13-10 災厄を祝福で制す。なお、災厄も祝福もベルティアとエリザである
「あぁ、また道に畑を作ってやがる」
「懲りないえうね」「む。使わないから仕方ない」「そうですわね。ひとり歩ける幅だけあれば良いのですから畑の畝を進めば事足りますものね」
『あらあら』『わぁい』
アトランチス奥地、上空。
カイはシャル馬車で空を飛びながら、細長く続く畑に呆れていた。
本当にこいつら、道を使わないんだなぁ……
思えば昔のエルネ、ボルク、エルトラネの道も獣道であり、人間ではとても進めないエルフ基準の道なき道であった。
手に余るほど大きな荷物は運ばない。
狩った獣を楽々担ぐ力もあるし、魔法で運ぶ事もできる。
祝福で薪も食料もホイホイ得られるので遠くへ行く必要がない。
こんな調子なのだから道を使う訳もない。
カイがシャルに頼んで作った道路も雑草むしりをしてもらった畑扱いだ。
こりゃもう、道が通じてない里には行かない事にするしかないなぁ……
こいつら懲りないし。
今は必要なくとも将来の為だ。
カイはそうする事に決め、目的の里へと着陸して店を開いた。
『『貴方の願いを叶えます』』
「歯磨き粉を」
『一ハラヘリです』『まいど』
しれっと出て来て売り子をしている祝福ズは、だいぶ世間に慣れてきた。
以前であれば歯磨き粉を祝福で創造するかタダで渡していただろう。
しかし、今は客がハラヘリを支払うまでは商品を渡さない。
おあずけ会得。
見事に駄犬脱出である。
『商品が切れました』『補充の商品を願います』「はいよ」
『願いは叶えられるでしょう』『わぁい』「……」
お前ら、とうとう俺に願うようになりやがったか……成長したなぁ。
カイは心でボヤきながら店の奥から商品を運び出す。
ここまで来ると人とそれほど変わらない。
そのまま願いを叶える事を忘れて欲しいカイである。
「ミリーナの仕事が取られたえうから今日はルーの手伝いえう」「味見と称して芋煮を食べるのやめて」「えうっ」「ハラヘリ払う」「えうっ!」
祝福ズに売り子を取られたミリーナはルーの手伝い。
「カイ殿、ようこそミルパの里においでくださいました」「ああ」
「彼女達は新たな妻ですか?」「断じて違う!」『『がぁん!』』
そしてカイは裏方仕事と長老の相手だ。
「我らの里はアトランチスの奥地ゆえカイ殿には退屈でしょうが、ここには温泉がございます。旅の疲れを癒やされると良いでしょう」
「どこのエルフの里も似たようなもんだぞ。我が家も山奥だし」
「ご冗談を。エルネの里といえば大都会ではありませんか」
「大都会……?」
「長老が料理店を営むうえに、我らの里にはめったに来ない道の駅も常駐! そんなハラヘリ飛び交う里を大都会と言わずして何と言うのですか」
道が畑にならずに馬車が走り、料理店と道の駅があるぶん都会かもしれない。
長老の言う事ももっともだと思うカイである。
「あ、そうだ。今後は道がまともに通じてない里には行かない事にしたから」
「なんですと?」
会話のなかでカイは思い出し、ミルパの長老に言った。
「畑にしてはダメなのですか!?」「ダメだよ」「畑でもちゃんと通れるではありませんか!」「俺が作物潰しながらやってきたら長老はどうする?」「カイ殿やご家族様ならば許しましょう……くううっ!」「じゃあ、俺らじゃなかったら?」「断じて許さぬ!」「だろ? だからだよ」「耕作地が減ってしまう……」「道くらい我慢してくれ」「せっかく雑草むしりしてもらったのに」「畑じゃないから! 道だから!」
このあたりは温泉が出るらしい。
どこかにスキマでもあったかな……噴火とかしないよね?
