13-12 もっとみみっちく、もっとせせこましく祝福しろ
『あなたの願いは「ダメ」あうっ……』
『カイさん、どうしてそこでダメなのですか?』『私達、十光年は楽勝ですのに』
「そんな大それた祝福はいらないからだよ」
『『がぁん!』』
エルネの里、カイ宅。
カイは祝福ズを前に祝福のしつけを行っていた。
このままではランデルに入れなくなるからである。
「カイよ、祝福がシャルぐらいに成長するまでランデルに入る事は許さん」
「……はい」
こっそり出て来られるようになった祝福ズの話はアルハンからルーキッドに伝えられ、カイはルーキッドから祝福を何とかしろと命じられた。
二度と近付くなと命じられなかったのは、ルーキッドの温情だろう。
しかし一度でも訳わからん祝福が発動すれば温情もなくなる……
というか、ランデルが終わるかもしれない。
ランデル領は竜が飛び、樹木が走り、怪物とエルフが仲良く歩く怪奇領
この程度でうろたえていては生活などできないが、それでも温情半端無い。
ルーキッドに対し、ひたすらに頭が下がるカイである。
で、カイが祝福に対して何をしているかと言えば……掃除だ。
「もっとみみっちくだ。せせこましくだ。部屋の角の汚れを雑巾でちまちまと綺麗にしやがれ。その手足を使ってな」
『なぜこんな効率の悪い方法を』『まったくです。願えば一発なのに』
「お前らが手袋で出なくなるなら、ここまでする必要もないんだがな」
『『はぁ?』』
「だから普通に現れても困らんよう、常識をしつけてるんだよわかれ!」
『『がんばります』』
大は小を兼ねると言うが、大き過ぎるのは駄目。
料理と同じようなものだ。
小さじ一杯で十分な材料を鍋いっぱいにぶちまけられては料理が台無し。
用意できる鍋にも限りがあるようにその時できる事にも限りがあり、それ以上の祝福を授けられてもロクな事がないのだ。
正直こんな事をして祝福の加減ができるようになるかどうかは、カイにもさっぱりわからない。
しかし、イグドラも似たような事をして今の能力を手にしたのだ。
こいつらも元はアレとはいえ今はこの世界の存在。
イグドラのようにちまちま鍛えれば多少はマシになるかもしれない。
……いや、数がだいぶ足りないか?
イグドラの処理した数は億の兆倍とか訳わからん数だったし。
カイとて確証がある訳ではない。行き当たりばったりだ。
『終わりました』『これは納得の綺麗さです』
「……」
カイは無言で部屋の端を指でなぞる。
「指にホコリが付いてるぞ」『『……はぁ?』』
「聞こえない振りするな!」
『カイさんが意地悪姑の真似を始めました』『つまり私達は嫁?』
『『すごい!』』「聞いてるじゃんか!」
こいつら……本物も大概だがこいつらも相当だな。
カイが頭を抱えると、天からイグドラが声を掛けてくる。
『カイよ、そろそろ徒労は諦めて余に任せるのじゃ』
「徒労言うな」
『祝福の思考などアテになるものではない。起こってから防ぐのが最も楽じゃぞ?』
まあ、神の協力があればそれも可能だろう。
しかし神にも不手際はある。人は人なりに努力をしなければならない。
「いざという時は迷わずぶん投げるが、何でもかんでもぶん投げたらイグドラも色々大変だろ。そっちでも面倒なんだろこいつら?」
『まあ、本物はこやつらなど目ではない』
『『がぁん!』』
『何かががぁんじゃ。汝らに余が願いたい位じゃ。まあ汝らの力など本物の爪の垢にすら遠く及ばぬからのぅ』
本物、半端無いなぁ……
カイが呆れる祝福の力も本物の爪の垢にすら遠く及ばないらしい。
世界の違いは残酷なのだ。
「仕入れ終わったぞ」
「ただいまえう」「む。カイまだやってた」「祝福を鍛えるとはさすがカイ様ですわ。成果は……これからですね!」
『『がぁん!』』
カイが呆れる中、ルーキッドの心労を増やさないよう仕入れを任せたカイスリーが妻達と共に家に戻ってくる。
世間はもう、昼なのだ。
『カイさん、疲れました』『休憩、そしてご飯』
「しょうがないなぁ……ご飯にするか」
『『願いは叶えられました』』
「ご飯ができるまで、お前らは散歩な」
『『わぁい!』』
願いが叶ってバンザイな祝福ズにカイはため息をつき、カイは妻達に昼食を頼み、祝福ズを連れて外に出た。
広場ではカイの子らが里の子らと共に駆け回っている。
「「「わぁい」」」
エルフの子らは祝福もあって遊びも人より強烈だ。
幼子でも三メートル以上跳ねるし木にも登るし高い所からも飛び降りる。
人がやったらどれも骨折くらいはするだろう。
祝福のおかげだ。
「相変わらず派手な遊びだなぁ」
「いたっ……!」
カイが感心する目の前で、一人の幼子が転ぶ。
世界樹の守りがあるからケガはないだろう。
しかし転べばそれなりに痛い。
幼い頃に痛みを知らねば困るじゃろうとイグドラが祝福を加減しているのだ。
痛みに幼子の顔が歪んでいく。
『むむこれは一大事』『祝福の出番です』
「必要ない」
カイが祝福ズを止める。
あれは成長する上で避ける事の出来ない痛みだ。
痛みを経験する事で気をつけるようになり、避ける事や加減する事、人の痛みを知る事へと道が広がっていく。
経験はその先の人生の可能性を多く広げ、変えていくのだ。
「いたいーの?」「だいじょぶ!」「いたいのとんでけーっ」
「いたくなーい!」
「「「わぁい!」」」
転んだ幼子に子らが群がり、体をよしよしと撫でる。
涙目の幼子は周囲の子らにニッコリと笑い、再び広場を駆けだした。
「お前らがする事なんざ、あの程度で十分なんだよ」
『む』『なるほど』
転んで挫けそうな奴を励まし起こしてやる。
祝福はその程度で十分。
それ以上の事は、本人の努力でつかむべきものなのだから。
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