かれているのは「あったかご飯の人に関わる事を語るな」。
食事のマナーに関する文言は近くでじっくり眺めないと読めない程度に書いてあるだけ。
これで食事のマナー云々と言われても無理がある。
エルフが口々に呟いた。
「いや、これ口止めだろ?」「緘口令だな」「まったく緘口令だ」
「うるせえ」
バレバレだ。
しかしバレバレでもカイはゴリ押さねばならない。
カイは皆に言い放つ。
「俺には言いふらされると困る事がいろいろあるんだよ。道の駅は色々な人が出入りするからな」
「「「またアルハンの奴か」」」
「いや、今回はお前らがやたらと話すのが悪い」
「「「そんなーっ!」」」
「うるせえ!」
口々に叫ぶエルフをカイがぴしゃりと黙らせる。
実際、エルフの食事はカイが文句を言うほどひどくない。
そのうちシスティに頼んでマナー教室でも開いてもらおうかと思うくらいだ。
彼らは食への執着半端無いエルフだ。
食料を疎かにする事はない。
初めて会った頃のミリーナが肉食べたさにカイの食料を狙って腐らせようとした事があったが、あれは自らメニューを選択しようとした肉々行為。
誰にも頼らず選んで食べられるなら、そんな事は決してしないのだ。
とにかく今は食べ終えた皿も綺麗なものだ。
まるで全てを舐め取ったかのように綺麗……
「いや、舐めるのはやめとけ」「「「ええっ!」」」
今まさに皿を舐めようとしたエルフ達が驚愕の声を上げる。
「そういう時はパンを使うんだよ」
「「「ありません!」」」
「なんでだよ!?」
カイが聞く。
「徹夜待ちで入店した奴らがしこたま買って帰るんです」「里の皆への土産に買って帰るって」「だからどれだけ準備してもすぐ売り切れる」「焼きたてパン狙いの奴らもたくさん」「俺、ここで毎日食事してるけどパンなんて見たことねぇよ」
「お前ら……相変わらずだな」
どうやら来店したエルフが土産に買って帰るらしい。
そして焼きたてパン狙いのエルフもいるらしい。
食事に出す分まで根こそぎ買って帰るあたり、さすがエルフだ。
「しかし、我らハラヘリ神を崇めるハラヘリの民でございます」
「いつからそんなもん出来たよ?」
「神聖なハラヘリを渡して得た食事、食べられるもの全てを感謝し頂くのは当然でございます……しかし我らのハラヘリ神の直々の仰せなら、ここは涙を飲んで諦めましょう……くううっ!」
「まだ俺はハラヘリ神なのか!」
皿舐めひとつで道の駅がえらい騒ぎだ。
「……いや、もうここでは舐めていいよ。でもパンがある時や、人間の町にある店ではやるなよ?」
「ハラヘリ神のお許しが出たぞ!」「「「これで舐め放題だ!」」」
ひゃっほい。
禁止すると皿洗い担当がエルフに恨まれそうで後味が悪い。
仕方なく許可するカイだ。
まあ、いずれ時が解決してくれるだろう……
と、カイは未来にぶん投げて、本来の目的に立ち返る。
カイは爪の垢を狙われて、神々に謎の超絶ハイパワー祝福を上積みされるかも知れない身なのだ。
これ以上人の枠から外れるのは勘弁してもらいたい。
カイは食事中のエルフをじっと睨んだ。
「……カイ殿、人の食事を睨むのはマナー違反ではないのですか?」
「マナー違反だが俺は監視役だからな。俺の事は気にするな」
「はぁ……」
「そして俺の話題を出したお前は五分間のおあずけだ。シャル、やれ」
『はぁい!』
しゅぱたん!
店の外から枝葉を伸ばしたシャルが料理に蓋をする。
「ああっ! 俺の、俺のご飯が!」
「心配するな。まだ一度目だから味は変えないでおいてやる」
「二度目だと味が美味しく変わるんですか?」
「不味くなるに決まってるだろ!」
「「「なんというスパルタ!」」」
シャル蓋はエルフの力程度ではびくともしない。
エルフの皆は阿鼻叫喚。
ちなみに現在、他の道の駅や心のエルフ店ではカイズと分割シャルが出張中。
つまり全エルフ阿鼻叫喚。
マナーアップキャンペーンは全世界同時なのだ。
「お前ら、俺の事を語らなければいいだけなんだから難しい事じゃないだろう?」
「そんな! 我らのカイ殿への信仰を舐めないで頂きたい!」「我らの尊きあったかご飯の人!」「そしてハラヘリ神!」「呪われていた頃に頭に当てて頂いた煮込み過ぎご飯の味は今も忘れたことはございません!」
「お前ら……」
「「「カイ殿!」」」
おぉおおおおめしめしめしめし……
エルフの皆の心の叫びにほっこり涙のカイである。
「でも、俺の話題は禁止ね」
『湯気、いただきまーすっ』
「「「そぉおおおおんなぁあああああっ!」」」
あぁあああああしめしめしめしめ……
シャルにご飯に蓋をされ、げんなり涙目のエルフ達である。
「やばい、カイ殿は本気だ!」「ご飯を盾に我らを脅すとは、本気で我らから自分の話題を取り上げようとしている!」「我らの信仰を奪おうというのか!」「カイ殿があったかご飯の人とハラヘリ神を討伐しようとしているぞ!」「神をも恐れぬ所業だ!」
「それ全部俺じゃねーか!」
「だってご飯といえばカイ殿!」「あったかご飯の人!」「ハラヘリ神!」
「言葉にしなければいいだけだろうが! そして二度目だからご飯を冷やします」
『熱、いただきまーすっ』
「「「えーっ!」」」
嬉しいやら情けないやら。
カイはシャルに食事を冷やさせ、エルフ達は涙を流しながら冷や飯を食う。
「くうっ……」「これはキツい、キツ過ぎる」「なぜこのような所業が許されるのだ!」「それはカ……げふんげふん、名前を言うとご飯がまずくなるあの方の所業だからだ」「我らは耐えるしかない……」
「あぁ、キャンペーンはお前らができるようになるまで続くから、他の者にもちゃんと言っておいてくれ」
「「「ええーっ!」」」
「俺の面倒につき合わせてすまんが皆、がんばってくれ」
「「「そぉおおんなぁああああーっ!」」」
えぇええええええしめしめしめしめ……
エルフの嘆きが道の駅に響く。
そして一週間後。
エルフは独自の技術でカイの要求を克服した。
「あのピーがピーでピー」「ピー?」「ピーがピーでピーだよなぁ」
カイは高音がダメえうと、ミリーナにダメ出しされたエルフ独自のピー単語だ。
カイには同じピーにしか聞こえないが、エルフの耳なら違いがわかる。
彼らはカイに関する言葉をピーの中に隠して会話する事で、カイの要求を満たしたのだ。
もういいよそれで。
人が理解できないならそれでいいよ。
どれだけ恥ずかしい言葉で代用しているのかカイにはまったくわからないが、意味が解らないならそれでいい。
と、カイもぶん投げる。
「えうーっ、そんな事をするえうか?」「カイ……今夜はすごい?」「すごいですわ、すごいですわ! そんな大胆な事をカイ様と……ぴっぴりっぷっぷー」
「いや、あれは隠語だから言葉通りに取るなよ」
「えうっ」「ぬぐっ」「ふんぬっ」
そしてカイは、横で赤面する妻達に釘を刺すのであった。
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子らの短編書いてみました。
「私、前世は芋煮だったの」と、二人の姉がおかしな事を言い出した……え? 僕もイモニガー?
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