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13-4 カイ、エルフの里を繋ぐ街道を作る

「……外に出る道が、ないぞ?」


 一周ぐるりと回ったカイは、畑を前に呟いた。


「周囲が全部畑えう」「むむ理想的」「まさに畑に全振り。素晴らしいですわ!」

「いや、理想的でも素晴らしくもないから」


 里の中に道はあっても、外に続く道はない。


 どこから出入りしてるんだこの里は?


 と、カイは思ったがエルフは基本徒歩。

 きっと作物の間でも歩いているのだろう。


 カイは馬車を操り広場に戻る。

 いまだ行商の品で盛り上がるカージェの里の皆がカイを迎えた。


「おぉ、さすがカイ殿。もう次の行商でございますか?」

「「「カイ殿いらっしゃいませ!」」」

「違うぞ。この里、外に出る道はないのか?」

「「「は?」」」「なぜ、外に出る必要が?」


 カイの言葉にカージェの里の皆は首を傾げ、長老がカイに問う。


「いや、他の里と交流するだろ?」「はい。カイズ殿を使わせて頂いております」「行き来はしていないのか?」「はい」

「……は?」「は?」


 カイが首を傾げ、長老が首を傾げる。


「行き来、してないの?」

「はい。ここだけでもご飯がお腹いっぱい食べられるのに、なぜ他の里と行き来を行う必要が?」

「お前ら、本当に食に全振りだな……」


 そういえばエルネはボルクと一年に一度、ホルツは百年に一度程度と言ってたな。


 と、カイはミリーナとルーが昔言っていた事を思い出す。

 ピーなエルトラネは別格としてエルフの里などこんなもの。

 ひとりでも生きていけるので他と交流する必要がないのだ。


「それに、我らは異界を通じてここに根付いたエルフです。他のエルフの里がどこにあるかも知りません」「あー……異界経由で来たのか」「はい」


 システィ……お前も苦労してるなぁ。


 今も虫食い状態のビルヒルト領の惨状に、心で涙のカイである。 

 異界を繋がねばエルフは不安で作物を作りまくり、ビルヒルトを食いまくる。


 この里はオルトランデルの通路ダンジョンからはるか離れた超奥地。

 直接の交流がないのも仕方ない。

 道がないのも仕方ない。


 カイは考え、シャルに言った。


「シャル」『なぁにー?』「エルフの里を道で繋ぐぞ」『食べるのー?』「そうだ」『わぁい!』


 本当は自分達で作って欲しいが、こいつら作りそうにない。

 最初くらいは作ってやっても良いだろう。


 カイはシャルにランデル街道の広さと勾配を参考に作ってくれとお願いし、分割シャルはアトランチスに点在するエルフの里から他の里に向かい道作りを開始する。


 これでよし。


 カージェの里からどこかの里に向かって道を食べ造りはじめた分割シャルを眺めて頷くカイである。

 シャルが食べた後に残るのは馬車も通れる土の道。シャルもカイも満足だ。


「じゃ、俺らは帰ろう」

「えう」「む」「はい」

『僕、頑張ってねー』『そっちもねーっ』『『わぁい!』』


 さすがに道作りに付き合ってはいられない。

 これから戻って仕入れて次の里へと行商だ。急がなければ予定が狂う。

 カイを乗せたシャルは空を駆け、空間を跳ぶ。


 それを見たカージェの里の長老は呟いた。


「なんだ。カイ殿も道など必要ないではありませんか」


 そして一週間後……

 やはりカイは頭を抱えるのである。


「なんだこれ?」

「畑えう」「む。畑」「畑ですわね」


 行商を終えたカイが空を駆けるシャルから見下ろすのは、道のように見える畑だ。

 シャルが作った道にこんもりと畝が伸び、作物がたわわに実っている。

 細長い畑が延々と続いているのだ。


「つーかどこまで続いてるんだよこの畑」


 丘を越え、山を越え、川を越え……延々と続く畑を追いかけ続けたカイはやがて、カージェの里へと到達した。


「おおカイ殿、わざわざ雑草むしりをして頂きありがとうございます」

「違うよ! 道だよ!」


 長老の言葉にカイが叫ぶ。


「なんで畑なんだよ。これじゃ馬車とか通れないだろ!」

「カイ殿は空を飛んでいるではありませんか」

「うっ……いや、お前らもそのうち作物を馬車で売ったりするだろう?」

「どこでも作りまくりなエルフの里で、作物の取引があるとでも?」

「ううっ……」

「作物を欲するのは今のところカイ殿くらいですよ」


 あぁ、こいつらやりにくいなぁ……


 祝福持ちの自給自足種族にカイは頭を抱えた。


 しかし、祝福が強力なのは今だけだ。

 いずれはシャルのような世界樹が祝福する形に変わる。

 エルフは今より弱くなるのだ。


 エルフが育てる世界樹の主食はマナ。

 育てば異界を食うようになる。

 シャルがやったように、強力な異界の侵略を招く事もあるだろう。

 その時にエルフの里が協力できねば世界が異界に食われてしまう。


 エルフが世界樹を見捨てればイグドラは怒り、エルフを再び呪うだろう。

 エルフは脳天気に考えているが、未来はそこまで明るくはないのだ。


「それに道などなくともビルヒルト経由で移動が出来るではありませんか」

「システィはそのうち異界を閉じる。異界を通路として使えるのは今だけの特殊事情なんだよ」

「なぜカイ殿に異界の事がお分かりに?」

「うちの子が救った異界だからな」

「なんと!」

「「「さすがあったかご飯の人!」」」


 今の異界と世界の繋がりは神同士の都合により成立している。

 マナが移動する以上、繋がりには損得が発生する。

 損する側がいつまでも損失を受け入れる訳がないのだ。


 ……ちょうどいいはっちゃけもあるし、ぶっちゃけてもらうか。


「シャル、お湯」『はぁい!』


 カイは左手袋を外してシャルの用意した湯につけると、たちまち現れる世界の神エリザだ。


『あなたの願いを叶えます』

「カイ殿! そ、それは?」

「お前達が通り道にしている異界の神エリザだ」


 驚愕する長老にカイは言い、現れたエリザに聞いた。


「エリザ、お前はこの世界の異界をどれだけ維持するつもりなんだ?」

『カイさんと子供達が生きている間はがっちり維持しますが、その後はベルティア先輩との関係次第ですねぇ……今の繋がりだと私の方が損なので』

「だ、そうだ。だから次の世代に色々教えてやらんといかんのだ」「なんと!」

『願いは叶えられました』


 ざばぁ……

 爪の垢を対価にしれっと神の都合を暴露して、エリザは去る。

 驚愕した長老が叫んだ。


「カイ殿、是非とも不老不死におなり下さい!」

「嫌だよ! お前らが努力しろ!」


 俺にぶん投げるんじゃない! 


 そこら中にぶん投げまくる自分をさらっとぶん投げて、カイは叫ぶのであった。

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「私、前世は芋煮だったの」と、二人の姉がおかしな事を言い出した……え? 僕もイモニガー?

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世界樹エルフ
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