13-6 お前、ランデルでは水触れるの禁止な?
「カイよ、今、爪の垢と言ったか?」「はい」
「爪の垢って、爪の隙間に挟まってるアレ?」「それ以外に何があるんだよ」
「バカなの?」「バカだよ!」
『『がぁん!』』
竜峰ヴィラージュ、ライナスティ家。
カイはルーキッド、システィをはじめとした主だった面々を集めて状況の説明をしていた。
これまでと違って非常に厄介な祝福だったからである。
「あんた、相変わらずのぶん投げね」「さすがカイ!」「わふんね」
システィの言葉ももっともだ。
しかし、カイにもぶん投げなければならない事情がある。
「いや、今回の祝福はこれまでとは訳が違うんだ」
「何がよ?」
「起点が俺じゃなくて俺の爪の垢だからな。煎じれば誰でも呼び出せるはずだ」
今回の力の起点はカイ自身では無くカイの爪の垢。
爪の垢を煎じさえすれば、誰でも強烈な祝福を得る事ができるのだ。
「じゃあ試してあげるから爪の垢ちょうだい」「はいよ」
カイが左右の爪の垢を入れた二つのコップをシスティに渡す。
「……マナに特別の動きも無いし、普通の爪の垢ね」
システィはまずじっくりと見つめ、マナを見て、匂いを嗅ぎ、指でつつき、何かの魔道具で調べた後にお湯を沸かして垢を入れる。
湯気と共に現れるのは右の爪の垢の神、ベルティアだ。
『貴方の願いを叶えます』「……ホントに出るのね」「だよ」
「布巾ちょうだい布巾」『願いは叶えられました』
システィはまず驚き、誰も困らない願いを言って布巾をゲットする。
そして、ざばぁ……
崩れたベルティアが残した水たまりを布巾でふきふき後始末。
さすがシスティ。ムダがない。
「なるほど。あんたの爪の垢があれば誰でもどこでも呼び出せるのね。激ヤバじゃない」「そうなんだよ」
システィも納得。
今のカイはどこかにうっかり爪の垢を残す事すらできない身の上なのだ。
そして、煮込み過ぎ料理も作れない身の上。
芋洗いや皮むきで爪の垢がうっかり入ったら、芋煮からベルティアとエリザが現れ『貴方の願いを叶えます』だ。
何をするにも願いで得た手袋必須なのである。
「と、いう訳で……どこかに残った俺の爪の垢からこいつらが出て来るかもしれん。煎じないよう注意してくれ」
「「「アホか!」」」「さすカイ!」
カイの言葉に叫ぶルーキッド、システィ、ベルガら為政者達。
活動範囲に暮らす皆からすればまさしく死活問題。
喝采しているのはカイ全肯定のアレクくらいだ。
「なんだ? 雨降ったあとの水たまりにたまたまお前の爪の垢が入っていたら、陽の光で水が温められただけで出てくるのかこいつら?」「……かもしれん」
「カイよ……我らの神は、アホなのか?」「はい」
「そこは断言なのね」「当たり前だ」
『『がぁん!』』
ベルガがカイに詰め寄り、ルーキッドが頭を抱え、システィが呆れ、カイが頷き、再び煎じて出したエリザとベルティアがショックで叫ぶ。
「というか、本当にベルティアとオーク達の神エリザなの?」
「エリザはとにかく、ベルティアは一度会った事があるからな」
「えう」「む」「はい」
システィにカイが頷く。
カイ、ミリーナ、ルー、メリッサはイグドラを天に還した時に一度だけベルティアに招かれている。
カイが最近まで神の世界にいた幼竜達を見ると、ルドワゥ、ビルヌュ、マリーナが頷いた。
『間違いない』『おう、間違いなくベルティアとエリザだぜ』『はい』
『我は二億年前に顔を見たきり故そこまで断言はできぬが、ビルヌュ、ルドワゥ、マリーナが言うなら間違いないだろう。それにしてもクソ大木といい、陰湿者とその丁稚といい、この世界の神はバカしかいないのか……』
「聖樹様も困った方でしたが、ベルティア様も困った方なのですね」
呆れるライナスティ家。
そしてあまりの評価に怒れるベルティアとエリザだ。
『カイさん、バルナゥに折檻を願ってください』「嫌だよ!」
『えうーっ!』「エリザはえう禁止!」『……はぁ?』「嫌なのかよ!」
ベルティアよ、バカにされたからって願いを要求するんじゃない。
そしてエリザ。えうはミリーナだけで十分だ。俺の聞こえない所で叫んでくれ。
願ってくれと要求し、嫌な願いは聞き流す。
ただ力だけを送ってきたこれまでとは違い、神の欲望だだ漏れだ。
こんなだから何やらかすかわからない。
バルナゥのダンジョンであるライナスティ家で相談しているのも、やらかした時に被害を少しでも抑えるためだ。
「で、どのくらいの事ができるのこの祝福?」
『願いは叶えられ「あ! 言うだけでいいからね? やらないでね絶対!」……ました。この星を消し飛ばすくらいは楽勝です』『十光年は楽勝ですね』
「いや、そんな願いは却下しろよ? 絶対却下しろよ?」
『『願いは叶えられました』』
ざばぁ……
また崩れるベルティアとエリザ。
カイはまた爪の垢を煎じ、再びエリザとベルティアを出す。
爪の垢で宇宙がピンチ。
しかし宇宙よりもまず領地。頭を抱える為政者達だ。
「我がランデル領はどこで炸裂するかわからんぞ……」「エルフの里もやばい。やばすぎる」「とりあえず、今存在する爪の垢を全部回収するよう願ったら?」「「それだ!」」
『『願いは叶えられました。レッツ爪の垢!』』
ざばぁ……
爪の垢に入れ食いな駄神である。
「アホだな」
「アホえう」「む。アホ」「アホですわ。まったくもってアホですわ」
「さすカイ!」「わふんね」
まあ結果オーライだ。とりあえず不意の爪の垢炸裂はこれでない。
カイは皆が納得するまで爪の垢を煎じ、為政者達は頭を抱え続ける。
『こんなのが我らの神だとは情けない。本当に情けない……』
『俺らが家でニートしている頃はまともだったのになぁ』『少なくとも真面目だったぞ』『カイがたぶらかしたので道を踏み外しましたねぇ』
『のじゃ』
「さすがカイ!」
「えーっ……俺のせい?」
「カイ、たぶらかしたえうか? たぶらかしたえうか!?」「む、エヴァ姉をさしおいて口説き?」「そうですわ! 新たに妻を迎えるならエヴァ姉さん! これだけは絶対に譲れません!」
「ならないわふんよ?」
「いやいや何もしてないから。してないから!」
そんな神に振り回されるカイも毎日大変だ。
「とりあえずカイ」「はい」
「自宅以外のランデル領では手袋必須。あと絶対に水に触れるなよ?」「ビルヒルトではいつでも絶対手袋ね」「エルフの里でもな」
「……はい」
そして、そんなカイに振り回される為政者達も大変だ。
同情しても、他に被害があれば容赦はしない。
そしてぶん投げた分はぶん投げ返す。
為政者達はその権限でカイをきっちり制限するのであった。
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「私、前世は芋煮だったの」と、二人の姉がおかしな事を言い出した……え? 僕もイモニガー?
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