13-9 子供が寝た後で
「ぶーさん」「ぶーさーん」「いもにー」
『おお、おお! よく参られました。芋煮もたんとありますぞ』
「「「わぁい!」」」
オルトランデル。エリザ世界側の通路ダンジョン主の間、えう神殿。
ランデルでの仕入れを前に、カイ一家は子らを連れてえう神殿を訪れていた。
子らはもう前世の事を憶えていないが、オーク達をぶーさんと呼び慕っている。
だからカイはランデルに仕入れに向かう際、ここに子らを預けているのだ。
「じゃ、俺がランデルに行ってる間、子供達と遊んでやってくれ」
『お任せくださいませ。我らの神に寂しい思いは決してさせませぬぞ』
『今日の芋煮も良い出来でごさいます』
カイの言葉に老オークとえう勇者アーサーが頭をさげる。
「イリーナ、良い子にしてるえうよ?」「はーい」
「ムーも芋煮を食べ過ぎない」「えーっ」
「カイン、ぶーさん達を困らせたらダメですよ?」「ぶーさん……あたまなでたら、こまる?」
『困りません! どれだけ撫でても困りませんとも!』
「ぶーさん、だっこー」『良いですとも!』
「たかいたかいー」『高い高いーっ』
子らに群がるオーク達はすっかりぶーさん。
抱き上げては笑い、きゃっきゃと笑う子らを見ては笑う。
慈しむ瞳は孫を見るおじいさんだ。
ここに預ければ子らは安心。
オーク達は子らが悲しむ事は決してしない。
そして、何があろうと子らを守ってくれるだろう。
カイ達は仕入れに専念できるというものだ。
「じゃ、行ってくる」
「えう」「む」「行ってきます」
「「「いってらっしゃーい!」」」
『『行ってらっしゃいませ』』
カイは子らに手を振って、主の間を後にする。
そしてランデルで品物を仕入れ、ルーキッドに税を納めて現状を語り、バルナゥの輝く金貨自慢を聞き、ミルトとエヴァンジェリンに愚痴を言い、ソフィアからエルフ絡みの相談を受け、いつも世話になっている飯屋でご飯を食べながら商売の助言を受けてオルトランデルへと戻る。
と……
『カイ様、あちらのお二方は誰でしょうか?』「え?」
「べるてぃあ、おて」『お手です』
「えりざ、おかわり」『おかわりです』
「わぁい!」『『わぁい!』』
お手、おかわり、わぁい。
なぜか子らと共に遊ぶ祝福ズだ。
「いつの間に……あいつら、いつから?」
『カイ様がランデルに出発なされてからすぐでございます。我らの神が懐いているので客人として扱っておりますが、誰なのでございますか?』
首を傾げる老オークに頭を抱えるカイである。
とうとう気付かない内に現れるようになりやがった……
これまでは手袋の中から騒ぐとか膨らむとか何かしらの兆候があったものだが、今回はまるでない。
カイが知らない内に現れ、しれっと子らと遊んでいるのだ。
「お前ら、何も願わなかったよな?」
『願い? そういえば我らの神が遊んでとおっしゃっておりましたな』
「そうか……」
「危なかったえう」「む」「そうですわ。何か願っていたらとんでもない事が起きていたかもしれませんわ」
さすがカイの子。
面倒事をさらっとスルーだ。
『それよりもあの方々は?』「……俺らの神の姿をした祝福だよ」
『は?』「だから、俺らの世界の神ベルティアと、お前らの世界の神エリザの姿をした祝福だ」
『祝福ベルティアです』『祝福エリザです』
『『『なんと!』』』
まじまじと祝福エリザを見つめるオーク達だ。
老オークとて自らの神の姿を見るのは初めてだろう、祝福エリザをガン見。
そして声を限りに叫ぶのだ。
『皆の者、今こそ神に文句を言う時ぞ!』
『そうだった!』『今なら文句言える!』『我らの苦難、元々こいつのせいだもんなぁ!』『身の程知らずなお前のせいで、俺らの苦労が半端無いぞ!』『このやろう!』
『うわぁん!』
三億年もの間食われ続けた世界の恨みはとても深い。
カイとイグドラから経緯を聞いたオーク達、エリザを崇める気まるでなし。
涙目の祝福エリザだが、それだけの事をやっているので自業自得。
彼らの願いを叶えて文句を聞いてやれ。
と、救いを求めるエリザの視線をカイはまるっとスルーする。
『貴方の願いを叶えますから許して下さいーっ!』
『いらん』『あの世界で辛酸をなめた我らがお前に願う訳がなかろう』『どうせロクでもない事が起こるに決まってる』
オーク達、祝福をまるっとスルー。
『我らは崇める神を得た』『我らはぶーさん』『やさしいぶーさん最高!』『我らの神が懐いているからこの程度で勘弁してやるが、懐いているのを良い事に妙なちょっかい出したら目にモノ見せてくれるわ』『我らの神の幸せは、我らが必ず成し遂げる!』『だからお前、ひっこめ』
『うわぁん!』
さんざんである。
『それにしてもさすがカイ様、我らの神の父であらせられるだけの事はあります。イグドラ様、ベルティア様、エリザ……様、そして我らの神を合わせれば六神。六神合体でございますな!』
「こいつらはいらねぇ」『『がぁん!』』
イグドラがギリギリ。
ベルティアとエリザは完全アウトだ。
カイは神をアテにするような人生を送りたいとは思っていない。
地道に技術を磨いて堅実に生活して、ちょっとした運に一喜一憂するくらいがちょうど良いと思っている。
そのちょっとした運でダンジョンの主になったり、ぺっかーと輝いたり、願いで宇宙がヤバくなったりするような人生はいらないのだ。
断じて。
さんざんな目に遭っているカイなら、いらねぇと言うのは当然。
が、しかし……
子らがそれを理解するのは、まだ早い。
「「「ぱーぱ」」」
「ん? なんだ?」
「「「めっ」」」
ぺちぺちぺち。
怒り顔の子らに叩かれるカイである。
「べるてぃあいじめちゃ、めっ」「えりざもいじめちゃ、めっ」「なかよし、なかよし」
「……そうだな。お前達は優しいな」
「「「わぁい!」」」
子らを撫でるカイである。
『『めっ』』「ぐっ……」
そして調子に乗る祝福ズである。
てめえら、今日の夜は折檻な。
子供が寝た後で目にモノ見せてくれるわこのやろう。
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子らの短編書いてみました。
「私、前世は芋煮だったの」と、二人の姉がおかしな事を言い出した……え? 僕もイモニガー?
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