と、長老と話をしながら戦々恐々のカイである。
アトランチスの自然は火曜日のカイ製。
何かあればカイの不手際だ。
問題があったら、後でこっそり直しておこう。
カイはそんな事を考えながら商品を売りさばき、里の皆から歓待を受け、道畑の作物を収穫しながら道に変え、温泉に入る事にした。
「温泉えうー」「温泉むふーん」「良いですわ。これは良い温泉ですわ」
「仕事の後の温泉は最高だな」
「えう」「むふん」「はい」
『あらあら』『わぁい!』
はふーん……
温泉につかるカイ一家だ。
「シャル、荷物は濡らすなよ?」『はぁーい』
ジャバジャバと車輪を回して泳ぐシャル馬車にカイは注意し、湯に体を委ねる。
手で肌に触れればヌルリと滑らか良い感じだ。
ここの温泉はお肌なめらか美肌の湯でございます。
健康増進でございますぞ。
と、長老が言った通りの効能であるが素直に喜べないカイである。
俺の火曜日の祝福が妙なモンを大地にブチ込んでないだろうな……
爪の垢とか。
『『これは良いお湯です』』
はふんと浸かる祝福ズを見ていると、その可能性を考えずにはいられない。
祝福ズの出現はカイの爪の垢を煎じる事だ。
そしてアトランチスの自然はカイ製。
どこに爪の垢が入っていてもおかしくない。
爪の垢は願いで全て回収されたはずだが、その前に現れていれば話は別。
このアトランチスの大地の底に何百、何千もの祝福ズがはっちゃけているかもしれないのだ。
一家がはふんとくつろぐこの温泉の底にもいるかもしれない。
カイは呟く。
「アトラチンスをまともな大陸にしないとなぁ……」
『『貴方の願いは叶えられるでしょう』』「えっ?」
ざぶん!
祝福ベルティアと祝福エリザが温泉から上がる。
「何か意気揚々と出て行ったえうよ?」「む。願いが叶えられると言っていた」
確かに言っていた。
もしかして、神が直々に大地をまともにしてくれるのか?
と、期待したカイだが首を傾げるメリッサの言葉で我に返る。
「ところで、どのような大地がまともかは私達やカイ様が基準なのでしょうか、それとも神の基準なのでしょうか?」
「「「……」」」
やべぇ……地上しか知らない俺のまともは信用できん。
都合が違う神のまともはもっと信用できん。
カイは手に回復魔法をかけた。
回復魔法は体の状態を変化させるたくさんの魔法の総称だ。
その中には新陳代謝を促進するものもあり、当然ながら爪の垢も作れる。
カイはサクッと爪の垢を作ると湯に浸し、祝福ズを呼び出した。
『『貴方の願いを「今、俺の願いを叶えると言ったお前らの願いを無効にして来い」……願いは叶えられるでしょう』』
ざぶん!
また祝福ベルティアと祝福エリザが温泉から上がっていく。
なんだろ、このカイズみたいな奴ら……
カイがそう思いながら見つめる視線の先、先行する祝福ズに追い付いた祝福ズが問答を開始した。
『願いが』『その願いは無効になりました』『がぁん!』『ネガイガー』……
カイの眼前で口論する祝福エリザと祝福ベルティアである。
「二対二だと互角えうね」「カイ、あと二回くらい爪の垢で呼び出す」「そうですわ。ここは数で攻めましょう」
「そうだな」
『『『『貴方の願いを叶えます』』』』「お前ら、自分を止めてこい」
爪の垢があればいくらでも。
カイは妻達の助言に従い、祝福ズをさらに呼び出した。
災厄を祝福で制す。
まあ災厄も祝福も祝福ベルティアと祝福エリザだが、この際気にするのはやめておこう。
災厄も祝福も、似たようなものなのだから。
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子らの短編書いてみました。
「私、前世は芋煮だったの」と、二人の姉がおかしな事を言い出した……え? 僕もイモニガー?
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