13-1 あなたの願いを叶えます
「はふううぅぅぅぅぅ……」
エルネの里、カイ宅。
その夜カイはただ一人、露天風呂でくつろいでいた。
湯は透明。
井戸の水をマリーナのブレスで温めたものだ。
芋煮蛇口は子らが「「「たべないの?」」」と首を傾げたので封印した。
食べ物と思っている芋煮を風呂に使う訳にはいかない。マリーナががっかりしていたが子供の教育上よろしくないので封印する事にしたのだ。
子らは変わっていく。
今は二本の足で器用に歩き、カイや家族について回る。
ぶぎょーと叫び転がっていた頃が夢のようだ……
と、過ぎゆく時に嬉しさと寂しさを感じるカイだ。
しかし……あいつら程ではないな。
カイは空を見上げて思う。
空に浮かぶ月は明るく、誰もいない広場を照らしている。
一ヶ月。
あの月の満ち欠けが一周する間、オーク達は子らに隠れて泣いていた。
子らの成長を喜んでいても心はすぐには切り替わらない。
子らの前では優しく笑い、子らが眠る夜に泣く。
彼らの心に通路ダンジョンが泣き、傘がなければずぶ濡れになったほどだ。
それも今は泣き終わり、いつものダンジョンに戻っている。
オーク達もすっかりやさしいぶーさん。
皆、未来を受け入れ変わっていくのだ。
カイは露天風呂の中に浮かび、夜の空を眺めて漂う。
用事で時間が合わなかっただけだが、たまには一人風呂もいい。
広い露天風呂は全てカイのもの。
大の字になって浮かんでも誰の邪魔にもならないのは素晴らしい。
子らや妻達と一緒に入っていたならこんな真似はできないだろう。
これはいいな……ミリーナ、ルー、メリッサにも教えてやろう。
と、カイが思ったその直後、ずぅうううおおおっ……と、大の字になって漂うカイの左右の湯が盛り上がった。
「ぬぅあっ!」
水面が踊り、浮かんだカイをもてあそぶ。
露天風呂の中を流されながらもカイは何とか立ち上がり、盛り上がる湯に身構えた。
何かは分からないが、ロクな事ではあるまい。
どうせまた奴らの仕業だ。
と、全裸のカイが睨む先で湯はうねりながら形を変えて、やがて女性の姿となった。
湯の像だ。
カイの左右、二人の湯の女性が立っている。
左の女性は知らないが、右の女性は見た事がある。
カイは記憶をたぐり寄せ、一人の女性に行き着いた。
……そうだ、うちのバカ神だ。
ベルティア・オー・ニヴルヘイムだ。
あのバカ神、とうとう乗り込んできやがったああぁあああ!
妻達と共に一度だけ会った事のあるはっちゃけ神の顔を思い出し、カイは頭を抱えた。
が、しかし……
『『貴方の願いを叶えます』』「……は?」
『『は? は、とはどんな願いですか?』』「……願い?」
しかし、どうも本人にしては反応がおかしい。
カイは恐る恐る聞いてみた。
「すみません。説明をお願いします」『それが願いなのですね?』「はい」
まあ、願いといえば願いだ。
カイが頷くと湯のベルティアが語り出す。
『貴方の爪の垢を煎じると私達が現れ、願いを叶えるのです』
「つまり……俺が風呂に入ると、あなた方が出て来ると?」『はい』「アホか」
『願いに応えた爪の垢は神に捧げられます』「アホか!」
再び頭を抱えるカイである。
俺の爪の垢を得て何になるんだよ。
小さすぎてあるかどうかも分からんだろうが。
なんだろう、うちの神がどんどんアホになる……
『願いは聞き届けられました』
ざばぁ……
湯のベルティアが崩れ、露天風呂に消えていく。
あぁ、俺の爪の垢を持って帰ったのね……
と、アホな神に目眩を感じるカイである。
湯のベルティアは去った。
しかし……もう一人は今もそのままだ。
『あなたの願いを叶えます』「……誰だ、お前?」
『それが願いなのですね?』「はい」
『私はエリザ・アン・ブリューと申します』
エリザ……ああ、エリザか。
ぶーさんの所のバカ神か。
『願いは聞き届けられました』
ざばぁ……
湯のエリザが崩れて消えていく。
後に残るは波打つ露天風呂。ベルティアもエリザも消えている。
カイは胸をなで下ろした。
こんな簡単な事で消えてくれる分だけ成長したのかもしれないな。
神も成長するんだなぁ……
と、安心したカイが湯船に浸かれば再び盛り上がる水面。
『『貴方の願いを叶えます』』
「おぉい! 俺が風呂に入る度に出て来るのかよ!」
『『爪の垢がまだ残っていますので』』「えぇいもう爪の垢全部持ってけ!」
『『願いは聞き届けられました』』
ざばぁ……
二人が再び消えていく。
今度こそ大丈夫だよな?
爪の垢は全部持って行ったもんな。
と、カイが恐る恐る湯船に浸かればまたまた盛り上がる水面。
『『貴方の願いを叶えます』』「爪の垢は全部持って行ったんじゃないのかよ!」
『『垢は常に生み出されていますので』』「もう俺の爪の垢が二度と出来ないようにしてくれ!」
『『……はぁ?』』「願いを聞くんじゃないのかよ!」
『『貴方の願いを叶えます』』
何があっても出て来るつもりなんだなこのやろう!
成長とは良い方向だけに起こる事ではない。
バカ神のバカ成長っぷりに頭を抱えるカイである。
『『あなたの願いを叶えます』』
「……完全防水の手袋を、ください」
爪の垢を欲するバカ神に、カイは願った。
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子らの短編書いてみました。
「私、前世は芋煮だったの」と、二人の姉がおかしな事を言い出した……え? 僕もイモニガー?
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