師匠、ダメ出しの末にはっちゃけを発動させる
「はぁーい、イグドラちゃーん、あーん」
「あーん、ぱくり、もぐもぐ……」
「美味しい?」「美味しいのじゃ……」
世界主神ベルティア宅、仕事部屋。
植木鉢の中でイグドラは和服幼女にご飯を貰っていた。
イグドラの何とも微妙な顔とは違い、和服幼女は喜色満面。
一口食べれば歓喜にはしゃぎ、また一口食べれば歓喜に悶える。
彼女はマキナ・エクス・デウス。
ベルティアとエリザの師匠であり、二人が束になっても歯が立たない上位格神だ。
世界をひとつしか持たないベルティアやエリザと違って幾万もの世界を管理し、三億年前にイグドラが世界に堕ちた際、押し寄せる敵対世界に自分の丁稚世界をぶち当て潰してベルティア世界を救った神でもある。
「マキナ先輩、入り浸りですね」
「当然です。せっかくのイグドラちゃんからの申し出ですもの。一秒たりとも無駄にはできませんわ」
そんなマキナがどうしてベルティア宅にいるかと言えば、先日のアトランチス異界顕現騒ぎで力を貸したからである。
祝福を食うために侵攻してきたベルティア世界よりも上位の世界に、イグドラはより上位の世界をぶつけて対抗したのだ。
それで顕現したのがあの巨神……カイ基準では……だ。
巨神は圧倒的な力をもって上位世界の侵攻を雑草のようにぶっこ抜き、何も取らずに帰って行った。
しかし巨神は何も取らずとも、派遣したマキナは対価をしっかり貰っている。
大好きラブリーなイグドラとのふれあいタイムだ。
いつも邪険にされるイグドラが頭を下げて願い出る様にマキナは超絶大興奮。食事の世話を対価にベルティア世界を助けたのだ。
「先輩。あんな事をして頂けるのなら三億年前に助けて下さいよ」
「私はしっかりイグドラちゃんを助けたではありませんか。自分の大切な世界を犠牲にして」
「……」
いやぁ、処分世界の間違いではありませんか?
胸を張る和服幼女に、ベルティアは心で呟く。
基本放置のベルティア世界やエリザ世界とは違い、マキナ世界は超絶管理世界。
その管理は人はおろか、ハムスター、トカゲ、クワガタムシ、コガネムシ、ダンゴムシにまで及んでいる。
放置しているのはミドリムシなどの微生物以下。
世界に有益と判断されれば格上世界に転移、害と判断されれば格下世界に転移。完全にダメなら抹消だ。
マキナがぶん投げた世界は彼女が不要と判断した者達の世界。
まさに地獄。まさにディストピア。
マキナはそのような徹底した管理を行い、神格を急激に上げた神なのだ。
そして不幸な事に、この場にはマキナに世界を投げられた神がいる。
エリザだ。
えうに心酔する彼女の安息の地に天敵来襲入り浸り。
毎日が針のむしろだ。
「あぁ、安息の地が、えう崇拝の聖地が……」「あらエリザ、また世界を投げてあげましょうか?」「心置きなくイグドラ様とのふれあいをお楽しみ下さい申し訳ございません」「よろしい」
三億年前ベルティア世界に侵攻したエリザは、マキナに世界を投げられまくったひとり。
多くの神が世界を失い路頭に迷ったのに何とか生き延びているのはさすが弟子。
弟子は師匠のクセや振る舞いを熟知しているものなのだ。
「あぁ、今日も最高でしたうふふ。あなた方がゲリさんと呼ぶあの男のおかげですねうふふふふ」「「カイさんですよぅ」」
マキナは鼻歌を歌いながらイグドラに食事を与え、満面の笑みで弁当箱を閉じた。
可愛いイグドラには甘い顔。
しかしベルティアやエリザにはあくまで師匠。厳しい顔だ。
「しかし、あなた方は本当に情けないですわね。米粒写経とかアホな事をやってないで真面目に世界を運営なさい」「「ぐっ……」」
心に突き刺さる言葉である。
「そして床で転がってうにょんと踊るんじゃありません」「「ぐはっ……」」
また心に突き刺さる言葉である。
「なんで知っているんですか!」「イグドラちゃんある所マキナあり! 私はフルタイムでイグドラちゃんを愛でているのです!」「盗撮だーっ!」「変態だーっ!」「ホホホホホ。悔しいなら私の目を遮ってみせなさい。その程度の事も出来ないから米粒写経とかうにょんとかアホな事で堂々巡りしているのです」「「ぐううっ……!」」
グサグサ心に突き刺さる言葉にのたうち回るベルティアとエリザ。
そんな二人を蔑むように見下ろしたマキナは、画面に映るカイに目を移した。
「今のあなた方よりもこの男の方がよほど神にふさわしいですよ。自分に出来る事を着実に行い、出来ない事はぶん投げながらも決して捨てる事はない。そうして周囲を育て耕していく様は神の如き模範的丁稚」「「丁稚じゃないです。カイさんです」」
「だまらっしゃい。あなた達、この男の爪の垢でも煎じて飲みなさい」
マキナの言葉にベルティアとエリザが拳を握って震わせる。
「「そんな事が出来るものならとっくに……くううっ!」」
「どうして乗り気なのですかあなた達は……」
そして、世界にまたまた変化が訪れる。
「……のう、ベルティアにエリザよ」
世界を見つめていたイグドラが静かに告げる。
「カイの爪の垢が、大変な事になりおったぞ」「「へ?」」
慌ててベルティアが調べれば、見つかるのはいつものはっちゃけだ。
「爪の垢に祝福? 煎じれば願いが叶う?」「ベルティア先輩、またすごいはっちゃけを……」「私だけのせいにしないで下さい。あなたも同罪ですよエリザ」「ええーっ……」
そんなザマにマキナは呆れ……笑うのだ。
「あなた方のアホさは師匠として情けない限りですが、今回の事態を私は大いに歓迎いたします。手に負えないトラブルが発生したらすぐに私を呼びなさい。今度はイグドラちゃんに何をしてもらおうかしらうふふふ……」
「ぐぬぅ……!」
マキナの不気味な笑いにガクブル半端無いイグドラだ。
ギリギリ神のイグドラとマキナの実力差は歴然。
何をされてもどうしようもない。
だから、イグドラは心で願うのだ。
カイよ……余の為に、余の為に爪の垢を守り抜いてくれい!
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