13-11 アルハン……お前、意外とまともだな
「カイ様、久しぶりに食事でもどうですかな?」
オルトランデル。
行商の帰り道、カイは珍しい人物から久しぶりに声を掛けられた。
トニーダーク商会のアルハン・ベルランジュだ。
「いや、お前と食事をした事なんて、あったか?」
「お忘れですか? ほら、エルトラネの道の駅で」
「……ああ、俺がエルトラネの奴らに拉致された時か」「はい」
あった。確かにあった。
もうずいぶん遠い昔のような気がするなぁ……
カイは波乱に満ちた人生を振り返り、神のおかげで無駄に濃密だなと心で呟く。
かつてはカイに圧力をかけたアルハンも、今ではすっかり大人しい。
まあ、天を埋め尽くす隕石という天罰の中心にいれば大人しくもなるだろう。
しかし商人魂があれで消えた訳ではない。
やる事はしっかりやっている。
ゴリ押しせず、出しゃばらず、しかし儲けは淡々と。
カイという存在を勘定に入れなかった以前のアルハンよりも、勘定に入れるようになった今のアルハンの方がやり手だとカイは思っている。
あの隕石すらも自らの商売の糧にしてしまう商魂はさすがというべきだろう。
「まあ、食事くらいはいいか」
カイは少し考え、アルハンに頷いた。
「外食えう」「む、外食」「外食ですわ」
「「「ごはんーっ」」」
『あらあら』『わぁい』
「では、我が商会へどうぞ」
皆の歓声にアルハンはにこやかに頭を下げた。
マリーナやシャルは大食らいだがアルハンの事だ。しっかりと計算に入れてあるだろう。
そして珍しく誘って来たのだ。何か言いたい事でもあるのだろう。
カイはアルハンに案内されて、トニーダーク商会の貴賓室の席につく。
食前酒が運ばれ乾杯した直後、アルハンはいきなり切り出してきた。
「ところでカイ様……また神から妙な祝福を授けられたそうですな」
「ぶっ……」
お前、それをどこから……
そんな気持ちが表情に出ていたのだろう、アルハンはしてやったりと笑うと情報源をぶっちゃける。
「道の駅でエルフが騒いでおりましたので」
「あいつら……」
口が軽すぎるエルフ達に毒づくカイである。
しかし道の駅なら仕方がない。美味なご飯を前に口も軽くなるというものだ。
そしてエルフはカイの祝福を笑い話くらいにしか思ってはいないだろう。
カイなら何とかしてくれると信じて疑わないからだ。
だが、人間は違う。
カイはアルハンを睨んだ。
「アルハン、お前今度は何をするつもりだ?」
「そんな。神をも恐れぬ所業は二度とするつもりはございませんよ」
アルハンは笑って手を振った。
「カイ様の持つ力は人の手に余りまくる代物。竜や勇者にぶん投げて知らんぷりするのが幸せというものでございます」
まともだ。
アルハンがまともな事を言うので疑うカイである。
「お前、いつからそんなにまともになったんだよ?」「失礼な。初めからでございます」「お前、エルトラネの魔道具欲しさに俺をハブるとかやってたじゃんか」「カイ様の力量を並の人間と見ておりましたので。いやぁ、あの頃は私も血気盛んでございましたなぁ」「そんなに昔の話じゃないぞ」「ハハハ。とにかくあの天を覆う隕石の中心にあれば、触らぬ神に祟りなしという言葉が身に染みるのでございます」「向こうから関わってくる俺はどうすればいいんだ」「人柱でございますな」「おい……」
にこやかなアルハンに渋顔のカイ。
さすがは百戦錬磨の商人。カイなど相手にならない。
「うまいえう!」「む。長老に勝るとも劣らない」「さすが一流の料理人の料理ですわ!」
「おいしーね」「おいしい」「いもにもおいしーけどこれもおいしー」
『おかわりを頂けますか?』『わぁい』
そして料理に歓声を上げるカイ一家の皆はカイの会話に興味無し。
さすがはエルフ。食に全振りである。
「で、どんな祝福なのですかな? 聞いた所によると爪の垢を煎じると神の姿をした祝福が現れるそうですな。それを防ぐ為にまず手袋を願う所はさすが、カイ様らしいですなぁ」「ぐぬぬ……」
あぁ、あいつらどこまで喋ってやがるんだ。
しかしこれだとどれだけの力を持っているかも大体バレているだろうなぁ……
まあ、アルハンはあの隕石で懲りているから、それ以上のはっちゃけならばヘタに手を出してこないだろう。
よからぬ事を考えれば行動に移す前に回復魔法で口を縫い合わせるまでだ。
と、カイは竜峰ヴィラージュで祝福ズが語った内容を嘘を適度に織り交ぜ語る。
話を聞いたアルハンは盛大にため息をつき、なげやりに呟いた。
「また、くっそ使えない祝福を頂いたものですなぁ」
『『がぁん!』』
「お前ら、いつの間に!」
アルハン、容赦無し。
そしていつの間に出現したのかショックを受ける祝福ズである。
「ヘタに願えば一発で星ごと終わりとかアホですか。国が滅んだり陸地が消滅するような派手な祝福なんぞ商売上がったりなのですよ。カイ様はどうしてこう、もっとみみっちくせせこましい祝福を頂けないのですか」
「俺に言うなよ」
当たり前だが商売は人がいなければ成立しない。
爪の垢祝福はそれらを一発で破壊してしまう。
気まぐれだろうが何だろうが破滅を願ってしまえば終わりなのだ。
商人には混乱が商機となる時もあるが、仕入れ元や販路のみならず自らまで破滅するような混乱は商売どころではない。
アルハン的には全く使えない祝福なのである。
「カイ様は商人なのでしょう? もっと商売の役に立つ祝福を授けてもらいなさい」「嫌だよ」「そしてエルフの皆と結託して王国の商業に革命を起こそうではありませんか! その時はこのアルハン、微力ながらお手伝いいたしますぞ」「お前、正直にぶっちゃけ過ぎだ!」
心を読めると知っているからだろう、アルハンのぶっちゃけ半端無い。
『商売の役に立たないような言い方、聞き捨てなりません』『私達も最近は売り子をしているのです』『いらっしゃいませ』『まいど』
そしてアルハン、反論する祝福ズには容赦無い。
「売り子? ヘタに願うと破滅する祝福を売り子に使う? そんな命知らずはカイ様だけです。そんな事にも気付かないとは、くっそ使えない祝福ですなぁ!」
『『がぁん!』』
「もっとみみっちく。もっとせせこましく祝福なさいませ。聖樹教に聖樹様が授けられた世界樹の枝などは適度に強力で使い勝手も良い祝福でしたのに、このお二方の祝福ときたら本当にどうしようもないですな」
「まあイグドラはこいつらとは格が違うからな」
『『がぁん!』』『のじゃ』
「とにかくこの駄祝福が暴発しないように何とかして下さいカイ様。しつけは飼い主責任でございますぞ!」
「えーっ……」
『お手です』『おかわりです』
「……くっそ使えない祝福ですなぁ!」
『『がぁん!』』
強力で使えるか、強力すぎて使えないかの違いだ。
イグドラは神の世界では格下でも、人から見ればはるかに格上。
イグドラとこいつらじゃ、お役立ち度がまるで違うもんなぁ……
アルハンのダメ出しにのたうち回る祝福ズを眺めながら、つくづくそう思うカイであった。
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