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13-2 手汗の匂い染みついて、蒸れる

 ……疲れた。

 リフレッシュする為なのにめっさ疲れた。


 エルネの里、カイ宅。

 露天風呂から出たカイは寝間着に着替え、ピーとおやすみのキスをした後ばったりとベッドに倒れ込んだ。


 その手には先程願った手袋がぴっちりとはめられている。


 爪の垢を対価に願い得たこの手袋は強力な魔道具だ。

 露天風呂で試してみたが水は完全シャットアウト。

 そして見た目は素手と全く変わらない。

 装着時のわずらわしさもまるでなく、素手と同じように手が動く。

 さすがは魔道具だ。


 ちょっと蒸れる感じもあるが、あいつらが出て来るよりはるかにマシ。

 カイは眠るミリーナとルーの真ん中で、二人を抱き寄せ目を閉じる。

 そして心の中で勝利宣言。


 さらば神々よ。二度と出て来るな!


 疲れと妻達の温もりが、カイを夢の世界へ連れて行く。


 しかし……カイは忘れていた。 

 魔道具の手袋をしたまま眠りについていたことに。


 そして次の日。

 やはり事態は悪化するのである。


「起きるえう!」「カイ!」「カイ様! 起きて下さいカイ様っ!」

「ん……?」


 ゆっさゆっさと左右から揺すられて、カイが目を覚ますと視界いっぱいに広がるミリーナ、ルー、メリッサだ。

 カイは目を開いたとたん、三人に胸ぐらを掴まれ引き起こされた。


「な、なんだ?」

「カイ! この女達は誰えええう!」「つつ妻が寝ている間に連れ込むとは」「あんまりですわ。あんまりですわカイ様!」

「待て! 女達? 何の事だか『『あなたの願いを叶えます』』おぉいっ!」


 言葉に視線を向ければ左にはエリザ。右にはベルティアだ。

 風呂でもないのに二人が出現しているのだ。


「なんでだ!?」


 と拳を握ればヌルリ感じる汗の感覚。

 完全防水の手袋は外の水をシャットアウトすると同時に中の水が外に出るのもシャットアウト。

 寝ている間に汗が内部にたまったのだ。


 くそぉ、汗か! 俺の汗か!

 手袋の中で俺の汗が手垢を煎じたのかこんちくしょーっ!


 カイが頭を抱える中、妻達が絶叫する。


「カイが、カイが浮気してるえう!」「むむむ知らない女を妻が寝ているベッドに連れ込むとは」「カイ様がおモテになるのは重々承知しておりますが、よりにもよって家の中で、寝室で、それもミリーナとルーを抱き寄せながらどこの馬の骨とも知らない女を二人も、二人も連れ込んで……!」


 ちなみにメリッサは寝ている間はピーなので、寝ていたり寝ていなかったりする。


「いや違うから! バカ神とその丁稚だから!」

「えうーっ!」「ぬぐぅ!」「ふんぬーっ!」

『『あなたの願いを叶えます』』「やかましい! お前らも誤解を解け!」


 カイが叫ぶと願いと判断したのだろう、エリザとベルティアは首と手をフリフリと横に振った。


『いえいえ、浮気ではありませんよ?』『カイさんが浮気をする訳ないではありませんか』『カイさんと私達とは昨夜会ったばかりの間柄』『たまたまお風呂で裸のお付き合いをしただけです』

「おぉい!」

「裸の付き合いえうーっ!」「エヴァ姉さんを差し置いて、こんな女と裸の付き合い!」「一人で露天風呂に入った理由はそれだったのですね! キーッ!」


 嘘は言っていない。

 言っていないが怪しさ爆発。

 ますますヒートアップする妻達だ。


『ですから誤解です』『誤解ですってば』

「えうーっ!」「ぬぐぅ!」「ふんぬーっ!」


 そしてエリザとベルティアもなかなか消えない。

 誤解が解けていないからだ。


「俺の心を読んでくれーっ!」

「心が乱れて無理えうーっ!」「腹が立って腹が立って心読むのは難しい!」「そうですわ! ピーならこんな時でも心を読めるはず……ぷるるっぱ、ぽぺんぷぱらんぷぱっ!」「意味がわからないえう!」「ぬぐぅ!」


 寝室は阿鼻叫喚。

 幸せ家族の大ピンチ。


 そんなカイ一家を救ったのは騒ぎを聞いて現れた幼竜マリーナだ。


『あら、ベルティア様にエリザ様ではありませんか。お久しぶりです』


 さんざんお世話になっていたのだから当然顔も覚えている。

 マリーナは長い首を振りながら二人に笑い、頭を下げる。

 そして思い出すミリーナ、ルー、メリッサだ。


「えう? そういえば見覚えあるえう! ひいばあちゃんを紹介した神にそっくりえう!」

「むむ! 言われてみれば確かに!」

「本当ですわ! ベルティア・オー・ニヴルヘイムですわ!」


 たちまち落ち着く妻達だ。


「……あの神なら納得えう」「む。あの神なら仕方ない」「仕方ない事ですわ。あの神ならまったく仕方ない事ですわ」

「「「バカ神だから」」」


 おいバカ神、いいのか? これでいいのか?

 少し不憫になるカイである。


「あの神にカイが浮気とか、ないえう」「む。絶対ない」「あり得ませんわ。カイ様があの変態迷惑ストーカー神にご執心なんて天地がひっくり返ってもあり得ませんわ……すぺっきゃほーっ!」

『『願いは聞き届けられました』』


 誤解が解けてさばぁと崩れる神である。


 いいのか? 本当にこれでいいのかバカ神共?

 俺はこれでいいがお前らは俺の爪の垢で納得なのかバカ神共!?


 そして妻達に事情を説明したカイは再び願うのだ。


『『あなたの願いを叶えます』』

「この手袋を蒸れないようにして下さい」


 と。

サブタイのために書きました。

久しぶりにボトムズ見たくなったな。


一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

書店でお求め頂けますと幸いです。


子らの短編書いてみました。

「私、前世は芋煮だったの」と、二人の姉がおかしな事を言い出した……え? 僕もイモニガー?

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世界樹エルフ
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