13-3 お前ら、食に全振りし過ぎ
カイは行商人である。
ランデルやオルトランデルで日用品を仕入れ、ビルヒルトやアトランチスのエルフの里に運び、売る。
ランデルのエルフの里ではランデルやオルトランデルに出向き直接求めるエルフが増えたが、ビルヒルトやアトランチスではカイの行商の独擅場。
カイが忙しければカイズが行き、それもダメならシャルが行く。
エルフは食への執着半端無い。
だから食以外の商品などエルフは本来見向きもしない。
使えば良さがわかるものも使わないのでわからない。
だから欲しがる事もない。
こんなエルフの思考を開拓するのがカイだ。
カイに大恩あるランデル界隈のエルフが首を傾げながらも買って使い、食に効果ありと判断するや皆がこぞって買い求め、それを見た他のエルフの里が我も我もと求めてくる。
カイに対するエルフの信頼がもたらした結果だ。
「カイスリー、今日の行商はどこだ?」
「カージェの里。アトランチスの奥地だな。かなーり奥地だぞ」「かなーりか?」「かなーりだ」「うわぁ……」
ランデルで仕入れを終えたカイはカイスリーに次の行商予定地を聞き、げんなりとため息をついた。
アトランチスは広い。
そして人間はひとりもおらず、少し前までエルフもいなかった。
だからアトランチスの地は早い者勝ちだ。
オルトランデルへと続く異界トンネルが近い地は利便性の面もあって瞬く間に里で埋まり、今では割り込む余地も無い。
それならば奥地で広い土地を耕そうと新たに入植した里は奥へ、奥へと入り込み、カイが大雑把に天地創造した新天地を開拓している。
自給自足が可能となったエルフは一人でもたくましく生きていける。
土地さえあれば何とかなるのだ。
なお、人気がないのは廃都市アトランチス付近だ。
植物の浸食を全く許さない都市がどどんと土地を埋めているからである。
完全な邪魔者扱いであった。
「お前、この里はビルヒルトにぶん投げてそれっきりだろ。いつもは俺らカイズが相手してるが、たまにはお前も行ってやれ」
「まあ、そうだな」
どのみちシャルを使えばすぐだ。
シャルや異界をアテにするのはあまり良くないなぁと思いながらも便利だから手放せない。なかなか厄介なものである。
まあ、今はまだいいか。
生きてる内に何とかしよう。
と、未来の自分にぶん投げて、カイはシャル馬車に乗り込んだ。
『行くー?』「ああ」『しゅっぱーつっ』
ひひーん、ぶるるっ……
ガラガラガラガラしゅぱたたばびゅんっ!
ランデルからオルトランデルまでは普通に馬車として走り、オルトランデルからアトランチスまでの異界トンネルはシャル足で駆け、アトランチスでは空間を跳ぶ。
『ついたーっ! シャル馬車商店変形ーっ!』
さすがはシャル馬車。あっという間に到着だ。
カイはカージェの里駐在のカイズの案内で店を開き、里の長に挨拶し、里の皆の歓待を受け、商品を売る。
「歯磨きください!」「石鹸! アワアワ!」「鍬欲しいです!」「鍋!」
「まいど」「まいどえう!」
定番の歯磨きセットと石鹸、農具はいつものように良く売れる。
最近はそれに加えて鍋や食器も売れるようになってきた。
エルトラネ製はマナを食い、自作は材料の調達や加工に手間がかかる。
そんなマナや手間をかけるなら畑を耕すというのが今のエルフのトレンド。
畑を耕し、食べられない程たくさん作って余りを道具と交換する。
エルフなりの商売の始まりだ。
まあ、どの里もそんな感じなので、今はカイしか買う者がいないのが問題だが。
「完売だ」
「まいどえう!」「む。ありがとう」「ありがとうございました」
しかしそれも時が解決してくれるはず。
もうエルフが呪われていた時代は終わっているのだから。
「カイ殿、今度は料理方法などもお教え下さい」
「んー、マオに何か書いてもらおうか」
「心のエルフ店のマオ殿に! ぜ、ぜひお願いします!」
「わかった。頼んでみるよ」
おぉおおおおおおめしめしめしめし……
後のエルフのバイブル『心のエルフ店料理』誕生の瞬間をさらっと流し、カイは店を片付け、シャル馬車に乗り込んだ。
「またおいで下さいませ。作物をたくさん作ってお待ちしております」
「いや、お前らも道具とか作れよ」
「「「食べ物以外に時間をかけるなんてもったいない!」」」
ひひーん、ぶるるっ……
どの里でも行うやりとりの後、カイはシャル馬車で出発した。
「今回も完売だったえう」「む。奉行芋煮も安定完売」「交換した食料もたくさんですわ!」
『食べていいー?』「売れ残ったらな」
『売れ残れー!』「売れないと俺が困る」
そんな会話をしながら里の外れまでのんびり走り、カイは馬車を止めた。
ここまで来たのはただの気まぐれだ。
たまにはゆっくり景色を眺めて戻ってみよう。
そんな軽い気持ちで馬車を走らせたのだが、この里はどこかがおかしい。
いやいや、そんな事は……
と、カイは馬車を再び走らせる。
進路を阻む畑の脇を走り、曲がり、走り、曲がり、走って里を一周する。
そして、首を傾げて呟いた。
「……外に出る道が、ないぞ?」
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